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カヴァーし、カヴァーされる名曲たち

まずは、ラッツ&スターの“め組のひと”(〈Disc 1〉7曲目)。これは過去に、倖田來未がカヴァーし、動画投稿アプリTikTokで動画に使用されて2018年に爆発的にヒットした楽曲。オリジナル曲は比較的ロー・テンポだが、TikTokの動画は通常15秒ということで、サビ部分を動画に収めるためにBPMを上げるとユーロビート調のダンス・ナンバーになり、振り付けも気軽にできることからたちまち人気に火がつき色々な人々の耳に届いた。ラッツ&スターのメインヴォーカリスト、鈴木雅之はソロとしても活動しており、2019年にはアニソン界の大型新人として「かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜」のOPテーマを鈴木愛理と共に歌唱したことで知った若者も多いかもしれない。今年ソロ・デビュー25周年を迎えたラブソングの王様はJ-Popだけでなくアニソン界にもその名を轟かせており、年末の「NHK紅白歌合戦」にも出場予定だ。

続いては、2曲のカヴァーが収録されている山下達郎“BOMBER”。〈Disc 1〉9曲目ではDANCE☆MANが、続く10曲目では西城秀樹がそれぞれ歌唱。オリジナルではベースがうねるファンキーなサウンドが、DANCE☆MANヴァージョンでは彼の名のとおり、まるでミラーボールが回っていそうなゴージャスなディスコ調に変貌。また西城秀樹ヴァージョンは、彼のライブ感を楽しめるさわやかで疾走感溢れるアレンジになっており、それぞれの特徴を活かした“BOMBER”に仕上がっている。

また、セブン-イレブンのCM曲や店内放送に2011年から起用され、他にも89年にエースコック、2006年にはサントリーなどのCMに使用されてお茶の間に浸透している、ザ・タイマーズの“デイ・ドリーム・ビリーバー DAY DREAM BELIEVER”(〈Disc 1〉4曲目)は誰しもが聴いたことがあるだろう。忌野清志郎がヴォーカルを務めていたザ・タイマーズのこの曲は、原曲がモンキーズの“Day Dream Believer”で、それをザ・タイマーズが歌詞を日本語訳。原曲、ザ・タイマーズ版ともに多くのアーティストにカヴァーされている名曲だ。

ザ・タイマーズ “デイ・ドリーム・ビリーバー DAY DREAM BELIEVER”
 

現代のJ-Popの基礎

現在はSNSをきっかけにヒットする楽曲が多く、流行っている曲調はどちらかと言うと、テンポが早く、音のアップダウンが激しめである。だがこれまでに紹介した80年代ソングは、比較的ゆったりしたテンポに、あまり音が上下しないメロディーに、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏と、王道な構成の曲が多いのが特徴的である。このコンピを聴くと、もしかしたら現代より刺激が少ないような感覚を抱くかもしれない。しかし何度か聴くうちに、この楽曲構成こそがまさに現代のJ-Popの基礎をなしている〈王道のパターン〉なのだということを体感できるだろう。

今作の楽曲はリリース当時に生まれていない世代にも聴きやすいので、例えばシンセをベースとしたサウンドがお気に入りなら〈Disc 2〉15曲目、村下孝蔵の“初恋”には新たな発見があるかもしれない。この曲は転調がなく、王道であるイントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏という構成だ。サビ部分に盛り上がりのピークを持ってくるべく、段階を経るごとに音も上がっていくように制作されており、〈好きだよと言えずに 初恋は ふりこ細工の心〉という歌詞を1番と2番で繰り返すことで、初恋の想いを伝えたくても伝えられない甘酸っぱさを音と歌詞でうまく際立たせている。

もう1曲挙げるとすれば、〈Disc 2〉12曲目、山口百恵の“さよならの向う側”。近年も旭化成のCMソングとしてカヴァー曲が使用されたこの曲は、山口百恵の最後のシングル曲。やはり歌詞が素晴らしく、まるでファンや今まで関わった人々への感謝のメッセージが込められているかのようだ。主旋律はピアノだが、王道である曲構成はもちろんのこと、音が段階ごとに上がるところも“初恋”と似た特徴を持っている。またサビの〈さよならのかわりに〉の高音域での歌唱が頂点に来るように、そこに至るまで最高のクォリティーの歌唱と演奏が織り成されている。

 

豪華な参加アーティストたち

今作のもう一つの大きな特徴としては、誰しも一度は目にしたであろう著名人たちが携わった楽曲が数多く収録されているところ。参加アーティストとしては、今でも現役で不動のアイドルである松田聖子、映画「セーラー服と機関銃」の主演でもおなじみの薬師丸ひろ子、今年デビュー40周年を迎えるスターダスト☆レビューを始め、レベッカ、佐野元春、岡村靖幸、原田知世、YMO、渡辺美里、Wink、郷ひろみ、今井美樹、稲垣潤一など、豪華な顔ぶれがそろっている。

作詞・作曲・編曲に携わるメンバーも豪華で、“春よ、来い”などで知られる松任谷由実(呉田軽穂名義、松田聖子“時間の国のアリス”作曲)、松本隆(松田聖子“時間の国のアリス”ほか作詞)、 80年代から90年代にかけて一大ムーヴメントを巻き起こした小室哲哉(渡辺美里“My Revolution”ほか作曲)、竹内まりや(薬師丸ひろ子“元気を出して”作詞作曲)、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの劇中音楽でもおなじみの鷺巣詩郎(Wink“Sugar Baby Love”編曲)、ジャズ・ピアニストとしても活躍している大江千里(郷ひろみ“Cool”作詞作曲)、ジブリ映画の音楽でも著名な久石譲(今井美樹“野性の風”編曲)、自身でも多数のヒット作を生み出している宇崎竜童(山口百恵“さよならの向う側”作曲)、今やAKB48グループなどのプロデューサーとしての顔でも知られる秋元康(稲垣潤一“ドラマティック・レイン”作詞)などなど、偉大な作家たちの遺伝子は2020年の日本音楽界にも脈々と受け継がれているのがわかるだろう。 そして、アルバムのジャケット・イラストには、80年代と言えばこの人、漫画家でイラストレーターの江口寿史が起用されている。

80年代を通過してきた人、再評価で80年代を知った人、これから80年代を知る人――今作は幅広い世代に80年代を改めて知ってもらえる作品になっているのは間違いないので、改めて古き良き時代に思いを馳せてもらえれば幸いだ。