これが現在の私――恋の数だけ歌が生まれ、愛の深さを新しい表現に変えてきたジェニファー・ロペス。復活愛も話題のなか、10年ぶりのアルバムは何を歌う?
常に恋している
ディーヴァ、ゴッデス、アイコン、女帝、そしてJ.Lo。さまざまな呼び名とイメージを持つジェニファー・ロペスだが、ひとつ確実に言えるのが〈常に恋している〉という点だ。愛に生き、愛に燃え、愛を歌う。そんな恋多き人とはいえ、俳優ベン・アフレックとの復活愛からの結婚までの急転劇には、やはり誰もが驚いたのではないだろうか。何しろ20数年前にも結婚をドタキャンしている〈ベニファー〉だけに、少しどころか多分にハラハラ。しかもニュー・アルバム『This Is Me...Now』は、2002年作『This Is Me...Then』の続編という位置付けで、復活ロマンスや結婚を主テーマに描かれる。リリース当日までちゃんと二人の関係が続いてくれるのか、本稿執筆の時点ではいまだに不安なままなのだが……。とはいえ、彼女が2014年の前作『A.K.A.』から10年ぶりにアルバムを発表しようと思い立ったからには、相当な強い思い入れもあるはずだし、歌いたいこと、伝えたいことがたっぷり込められているはずだ。
アルバムこそ10年ぶりながら、ずっと第一線で活躍し続け、一瞬たりともショウビズ界からその存在が希薄になったことがない彼女。ラスヴェガスでのレジデンシー公演、シャキーラとのスーパーボウルのハーフタイム・ショウ、映画「ハスラーズ」の好演によるゴールデン・グローブ賞助演女優賞の受賞などが、ここ10年間の大きなハイライトと言えそうだが、その他にもコスメ、ファッション、映像製作などの分野で幅広く活躍。次から次へと主演映画が製作され、女優業も引く手あまた。映画絡みの楽曲も多く、「セカンド・アクト」ではシーアのペンによる“Limitless”、「マリー・ミー」ではマルーマとの共演曲などを発表してサントラも制作。さらに単発シングルも途切れたことがなく、“Baila Conmigo”、ラウ・アレハンドロと共演した“Cambia el Paso”、ウィシン&ヤンデルとの“Miami”など、近年はラテンの後輩アーティストとのコラボに邁進中といった印象だ。
というのを考えるにつけ、10年ぶりのアルバム『This Is Me...Now』は、これまでの流れとはかなり異なった意外な方向性の作品だ。当初の触れ込み通り『This Is Me...Then』を引き継ぎ、サウンド面でもそのノスタルジアを現代風に調理する。カリッとしたクリスピーなビートに、生楽器風のナチュラル系の音色を多用し、ヒップホップのストリートのヴァイブスもたっぷり。ポップで軽やかで、アンニュイなアーバン・ソウル/R&Bが展開される。現在の主流のサウンドからは掛け離れているが、世のY2Kリヴァイヴァル・ムードを上手く掬い上げていると言えるかもしれない。