スープと麺だけでどれだけおいしくできるか
――そういう、実験的な要素とか今のマイブームを取り入れようと言い出す人は誰なんですか?
千葉「みんなで曲を詰め始める前に、怜央が最初のデモを出してくれるんですけど、僕がDAWを管理してるので、そういうのを入れたい放題入れるんです」
関「それぞれが録った音をバーチーに送って、ラフでミックスして返してくれるんです。その時に〈あれ? そんな音入ってたっけ?〉っていう音が入って返ってきて」
――前回のインタビューでは曲が出来るまでの話を訊きましたけど、その後のポスト・プロダクションやミックスにも秘密があったんですね。
千葉「そうですね、まあやりたいようにやってるだけなんですけどね」
――こうやって話を訊いてるだけでもいろんな音楽の要素が出てくるのに、曲になるとちゃんとKroiの音楽に仕上がってて、とっ散らからないのがすごいですよね。
関「サビなんかは特に、音量バランスとか〈この楽器を前に出そう〉みたいなことは5人で吟味しました。その結果なのかもしれないですね」
――出すところは出すし、引くところは引く。それが動物の声であっても。
関「動物の声は結構消したよね(笑)。めちゃくちゃ録ったのに」
千葉「一人2本、合計10本分くらい録ったのに、あんまり使ってないね」
関「〈コイツいらなくね?〉〈サルは消そうぜ〉とか(笑)。意外と益田も上手じゃなくて」
益田「いやいや! 俺のシマウマめちゃくちゃ上手かったよ!」
関「シマウマはサバンナだから違うんだよ!」
益田「(シマウマの真似をして)ウィッ! ウィッ! ウィッ!」
内田「楽しかったです(笑)」
千葉「でも怖くもありますよ。他の人が聴くまで、とっ散らかってるのかまとまってるのか、客観的に聴けなくなってるから。納品してリリースして、しばらく経ってから聴いて、〈ああ、意外といいじゃん〉っていうのはありますね」
――作ってる途中で沼にハマることはないですか?
千葉「ミックスをしてる時はありますね。アレンジは勢いでやるので、そこでやったものは全部録っておいて、後で要らないのを間引いてっていう感じで、そこまではならないですけど」
関「このバンド、熟考しちゃうと何も動けなくなっちゃうからね。〈これでいいんじゃね?〉ってやったものが案外ハマることのほうが多くて」
内田「あとは、あんまりとっ散らかることを恐れてないですね。とっ散らかってもいいかな、むしろとっ散らかった方がいいかな、みたいな」
関「曲作りの時はどんどん足し算で音を入れてくし」
内田「だから〈この曲は音数を少なくしよう〉って思っていても、プリプロをやって聴いてみるとすんごい豪華になってるよね」
千葉「ミックスの時に俺はその怜央の言葉を思い出すんだよ。〈これ派手にしていいんだっけ?〉って(笑)。すっごい音数多いんだもん」
関「そんな話毎回してるね」
千葉「だから怜央が〈絶対何も入れないで!〉って言えばいいんだよ(笑)。曲って、音を足せば足すほどポップになって豊かになってメジャーな感じになっていくので、いい曲になるんですけど、それはそれで悔しいなって思いもあって。だって誰でも分かるじゃん。コーラスを何本も重ねて弦も入れて音数を増やしたら、そりゃゴージャスになって聴こえは良くなるよって」
――ラーメンのトッピングを全部乗せしたら絶対おいしい、みたいな(笑)。
千葉「そうそう! スープと麺だけでどれだけおいしくできるか、みたいなことです」
内田「それ、めっちゃ名言じゃね?」
千葉「今の見出しでお願いします(笑)」
内田「〈スープと麺だけでどれだけおいしくできるか〉」
千葉「いや今のはトッピングの話が出たからね、俺が思い付いた言葉じゃないから(笑)」
――いつか全く装飾のない曲が出来るかもしれないですね。
内田「俺はいつでもやりたいです(笑)」
一同「(笑)」
こういう機会がなければ完成しなかった
――リリックについてはどうですか? 作った当時は固まってなかったと言ってましたが。
内田「当時はフリースタイルみたいな歌だったんです」
関「ブッカーの人に言われたよね。〈歌詞は固めてからやった方がいいよ〉って(笑)」
内田「そこから封印したよね、この曲」
関「リリースすることが決まって初めてちゃんとリリックを書くという」
内田「ずっと書けなかったんですよね」
――それはなんでですか?
