アフロビーツとUK
19世紀以降、1960年に独立を果たすまでイギリスの植民地だったナイジェリアは、同国との関わり合いがとても深い。当然英国にはナイジェリア系移民も多く、それはガーナについても同様である。そういった背景から両国のアーティストやDJの交流は盛んで、アフロビーツはUKで新しいダンス・ミュージックとして受け入れられて広がっていった。バーナ・ボーイが「UKは2番目のホームだ」と語るのも納得である。
英国でアフロビーツが一般化したきっかけのひとつは、ガーナ系イギリス人のフューズ・ODG(Fuse ODG)が2013年に発表した“Azonto”で、〈アゾント・ダンス〉のブームを生んだこの曲によってアフロビーツは拡大していく。
UKではその後、2010年代中盤にロード・ラップやグライムといったUK独自のヒップホップとアフロビーツが融合。J・ハス(J Hus)らによるその発展型は、〈アフロスウィング(Afroswing)〉ないし〈アフロバッシュメント(Afrobashment)〉と呼ばれるようになる(〈バッシュメント〉とはダンスホールのこと)。
アフロビーツと北米のポップスターたち
2010年代半ばには、アフロビーツのシーンから世界的なスターが生まれる。このあと詳しく紹介するウィズキッド、バーナ・ボーイ、ダヴィドの3人は、現在欧米でも広く知られている才能だ(2020年、奇しくも彼らはそれぞれニュー・アルバムを発表している)。
アメリカのアーティストたちがこれを見逃すはずもなく、トレンドを先取りすることで知られるカナダのドレイクは“One Dance”(2016年)でウィズキッドをフィーチャーし、ウィズキッドとアフロビーツ・サウンドを北米に紹介するのに一役買った。アメリカとナイジェリアのアーティストの交流はこの前後から盛んになり、いまや両国のアーティストが共演することは珍しくない。
また、マーベルのスーパー・ヒーロー映画「ブラックパンサー」(2018年)と、それに伴うケンドリック・ラマーが仕切ったアルバム『Black Panther: The Album』も重要だ。アフリカ性を全面に打ち出した「ブラックパンサー」は、世界的なアフリカン・カルチャーへの注目度を高めた。
ただし、『Black Panther: The Album』には、西アフリカのアーティストは参加していない。なので、アフロビーツとの関連性は薄いものの、ベイブス・ウドゥモ(Babes Wodumo)とスジャーヴァ(Sjava)ら、南アフリカのミュージシャンが客演している。
より重要なのはビヨンセのアルバム『The Lion King: The Gift』である。ディズニーがリメイクした映画「ライオンキング」(2019年)のために作られた同作には、西アフリカと南アフリカのヴォーカリストやプロデューサーが多数参加している。ナイジェリアやガーナのアフロビーツ系アーティストに限って言えば、テクノ、イェミ・アレイド(Yemi Alade)、ミスター・イージー、バーナ・ボーイ、ウィズキッド、ティワ・サヴェージ、シャッター・ワーレイ(Shatta Wale)など。サウンドについても、今様のアフロビーツに振り切った楽曲が多い。
ケンドリック・ラマーは2014年に南アフリカに赴いて大いに感化されたというし、ビヨンセは『The Gift』に付随するドキュメンタリーの撮影でエジプト、ナイジェリア、南アフリカを旅した。アフリカンの音楽家たちがアフリカに回帰している状況があるのだ。
それでは、そういった事情をふまえて、アフロビーツを知るための10曲を紹介しよう。なお、2020年現在の状況に繋がる視点を重視したので、なるべく2015年以降の楽曲を選曲したこと、UKなどは除外してナイジェリアの楽曲に絞ったことをあらかじめ断っておく。