天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週は〈2020年に発表された洋楽クリスマス・ソング〉を、先々週は〈2020年年間洋楽ベスト・ソング25〉をお届けしました。年末特別企画の第3弾は、〈Pop Style Nowがおすすめする2020年の洋楽アルバム20〉です!」

田中亮太「普段は楽曲を取り上げている当連載ですが、〈やっぱりアルバムも読者のみなさまに紹介したい!〉と思って企画したものです。2人の視点から注目すべき作品を選んで、それぞれ紹介しています。〈PSN〉の年間ベスト・アルバムと思っていただいてかまいません」

天野「海外のメディアはどこも、すでに年間ベスト・アルバムを発表していますよね。そこで選ばれた作品を見ながら、〈そんなに話題になっていないけど、いい作品〉〈このアルバム、みんな忘れていない?〉などの観点を重視し、議論を重ねて選盤しています」

田中「まだまだ選びたいアルバムはたくさんあったんですけどね……。でも、年末年始のリスニング・ガイドとして役立ててもらえるんじゃないかなと思っています」

天野「そうですね。その結果、〈PSN〉らしい独特の並びになりました。ニューカマーのフレッシュな作品や、ポップというよりはオルタナティヴなサウンドが中心になりましたが、ヴェテランの力作も選んでいます。それでは、20作をご紹介しましょう!」

★Mikikiの2020年末特別企画記事一覧はこちら


 

CLIPPING. 『Visions Of Bodies Being Burned』 Sub Pop/BIG NOTHING(2020)

天野「まずは、米LAのエクスペリメンタル・ヒップホップ・トリオ、クリッピングのアルバムを紹介しましょう。〈ホラーコア(Horrorcore)〉とも呼ばれる、おどろおどろしい音楽性が特徴で、亮太さんもお気に入りのグループですね。2013年にリリースしたミックステープ『Midcity』は、ノイズやインダストリアルな電子音を継ぎ接ぎして作り上げたサウンドが衝撃的でした。その後なんとサブ・ポップと契約、この『Visions Of Bodies Being Burned』は4作目です。音楽性は以前と変わりませんが、どんどん研ぎ澄まされていて、このアルバムで彼らの前衛性や創造性はひとつの高みに達していると感じました」

 

BEATRICE DILLON 『Workaround』 Pan/Pヴァイン(2020)

田中「ビアトリス・ディロンの『Workaround』は、2020年のエレクトロニック・ミュージックを語るうえで外せない傑作です。トリロジー・テープスやRVNGからのリリースで電子音楽リスナーを唸らせてきた彼女ですが、このファースト・アルバムはベルリンのPANから。テクノやガラージ、ダブステップといったUKダンス・ミュージックのエッセンスと、アフリカやカリブ、中近東などの音楽を独特の配合でミックスし、とてもユニークなサウンドになっています。緻密ではありますが、難解ではなく、音の感触はとても人懐こい。Corneliusなどのファンにも楽しんでもらえる音楽ではないでしょうか」

 

FIREBOY DML 『APOLLO』 YBNL Nation/Empire(2020)

天野「ファイアボーイ・DMLは、〈アフロビーツを知るための10曲〉で紹介したナイジェリアの新たな才能です。このセカンド・アルバム『APOLLO』では、彼がみずから〈Afro-life〉と呼ぶサウンドがよりスムーズに洗練されています。R&Bなどを巧みに取り込んだ音楽性は、泥臭さとは無縁でセンシュアルかつ都会的。アフロビーツの新たな展開として重要な作品だと感じています」

 

JORDANA 『Something To Say To You』 Grand Jury Music/Tugboat(2020)

田中「ジョーダナのセカンド・アルバム『Something To Say To You』。米カンザス州ウィチタを拠点に活動している彼女は、インディー・ポップの注目株の一人です。このアルバムは、『Something To Say』と『To You』というEP2作をまとめたもの。とはいえ、いずれもプロデューサーのメルヴ(MELVV)が参加していて、1枚の作品としてスムーズに聴けます。ローファイでほどよい温度感の打ち込みのビートと、彼女の心地よい歌声がすごくマッチしていますよね。ポップ・アルバムとしても粒ぞろいの作品で、リリー・アレン『It’s Not Me It’s You』のベッドルーム・ポップ版といった趣もあります」

 

KEIYAA 『Forever, Ya Girl』 Forever(2020)

天野「キーヤーはシカゴ発、オルタナティヴR&Bの新星です。エリカ・バドゥとソランジュの中間のような、ほどよくソウルフルな歌声がとても魅力的ですが、彼女が作るざらついたローファイ・ビーツも素晴らしくて、むしろそれこそが個性になっている。アールスウェット・シャートが引き合いに出されることもありますね。このデビュー・アルバムにはマイクが変名のDJブラックパワー(DJ Blackpower)として参加しており、また彼女はメッドヘインのアルバム『Cold Water』(2020年)にフィーチャーされています。このことからもわかるとおり、NYのクルー〈スラムズ〉にも近い存在なのでしょう」