ファースト・アルバム『OGRE YOU ASSHOLE』をリリースした2005年を起点に活動15周年を迎えたOGRE YOU ASSHOLE。彼らが2021年5月29日、東京・渋谷TSUTAYA O-EASTでワンマン・ライブを開催・配信した。

ここでは、15年の歩みを伝えた重厚な〈OGRE YOU ASSHOLE 15th Anniversary Live〉での体験や思索について、音楽ディレクター/評論家の柴崎祐二が自由闊達に綴る。なお、同公演のアーカイヴ配信が2021年6月6日(日)まで行われているので、まだご覧になっていない方はぜひチェックしてほしい。 *Mikiki編集部


 

新しいライブの形がここにある

熱狂を禁じられたライブ・パフォーマンス。しかしそれは、禁じられれば禁じられるほど、内側の冷静を溶かし、奏でられる音楽そのものが驚くべき存在として立ち現れる。OGRE YOU ASSHOLEの活動開始15周年を記念するライブ〈OGRE YOU ASSHOLE 15th Anniversary Live〉は、私にとってまさしくそのような体験だった。

多くのアーティストの例に漏れず、昨年以来、彼等は数々の演奏機会を奪われることとなった。今や現代屈指のライブ・バンドと目される彼等にとって、こうした状況はいかにも残酷に思える。当然、ライブ演奏を待ち望む多くのファンにとっても口惜しい日々となった。しかし、数多の制約を掻い潜りながらも、2020年12月19日には恵比寿LIQUIDROOMにて恒例の年末ライブを開催。続く3月に予定されていた同会場でのワンマン公演は残念ながら中止となったが、今回の15周年記念公演は、からくも開催に漕ぎ着けた。

昨年以来、様々な会場で見慣れた光景になった各種の感染防止措置はこの日も徹底されている。入場時の体調/マスク着用のチェック、観覧時のスペース制限、酒類提供の停止……。いつしか〈常識〉となったそれらの措置に、私を含めた多くの観客が粛々と従う。〈新しいライブ〉の形がここにもある。

 

〈円熟〉と〈深化〉を経た〈平常〉な演奏

私事になるが、かつて彼等のA&Rディレクターを務め、いわゆる〈3部作〉最後のアルバム『ペーパークラフト』(2014年)の制作を担当していた頃、つまり今から6年ほど前が最も頻繁に彼等のライブに触れていた時期だった。今思えば、若きインディー・ロックの俊英から、ミニマルなメロウネス、豪放なサイケデリック感を湛えた特異な存在へと大きく変態していく、その仕上げの段階を目撃していたことになる。その後も折りに触れ彼等のライブに接し、キャリアの積み重ねによって醸される余裕のようなものに、かえって凄みを感じたりもした。そうやって記憶を振り返ると、コロナ禍を挟んでしまったこともあり、オウガのライブを観るのはかなり久々なように思われる。

この日の演奏に接してなにより強く感じたのは、〈円熟〉と〈深化〉だ。演奏はより盤石かつ技巧的になり、数ヶ月のインターバルを全く感じさせない。というよりもむしろ、どこか我々の知らない別の平行世界で粛々と演奏活動を続けてきたのではないかと思われる平常ぶりを聴かせる。

オープニングに演奏された“他人の夢”からして、セットリストも、周年記念ライブによくあるグレイテスト・ヒッツ的なものではなく、近年のライブで奏で慣れた曲が中心だ。肌に慣れた毛皮を鞣すように、あるいは鍛え続けた鉄を再び打ち整えるように、丁寧かつ実直に演奏されていく。“ハンドルを放す前に”における勝浦隆嗣(ドラムス)と清水隆史(ベース)による禁欲的なリズムの反復、“素敵な予感”での馬渕啓(ギター)と出戸学(ギター/ヴォーカル)によるマシナリーなギター・プレイなど、極めて冷徹なバンド・サウンドが会場に放たれていく。