天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週の話題といえば、BTSの“Life Goes On”が全米No. 1になったこと、これしかないですよね!」
田中亮太「そうですよね! BTSが11月20日にリリースした新作『BE』からのシングル“Life Goes On”。同曲が、Billboard Hot 100で第1位を獲得したと12月1日に発表されました。リリックに込められた〈いまは辛い気持ちを抱えてもいいんだよ、そのうち普段の日常が戻ってくる〉というメッセージもすごくいいですし、〈1位で当然!〉って思っていますよ」
天野「最近亮太さん、やけにBTSに入れ込んでいますよね……。それはさておき、アルバム『BE』もBillboard 200で同時に1位を獲っていて、BTSは音楽界を席巻しています。しかも、“Life Goes On”は韓国語の楽曲で史上初めて全米1位になりました。まさに記録破り。すごすぎますね」
田中「さらに、“Life Goes On”以外の収録曲がほぼ全曲チャート・インしています。BTSの快進撃はまだまだ止まらない! 彼らの楽曲は、いま天野くんと喧々諤々の議論をしながら選んでいる年間ベスト・ソングでも絶対に取り上げましょう!!」
天野「テンション高いなあ……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
1. Mr Eazi feat. J Balvin “Lento”
Song Of The Week
天野「〈SOTW〉はミスター・イージーとJ・バルヴィンの“Lento”! これはめちゃくちゃ興奮する組み合わせ!!」
田中「ミスター・イージーはナイジェリアのポート・ハーコート出身で、16歳でガーナに移り住んだアーティストですね。アフロビーツのサブジャンル〈バンクー・ミュージック(Banku music)〉のパイオニアとして知られていて、ガーナとナイジェリアの音楽をミックスしたサウンドが魅力です」
天野「……って、僕が書いた〈アフロビーツを知るための10曲〉の記事をコピペしないでください! まあ、あの記事も、10月に彼を紹介したときに書いたことをかなり流用しているんですけど」
田中「もう一人のJ・バルヴィンは、コロンビアのミュージシャンでレゲトンの大スターですね。村上隆によるジャケットが印象的だった今年3月の新作『Colores』で、すでにミスター・イージーと共演済み。また、J・バルヴィンとバッド・バニーのコラボレーション・アルバム『OASIS』(2019年)にも参加しています」
天野「そうなんですよ。彼はメイジャー・レイザーの新作『Music Is The Weapon』(2020年)にも参加していますし、アフリカに留まらず、いろいろなフィールドのアーティストと交流しているんです。そんな〈俺得〉な2人の共演曲が、この“Lento”。アフロビーツというよりもレゲトン色が濃厚で、英語とスペイン語で歌う2人の気怠いヴォーカルの絡まり合いがセクシーですね。〈ラティーノ・ギャング〉〈ナイジェリア・ギャング〉という掛け合いもかっこいい。このレイドバックしたダルさが夏っぽいフィーリングなので、〈なんで12月にリリースしたんだろう?〉と思いました(笑)」
田中「ちなみに曲名の〈lento〉とは、スペイン語で〈ゆっくり〉という意味なのだとか。サビでは、ミスター・イージーが歌う英語の〈softly〉とJ・バルヴィンが歌う〈lento〉が対になっていて、センシュアルなムードを増幅しています。ハイライフっぽいギターのフレーズもいいですね!」
2. Jordana “Reason”
天野「ジョーダナの“Reason”が2位。彼女は、米カンザス州ウィチタ出身のシンガー・ソングライター。この“Reason”は、本日リリースされたセカンド・アルバム『Something To Say To You』からのリード・ソングです」
田中「ジョーダナは、昨年の初作『Classical Notions Of Happiness』でベッドルーム・ポップの注目株として名を広めましたよね。同作では、アコースティック・ギターが中心の簡素な音作りが、彼女のムーディーな歌声をうまく引き立てていました。ただ、“Reason”を聴くと、サウンド面でちょっと変化しているようですね。生々しい音の肌触りはそのままに、打ち込みのローファイなビートや鍵盤のメロウなフレーズが印象的で、よりポップソングとしてウェルメイドなものになっています」
天野「『Something To Say To You』はチルなダウンテンポを得意としているプロデューサーのメルヴ(MELVV)が全面的に参加しているようなので、彼の貢献も大きいのかもですね。この曲なんて、まるでポーティスヘッドみたいじゃないですか」
田中「アルバムはまだ聴き込めていないですが、たしかに全体を通してエレクトロニカに接近したインディー・ポップといった印象が強い。フォークトロニカ的というか。個人的には2000年代にモール・ミュージック(Morr Music)からリリースされていた作品みたいだなと思ったりもしました」
天野「懐かしいですね。彼女いわく、“Reason”は『簡単なジェスチャーで愛と思いやりを示すことで、人生の価値や幸福は見つけることができる』ことについての歌なんだとか。確かに気持ちや感謝を〈ちゃんと伝える〉って大事なことですよね」
3. Jennifer Lopez “In The Morning”
天野「〈J・ロー〉ことジェニファー・ロペスの新曲“In The Morning”を3位に選びました。J・ローは説明不要のスーパースターですよね。以前、レゲトンとラテン・トラップについて解説した記事でちらっと触れたように、彼女は米NY出身でプエルトリコ系、つまり〈ニューヨリカン〉です。最近はそのルーツを打ち出して、ラテン音楽を取り入れたポップなシングルで発表しています」
