2020年12月19日に開催されたワンマン・ライブ〈OGRE YOU ASSHOLE LIVE LIQUIDROOM 2020〉は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、いままでにない形で行われた。今回は、そのファースト・セットを観た音楽ライターの松永良平(リズム&ペンシル)によるライブ・レポートをお届けする。オウガの演奏の様子とどこか張り詰めた空気に包まれた会場のムードから、松永がさまざまな思索を巡らせた。 *Mikiki編集部
同じようでまったく違う、1年前と現在の状況
OGRE YOU ASSHOLE、2020年最後のワンマンが12月19日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで行われた。新型コロナウイルス感染対策のための客数制限により、キャパは通常の半数。17時と20時の2回公演という異例のライブとなった。もっとも、オウガにとってこの日が2020年、東京での最初で最後のワンマンということ自体がすでに異例なことだ。
僕が見たのは17時スタートの1部。開演前、COMPUMAさんと会場でばったり会った。去年のちょうど同じ時期(2019年12月21日)、同じ場所(LIQUIDROOM)で行われたオウガのワンマンに、COMPUMAさんのDJユニット、悪魔の沼が出演した。通常のライブ開始前と違い、最初から客電を落とした真っ暗なフロアを、悪魔の沼の作り出す音が空間を満たしていた。そして、それを観ていた僕は、その夜のことをライブ・レポートとして書き残した。今夜のライブのこともレポートとして書き残すことになっている。
なんだ。まるで定点観測のように、去年と同じことをしにここに来たみたいじゃないか。
しかし、同じことをしているようで、去年(2019年)と今年(2020年)の状況はまったく違う。
COMPUMAさんは、この春以降でこれほどたくさんの人がいるライブに来たことだけでなく、そもそもバンドのライブに足を運んだのも初めてだという。もしかしたら、お客さんのなかにもそういう人は少なくないかもしれない。入場時の厳しい体調確認や追跡サービスへの登録(もちろんマスクは着用)、ソーシャル・ディスタンスを意識した人数制限、観る場所を固定したフロアの設定があるとはいえ、オールスタンディングでライブが行われること自体、奇跡のようにも思える。
“朝”が描く〈明るいこの世の終わり〉
2020年4月、オウガは2019年のライブ・ツアーを経て、もともと3分40秒ほどだったサイズから13分近い長尺の新アレンジに大きく拡張/覚醒された“朝”の〈alternate version〉を配信(5月に12インチ・シングルでリリース)した。カップリングには“朝”の〈悪魔の沼 remix〉を収録。
奇しくもその4月や5月といえば、日本全国で緊急事態宣言が発令されていた時期だった。あの異様な4月や5月。人が消えた真昼の街で、明るい闇のなかを歩いていたような感覚は、いまも僕の肌から消えずに残っている。この世の終わりとはこんなに明るいものなのかと思いながら、イヤホンから流れる2つのヴァージョンの“朝”を聴いていたことを思い出す。
オウガの曲のなかで、というだけでなく、“朝”ほど、2020年に訪れた状況を言い当てていた曲はなかなか他には見当たらない。この日、会場でCDが先行発売された『workshop 3』は実験的なライブ・アルバム・シリーズの最新作で、2017年から2020年にかけての演奏からセレクトした楽曲が収められている。コロナ禍にあってひさしぶりのライブだった2020年9月に富山の福野文化創造センター ヘリオスで収録された“朝”は、やはり圧倒的な存在感を放っていた。