〈ヤマスキ〉とは――山好きでもタイスキの仲間でもなく、シンガー/プロデューサーとしてフランスで活動していたダニエル・ヴァンガード(ダフト・パンクのメンバーであるトーマ・バンガルテルの父)が、シンガー・ソングライター/プロデューサーのジャン・クルジェールと70年代初頭に結成したユニット=ヤマスキ・シンガーズの71年作『Le Monde Fabuleux Des Yamasuki』のこと。このアルバムは、ジャケットのデザインからもわかる通り〈日本〉がテーマになっており、日本というかアジア的なエッセンスを散りばめたロック/ファンク調のサウンド、日本語……?なリリックを歌う子供たちの合唱をメインにした童謡風のメロディーというエキセントリックな音楽性で話題となった一枚だ。廃盤となってからはここ日本でもレコード・コレクター垂涎の一枚となっており、バナナラマがリメイクしたり、エリカ・バドゥらのナンバーでサンプリングされたり、プレフューズ73がリミックスしたりと、収録曲は各方面で使われている。
同作は2005年にはファインダーズ・キーパーズ(納得!)からリイシューされたもののふたたび廃盤となっていたが、このたびデジタル・リマスタリング&ボーナス・トラック&全曲の楽譜&歌詞も付いてめでたく再登場! そして今回、このリイシューのニュースにいち早く反応していた、レコード・ディガーとしても名を馳せるOKAMOTO’Sのベーシストであるハマ・オカモト氏とドラマーのオカモトレイジ氏に、ヤマスキの魅力について話を訊いてみた。
――ヤマスキ(・シンガーズ)を知ったのはいつ頃ですか?
レイジ「3年ぐらい前ですね。普通にレコード屋で見つけて、〈ベルギー・サイコキラー・フェイク・ジャパニーズ〉って書いてあったんです。でもなんでベルギーなんだろう……」
――資料には〈ブリュッセルにあるスタジオで録音〉とありますね。
レイジ「だからか。値段は結構高かったんですけど、そのコメントにやられちゃって、ちょっと気になるなと試聴したらめちゃめちゃカッコ良かったんで、速攻買ってみんなにも聴かせたんです、〈ヤバいよ、ヤマスキ〉って。そしたら僕らの高校の先輩でもあるSHISHIさん(SHI SHI YAMAZAKI、広告などで活躍するアニメーション・アーティスト)が自身の作品でヤマスキの曲を使っていたりして、ヤマスキを知っている人が俺たち以外にいるんだ~と。ライヴのSEでも何回かかけたことがあります」
――どの曲をかけたんですか?
レイジ「“Yamasuki”をよくかけてました。〈ROCK IN JAPAN〉で僕とハマくんがDJした時もかけた気がする……でも全然盛り上がらなかったな(笑)」
ハマ「アルバムで聴いたことあるの?」
レイジ「アルバムではなくて、A面が“Yamasuki”でB面が“AIEAOA”の7インチ。たぶん僕が持っているのがオリジナルだと思うんですよね」
――その当時から、メンバーがダフト・パンクのトーマのお父さんだというのは知っていたんですか?
レイジ「そうですね。でも都市伝説的で曖昧だったんですよ、当時。謎すぎて〈ヤマスキってなんだ?〉って調べてみたら、〈噂によるとダフト・パンクのお父さんがやっていたグループらしいが……〉みたいな記事しかなくて。で、今回の再発にあたってオフィシャルでそう書かれていたので、本当なんだ!と」
――今回あきらかになった感じですか。
レイジ「そうです。アルバム自体もCDですら1万円超えしてたんで、アルバムで聴いたのも今回が初めてだし。ちなみに僕が買った7インチ、4000円でした」
ハマ「4000円か、まあ買うか」
――買うんだ。
レイジ「まったく知らない7インチを4000円で買う?」
ハマ「買う(キッパリ)」
レイジ「買うってことです、僕たちは」
――それでこそOKAMOTO’Sです!
