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曲を書くきっかけ

――曲を書いた時期でいうと、BiSH以前から昨年まで長期間に渡るようですが、なかでも直近に書いた曲はどれでしょう?

「レコーディングは“サボテンガール”が最後だったんですけど、曲自体を最後に書いたのは“NaNa”ですかね。アルバム全体を見て、もうちょっとアップテンポの曲が欲しいと思って作ったんで。“NaNa”は小松菜奈ちゃんのことが好きすぎて、最初は〈小松菜奈にラブリー〉っていうタイトルだったんですけど(笑)」

――(笑)制作期間中に世間の状況を受けて書かれたものもあって。

「コロナ期間でいうと、“STEP by STEP”は自分の中で清掃員(BiSHファンの総称)の人に宛てた曲なんですけど、これは一生懸命働いて週末はBiSHのライヴを楽しみにしてくれていた人たちに、その週末の感覚を思い出してほしいなと思って書きましたかね。ちょっと夢を見ているような、そういう瞬間もあっていいんじゃない?っていう意味を込めました」

――〈報酬全部注ぎ込んで〉って(笑)。

「そう、全部注ぎ込んで(笑)」

――(笑)清掃員の方や、さっきの小松菜奈さんもですけど、わりと具体的な対象があって書かれた曲が多いんでしょうか。

「ほとんどそうですね」

――その書き方は昔から?

「はい。“ハロウ”とか“虹”とか自分に対して書いたのもあります。でも友達が多いですかね。さっき言った“サボテンガール”も、親友と二人で歩いてたら急に〈電車なんて乗らないでよ〉みたいに言われて。〈歩いて帰ればいいじゃん〉って。何かその時の言葉選びと喋り方と温度が美しく聞こえちゃって。ホント他愛ない会話なのに凄い綺麗に思えて。もう8年ぐらい友達なのに、そんなこと初めて言われたのもあって、いつもは呆気なくバイバイって言う子なんですけどね。こんな綺麗な夜は〈明日世界がなくなるんちゃうかな〉って思いながら帰って。で、もう家に着いてすぐ歌詞書きました。友達の一言とかから、曲を作ろうっていう意欲が湧いたりします」

――“粧し込んだ日にかぎって”も身近な方の曲でしょうか。煙草が出てくるので“サボテンガール”と繋がってるのかとも思ったんですが。

「ああ、繋がってはないんですけど、繋がってても全然おかしくないというか。“粧し込んだ日にかぎって”は去年の2月ぐらいに書いたんですけど。それはまた別の友達が、凄い生きるのがつらそうな時期があって。たぶん死にたいんだろうなみたいな雰囲気が漂ってて。で、それを察知した友達たちとみんなで集まって1週間ぐらい声をかけ続けてたんですね。それで元気になってきて〈大丈夫かな〉って少しみんな離れちゃったら、その隙に飛び降りちゃってて。で、その後はコロナもあってICUに入れないし、どういう状況かもわからなくて、そうなった時に自分も変になっちゃって。そういうのって伝染するって言うけど〈そんなわけないやん〉って思ってたんですけど、コロナでメンバーとかスタッフさんとも会えないし、虚無感で心臓がずっと痛くて、まあ……ふとよぎる時とかがあって。そういう葛藤のなかで、踊ったり、家族に電話したり、いろいろしてみたんですよ。でも楽にならなくて、それで〈無理だわ~〉って泣きながら書いてみたのがこの曲です。だからBメロとかは泣きながらデモ作ったそのままなんですけど。〈煩わしいなら 言葉捨てよう〉みたいなのを自分に対しても歌ったらちょっと楽になって、救われたっていうか。いつかその友達が精神的に安定して落ち着いてきたら聴かせたいなっていう気持ちで完成させました」

――アルバム全体が夜っぽい風情があって心地良いんですけど、特に“粧し込んだ日にかぎって”が最初に聴いてからいちばん好きです。いま伺った歌の背景を知らなければ、ちょっとラヴソングみたいに思える情緒もあって。

「ああ、そうですよね」

――そうやって友達や身近な人との出来事を衝動的に曲に反映させるみたいなことが多いんですね。

「はい。だから、もっと外側の、世の中に対して歌いかけるような歌っていうのがまだ作れないんです。〈明るくいこう、日本〉みたいなのは広すぎて(笑)。把握しきれない人に向けて歌えないっていうか。やっぱり身近な友達だったり、清掃員とか家族とか犬とか、自分が触れたことのある存在じゃないと言葉とかも思い付かない。それを世の中の人が聴いてくれて、一個人として響いてくれるなら、もうホント嬉しいんですけど」

――さっき夜っぽいアルバムって言いましたけど、夜って人と人が親密な時間帯だし、孤独だったら人のことを余計に考える時間でもあって。その意味でアイナさんが凄く親密に感じられる作品だと思いますよ。

「ありがとうございます。嬉しい(笑)」