2021年12月18日、東京・恵比寿のLIQUIDROOMで開催された〈OGRE YOU ASSHOLE LIVE 2021〉。年末恒例となっているOGRE YOU ASSHOLEによるワンマンライブだが、この日の出戸学(ギター/ボーカル)、馬渕啓(ギター)、清水隆史(ベース)、勝浦隆嗣(ドラムス)の4人の演奏は決定的に新しく、そこには〈知らない音楽が生まれた瞬間があった〉という。松永良平(リズム&ペンシル)が当日の模様を伝える。 *Mikiki編集部


 

この夜の“朝”は桁が違った

はじめは、自分の鼓動が興奮して強くなってるのかと思ったがそうじゃなかった。リキッドルーム全体が、おそろしく強い低音で揺れているのだと、足元から伝わってきた。ライブはすでに終盤に差し掛かっていて、OGRE YOU ASSHOLEが“朝”を演奏していた。

〈Alternate Version〉としてアルバム『新しい人』(2019年)のリリース後に12分を超えるサイズにリヴァイズされ、ライブではもはやオルタネイトではなくこれが定番としてとっくに定着しているこのバージョン。年末恒例となっているリキッドルームでのワンマンで聴くのは2019年以来3度目だ。

しかし、この夜の“朝”は、桁が違った。思い返せば、この日のPAミックスの設定には最初から低音の強さと鋭さがあったのかもしれない。だが、メーターをリミット限界、いやそれ以上まで振り切ってきたのは“朝”だった。中盤から執拗に反復を繰り返すサウンドで埋め尽くされ、揺さぶられた空間は、もはやバンドも観客の区別もわからない。かといってごちゃ混ぜの混乱が起きているわけではない。足元にひかれたマス目にいる自分自身がLIQUIDROOMというハコのなかで拡張と収縮を繰り返しているような感覚に近い。これまで聴いてきた“朝”で変容するのは〈意識〉だったが、今夜〈体〉まで変えられてしまうような気がした。

 

不安を植え付けられた2021年に鳴り響いた〈おはよう〉

2021年は、もしかしたら音楽にとって2020年よりもずっと難しい一年だったかもしれないと感じている。新型コロナウイルスによりすべてが制限され、自粛を余儀なくされ、リモートという概念が一般化した2020年も、もちろん大変な一年だった。未知のウイルスに対する不安や恐怖だけなら2020年のほうが大きかったことは疑う余地もない。

2021年は年明けから感染拡大になかなか歯止めがかからず、さらにデルタ株の蔓延により夏をピークに状況は悪化した。日本では夏以降に新規感染者が急速に減少したこともあり、感染対策を引き続き徹底することでライブエンターテインメントにも徐々に活気が戻ってきたのが2021年の後半だった(そしていまは、再びオミクロン株で不安が頭をもたげはじめている)。

だが、コロナウイルスの性質がどういうものかを知り、これからどう振る舞うべきかを知ってしまった分だけ、失われてしまったものを意識する局面も増えた。たぶん、この先も公共の場でマスクは外さないほうがいいのかな。いま現在、座席のあるホールでのコンサートやイベントのキャパシティーはおおむね全数に戻っているが、いつかライブハウスであのぎゅうぎゅうの超満員が許されるようになったとしてもその場に戻る気持ちに簡単になれるのかな。

社会を揺るがす大きな事件や災害が起きると人間の本質のよい面も悪い面もあらわになる、という言説がある。だが、コロナウイルスがもたらしたこの長く続く曖昧な状況は、人の本質をあらわにするというより、不安を潜在意識として内在化させ続ける方向に働いてしまった。

そんな〈いま、ここ〉で歌われる“朝”の〈おはよう〉は2019年の〈おはよう〉とも、2020年の〈おはよう〉とも違うものになった。床が抜けるかと思ったという感想さえ聞こえた猛烈な低音でバンドは〈おはよう〉と、心の内側まで届くように何度でも伝えていた。