レイジ「ヤマスキにはシンパシーを感じるんですよ。僕が持っている7インチのジャケはアーティスト名が〈YAMASUKI’S〉ってなっていて。OKAMOTO’Sと同じ〈’S〉。だから最初見た時に〈YAMASUKI’S……?〉って思ったんですよね(笑)」
――ハハハ、なるほど(笑)。
レイジ「“OKAMOTO”って曲作りたいよね(笑)」
――アハハ、ぜひ(笑)! ところで、ヤマスキの曲でいちばんグッときたポイントは?
レイジ「ホーニンダーツヲカタシー!!」*“Yamasuki”冒頭の叫び
ハマ「本当にそう言ってるの?」
レイジ「わかんない。歌詞には載ってないけど、俺が死ぬほど聴いた限りでは〈ホーニンダーツヲカタシ!!〉」
――この“Yamasuki”の出だしの絶叫は、資料によると空手の先生が叫んでるらしいです。
ハマ「(録音する際、先生がパワフルすぎて)マイクが壊れちゃったらしいですね。僕は結構“Fudji Yama”が好き」
レイジ「ヤマモトさんの歌あるよね(“Yamamoto Kakapote”)。とりあえず山が好きなんだ。“Yamasuki”“Yamamoto Kakapote”“Yama Yama”“Fudji Yama”……だからヤマスキなのかな」
ハマ「そうだよ! それにしてもタイトル凄いですね(笑)。“Seyu Sayonara”“Anata Bakana”(笑)」
――ちょっとずつ違う感じ(笑)?
ハマ「でも音はめちゃくちゃカッコイイんですよ。どこにおもしろさを見い出してください、って言うのはなかなか難しいんですけど」
――“Yamasuki”あたりは日本というかアジア全体からいろんな要素を引っ張ってきてるような音で、興味深さはハンパないです。
レイジ「“AIEAOA”はアフロな感じだなと思ったし、ヒップホップっぽい曲もありますよね」
ハマ「合唱している感じは、(フランク・)ザッパのマザーズ・オブ・インヴェンションを思い出しましたよ」
――なるほど。
ハマ「質感はだいぶこの年代の音楽の匂いを纏っている気がします。音色自体は結構ファンクですもんね、ワウ・ギターがちょうど流行った頃ですし」
レイジ「サウンドもカッコ良くて、音楽的にきちんと成立しているうえで、さらに71年の段階でこういう意味不明なフェイク・ジャパニーズ!」
――イイ感じの妄想ニッポンがふんだんに盛り込まれている。
ハマ「マーヴィン・ゲイが『What’s Going On』出したのと同じ年ですよ! 71年の名盤と言われてるものを羅列すると、いかにこの時代にこれをやってたことがすごいかよくわかる。ファンカデリックの『Maggot Brain』、ジョン・レノンの『Imagine』、イエスの〈こわれもの〉、ポール・マッカートニーの『RAM』、カンの『Tago Mago』、そしてザ・フーの『Who’s Next』が71年作」
レイジ「ハンパじゃないね」
ハマ「ハンパじゃないですよ。キング・クリムゾンより全然早い(キング・クリムゾンが〈マッテクダサ~イ♪〉と歌う“Matte Kudasai”は81年)! ジョン・レノンが〈想像してごらん〉って言ってる時に〈ヤーマーモトー〉ってやってるわけですからね(笑)」
――ハハハハハ、そう考えると斬新ですよね(笑)。
レイジ「アルバムの裏ジャケを見ると、トラックリストの各曲に〈Medium〉〈Slow〉〈Yamasuki〉って表示されているのが気になる(笑)。曲の雰囲気なんでしょうけど……」
――ホントだ(笑)、テンポなんでしょうか? 〈Yamasuki〉はどういうテンポ?