内田「わかんないです(不服そうに)」
――(笑)。じゃあ、書けなかった理由じゃなくて、なぜ今回書けたかを教えてください。
内田「なんでですかね(笑)」
関「きっかけをもらえたっていうのはあるのかな」
内田「曲をちゃんと理解しようと思ったんですよね。だからこういう機会をもらえてなかったら、完成してなかったかもしれないです」
――今回、バンド初のドラマのタイアップ曲でもあるわけですが、ドラマの脚本などを読んだんですか?
関「そこまではしてないんですけど、どういう主人公で、どういうストーリーになるかは聞いていて。でもそれをごっそり忠実になぞる必要もないし、ベースになったのは怜央が普段から考えてることだと思います。それがドラマ側にもうまくハマってくれて」
内田「かなり自由に書いたんですけどね。いま思ってることを残すというか、〈写真1枚撮っとこ〉くらいの感覚で書いたら意外とハマって。それもぼやっとさせてるんですけど」
――前回言ってた、意味を隠してるってやつですね。
内田「はい。だからいろんな角度でいろんな人に刺さってくれるんじゃないかなって思います」
――またこういうのを訊くのは野暮かもしれないですけど、今作にはどういう意味を封じ込めたんですか?
内田「今、次世代を担う人たちがいて、そういう人たちの葛藤や苦悩を描いたつもりです」
――それは自分たちも含めて?
内田「そうですね。自分たちで次世代を担うとか言うのは変ですけど(笑)」
関「このコロナ禍の状況もありますし、いろんな場面でいろんな人が苦悩しているわけで、共感してくれる人がいればいいなって思いますね。それはドラマにも通じるテーマにもなっていると思います」
内田「前作の“HORN”以上に自由に聴いてもらいたいですね。聴いた人の中で独自の視点を持ちやすい曲だと思うので、それを俺に聞かせてほしいです」
――じゃあ、自分から言ってもいいですか!
内田「はい(笑)」
――全く違ったら申し訳ないですけど、最近SNSを見ていて、誰かの発言に対して他の人がうるさすぎるなと思っていて。本来なら全然関係ない角度からクレームが来て、炎上して謝って、そういうのを見ていて生きにくい世の中だなって思うんです。そういう生きにくさが、この曲の中にあるような気がしたんです。
内田「いや、それは入ってると思います。僕もそういうことを思っていて、それはもう〈しょうがないことだな〉っていうところまでだいぶ辿り着いてはいるんですけど、そういう〈どうにもできないもどかしさ〉みたいなものは、この曲の中に含まれていると思います」
――そういうもどかしさに対して、Kroiはどうするんですか? 打破するのか、我慢するのか、〈そんなのいいから踊ろうぜ〉なのか。
内田「一回ちゃんと向き合って考えるんです。それで、できることがあるならやって、できなかったら幻想の世界へ(笑)」
一同「(笑)」
――Kroiらしさが理解できるようになってきました(笑)。タイトルの〈Page〉という言葉はどこから来てるんですか?
内田「〈Page〉は、(〈頁〉の意味の)ページじゃなくて、西洋の武家で生まれて、大人になったら騎士になるような子供(小姓)のことで、そこから発展してホテルに仕えるボーイのことを〈ホテル・ペイジ〉って呼んだり、結婚式でウェディング・ドレスの裾を持つ少年のことを〈ウェディング・ペイジ〉と呼んだりするんです。そういう〈何かに仕える人〉という意味で〈Page〉というタイトルにしました」
――それはさっき言ってた、〈次世代の何かを担う〉というところからですか?
内田「そうですね。時には泥水をすすることもあるし、ウェディング・ドレスを着る側じゃなくてドレスの裾を持たなきゃいけない時もあると思いますけど、頑張っていきましょう、ということですね」