田中「アメリカ、ひいては世界でラテン系の人々が活躍しているいま、ラテン音楽が力を増してきている状況を受けて、J・ローもラティーナとしてのアイデンティティーを強調しているんでしょうね。2016年からスペイン語のシングルをたくさん出していて、サウンドもレゲトンなどのラテン音楽ど真ん中。それに、ラテン系アーティストとたくさんコラボしています。ただ、J・ローは以前からスペイン語の楽曲を発表していました。だから、急な方針転換というわけではないんです」
天野「そうなんですね。でも、近年のJ・ローは、単にラテン系のマーケットにアプローチする感じではなくて、北米とラテン・アメリカの架け橋になるような活動をしていますよね。たとえば、“Te Guste”(2018年)ではプエルトリコのバッド・バニーと、“Pa Ti”(2020年)ではコロンビアのマルーマと共演して、サウンドも思いっきりレゲトン。“Pa Ti”に続くこの最新シングル“In The Morning”は英語詞の曲ですが、サウンドはレゲトンとEDMやR&Bと掛け合わせたような感じで、ラテン・ポップとアメリカン・ポップの主流との出会い、といった趣です。裸になっているカヴァー・アートの写真はどうも賛否両論のようですけど、僕は51歳のJ・ローのパワフルさに感心しました!」
田中「はたして、2014年の『A.K.A.』以来6年ぶりのニュー・アルバムがJ・ローから届けられるのでしょうか? ラテン・ポップに振り切った新作を聴きたいですよね」
4. The Hold Steady “Family Farm”
田中「今週の4位は、ホールド・ステディの“Family Farm”。彼らはブルックリン出身のロック・バンドですね。ホールド・ステディのことは〈PSN〉でずっと取り上げたかったんですよ。もはや20年近く活動していて、本国を含む海外では不動の人気を誇っているバンドなので、紹介すること自体〈いまさら感〉は否めないですけど……。でも、とにかく日本では人気なさすぎる(涙)。いま調べたところ、〈PSN〉はおろか過去のMikikiの記事にも、一回も登場していないみたいです……」
天野「いいバンドなんですけどね。でも、日本のリスナーにはなかなか捉えづらいバンドかも(笑)。というのも、ブルース・スプリングスティーンの系譜に連なる硬派なアメリカン・ロックの王道と、ハスカー・ドゥなどから続くハードコア・パンク/エモの潮流の交差点にいる存在、といった感じなので。フロントマン、クレイグ・フィンの出身地であるミネアポリスを舞台に、アメリカで暮らすさまざまな人々の生活を描く歌詞も優れていますが、それも日本人にはピンときづらい。思わず拳を上げたくなる熱いライブ・パフォーマンスは最高なんですけど。やっぱり見た目が普通の人っぽすぎるのも、……?」
田中「ともあれ新曲“Family Farm”をきっかけに一人でも多くのリスナーが彼らの魅力に気づいてほしいです。この曲は、2021年2月19日(金)にリリースされる予定の新作『Open Door Policy』からのリード・シングル。ドライヴィンなギター・リフに軽やかな鍵盤が重なり、やがて勇猛なホーンが鳴り響き……というイントロから胸熱です。で、やっぱり歌詞がいいんですよね。おそらく薬物のリハビリ・センターを舞台に、主人公の思索の旅をなぞっていきます。メタファーやレトリックも多いため、正直に言って完全に理解できない部分も多いのですが。彼らの歌詞をたどっていると、優れたアメリカ文学を読んでいるかのような感覚になるんですよね。〈彼女は“This Must Be The Place”を歌いながらカンティーナに入っていった〉なんてライン、そうそう書けるものじゃないと思うなー。新作『Open Door Policy』、めちゃくちゃ楽しみです。そして、いつの日か日本でのライブを実現してほしい!」
5. Femi Kuti “Pà Pá Pà”
天野「ラストはフェミ・クティの“Pà Pá Pà”。今週は1位に〈アフロビーツ〉のミスター・イージーを選んでいて、ここではそのルーツの〈アフロビート〉を取り上げる、といういい流れになりました。とはいっても、パッと聴いたかぎりではアフロビーツとアフロビートは似ても似つかない音楽なんですけどね(笑)」
田中「フェミ・クティはアフロビートのゴッドファーザー、フェラ・クティの息子の一人ですね。フェミはもう58歳で、フェラが亡くなったときの年齢と同じ。つまり、アフロビートの大ヴェテランです。近作としては、2018年のアルバム『One People One World』があります」
天野「あのアルバム、大好きでよく聴いていました。同時期にフェミの異母兄弟であるシェウン・クティがアルバム『Black Times』をリリースしたことも話題になりましたね。そんなフェミは、2021年2月5日(金)にメイド・クティ(Made Kuti)とのジョイント・アルバム『Legacy +』を発表します。この“Pà Pá Pà”は、そこからのシングルです」
田中「そのメイドが誰なのかというと、なんとフェミの息子、つまりフェラの孫なんですね。親子による共演作が、『Legacy +』というわけです。“Pà Pá Pà”は、まず〈Pà Pá Pà〉というパーカッシヴなフレーズがコール&レスポンスで繰り返されるところがかっこいい。バンドの演奏もノリにノっていて、渋くてアツい王道のアフロビートを演奏していて最高!」
天野「ちょっとジャジーなフィーリングがあるのもいいですよね。また、“Pà Pá Pà”は、メイドがメインで歌う“Your Enemy”がカップリングされてシングルとしてリリースされています。フェミの渋い歌声とは対照的に、メイドの若々しくて伸びやかなヴォーカルが印象的なので、こちらもぜひ聴いてほしい! 今回の2曲を聴いて、アフロビートの魂が受け継がれていくさまを目の当たりにしたような気持になりました。『Legacy +』がとても楽しみですね。メイドを筆頭に、アフロビート第3世代に今後注目したいところ」