ハマ「YamasukiはYamasukiですよ」
レイジ「新ジャンルってことなんでしょうね(笑)」
ハマ「“Yamasuki”と“Kono Samourai”は〈Yamasuki〉になっている。あ、〈オーオーオー、さあ輪になって踊ろ♪〉みたいなのが〈Yamasuki〉なのかな」
――どうなのでしょう(笑)。ちなみに、無理やりですが……ダフト・パンクとヤマスキの共通点ってあると思いますか?
ハマ「ダフト・パンクと松本零士さんのコラボ(ダフト・パンクの2001年作『Discovery』に収録された“One More Time”をはじめ3曲のPVを松本が制作)っていうところも繋がりますよね」
レイジ「インタヴュー※1で答えてたもんね。〈彼らに影響を与えてるのは漫画だ〉みたいな。家にあったのかもしれないね、(日本の)研究用に使っていたりしたものが」
※1:今回のリイシュー盤のブックレットにヤマスキのメンバーであるジャン・クルジェールのインタヴューが掲載されている
ハマ「(歌詞を書く際に日本語の)辞書を引いたと言っているし。そういう環境だったならダフト・パンクにも少なからず影響はあったと思う。ダフト・パンクの“Get Lucky”から入った人がヤマスキにピンときたりはしないだろうし、そういうところに楽しさを見い出す感じではないかもしれないけど……。でもヤマスキの音楽はアジアン・レアグルーヴのコンピよりも刺激的なんじゃないでしょうか。ちょっ歌謡曲っぽいじゃないですか」
――そうですね、メロディーが。童謡風の感じもありますし。
ハマ「曲もだいたい2分台だし、あっと言う間に聴けちゃうのもいいですね。ちなみに、この楽譜(ブックレットには全曲の楽譜が載っている)は再発するにあたって作ったんですかね?」
レイジ「オリ(ジナル)盤に入ってたんじゃないの?※2」
※2:楽譜&歌詞は今回のリイシューにあたって初めてブックレットに掲載されたそうです
ハマ「再発としては完璧ですよね。ヤマスキのメンバーがトーマの親父っていうのもあきらかになり、リマスターされて、さらに謎に包まれていた歌詞が付いて、楽譜まで入ってて、ヤマスキ本人のインタヴューが入ってるって、完璧ですよ」
レイジ「今回のボーナス・トラックとして入ってる“Yamasuki”の〈Club Mix〉ってアナログで出てないんですかね? めっちゃ欲しい……これいつ頃のリミックスなんだろう(笑)」
――雰囲気はあまりいまっぽい感じではないですよね、時代が違うというか(笑)。
ハマ「間違ってパリコレとかで使われないですかね(笑)」
――あり得なくはないかも(笑)。
ハマ「今回の再発はCDだけなんですか? だったらアナログをぜひ。7インチも出してくれると……」
――CDがしっかり話題になったら、叶うかもしれませんよ!
ハマ「そうですね。〈いまOKAMOTO’Sって言ってるのマジ遅いから、YAMASUKI’Sだから!〉みたいな感じになったりしたら……?」
PROFILE: OKAMOTO’S
オカモトショウ(ヴォーカル)、オカモトコウキ(ギター)、ハマ・オカモト(ベース)、オカモトレイジ(ドラムス)から成る4人組。今年デビュー5周年を迎え、1月に発表した5作目『Let It V』が好評を博すなか、8月27日にRIP SLYME、奥田民生、黒猫チェルシー、東京スカパラダイスオーケストラ、ROY(THE BAWDIES)との共演曲を収めた〈5.5作目〉となる初のコラボ・アルバム『VXV』(ARIOLA JAPAN)をリリース! 本作の特設サイトもオープンしており、今後PVなどが随時アップされる模様です。そして9月21日からは全国各地を回る5周年記念ツアー〈OKAMOTO’S 5th Anniversary HAPPY! BIRTHDAY! PARTY! TOUR!〉がスタート。そのほか詳しい情報はオフィシャルサイトをチェック! また、Mikikiではハマ氏による〈ハマ・オカモトの自由時間 ~2nd Season~〉が好評連載中です。こちらもよろしくどうぞ!