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中島みゆきは歌い直さない、吉田拓郎は勝手に歌い続ける

――ホントいい時期に瀬尾さんとの出会いがあったわけですね。瀬尾さんのレコーディング現場ならではの特徴って他にありますか?

「瀬尾さんのレコーディングはとにかく早いんですよ。歌入れなんかもあっという間に終わってしまって」

瀬尾「3回までしか歌わせなかったもんね」

「休憩もなくどんどんやっていくんです。一回歌ってそれを聴いてみて、ってプロセスもなく」

――そういうスタイルはあまり経験したことがなかったんじゃないですか?

「なかったですね」

瀬尾「僕の考え方をいうと、3回目以上になると頭で考えながら歌うようになっていく。するとヘンな邪心のようなものが芽生えてしまうんです。絶対に無心のほうがいいと思うから、いつもそういうふうにやっている。それから、あとでここのプレイをやりなおしたい、って言われたりもするけど、だいたい僕はやんなくていいです、って答える。僕は選ぶことに迷わないから、ここの部分がいいな、と判断したらそれで終わり」

――もしシンガーから、もうちょっと歌いたいんだけどって言われたときは?

瀬尾「歌いたいんだったら歌ってもらうけれど、(音源には)使いません」

――おぉ、そうですか。

瀬尾「使うような振りはするけど(笑)。3分か4分の曲をちゃんと歌いきれないのであれば、生で歌えないじゃないですか。生で歌えないものをレコーディングしてもしょうがない」

――ところで(中島)みゆきさんも歌入れは早いんですか?

瀬尾「中島さんはもっと極端です。いつも4、5人のミュージシャンと彼女でレコーディングするんです。もちろん中島さんも僕が譜面を渡すまで、どういうふうになっているのか知らないわけです」

「僕と同じように、ヘッドフォンを付けたときに初めて知るんですか」

瀬尾「そう。それでブースにいる彼女に、イントロは何小節だよ、とか伝えるわけです。で、歌わないで一回演奏を聴いてもらい、〈うん、わかった〉となったらすぐに録音。で、彼女の場合はそのときのテイクでたいていOKなんです。歌い直しはしないんです。これでいいんじゃない?って訊いて〈そうね〉って答えたら、それでおしまい」

「へぇ~~~」

瀬尾「そのかわり、ミュージシャンもグッと集中してやらなきゃいけないから大変ですよ」

瀬尾一三がアレンジとプロデュースを手掛けた中島みゆきの2000年の楽曲“地上の星”
 

――ちなみに(吉田)拓郎さんの場合は?

瀬尾「吉田さんはぜんぜん違います。彼の場合は、勝手に自分で歌ってますので(笑)」

「勝手に(笑)」

――では、納得のいくものが録れるまでじっと待つことになる?

瀬尾「いえいえ、僕は帰っちゃいます」

 

手間ひまをかけていく音楽の作り方を後世に残す

――それもすごい話だな(笑)。しかし今回のシングルのファットなサウンドを聴きながら、お金も時間もかかるだろうけど、こういう音楽の作り方は継承していってもらいたいものだと、いち音楽ファンとしては強く感じた次第で。

瀬尾「残念ながら僕はこういう形態でしか仕事できないのでね。昔は音楽を発表するにもいろんな過程を経ねばならなくて、あいだに企業が入らないと発表すらできなかったけど、いまは自宅で作れるし、さらに配信もできてしまう。その方法が悪いってわけじゃないけど、料理に例えると、板前が材料から吟味して一品ずつを盛っていくようなものと、ファスト・フードのようなものでは味わいが異なると思う。とにかく昔ながらのやり方を誰かが続けていかないと、世の中がファスト・フードで溢れてしまう。だから、いろいろ大変だけど、いちいち手をかけていく方法論をやめるわけにはいかない。誰かから、お前に任せたって言われたわけじゃないけれどね。

あと昔ながらの形が無くなってしまうと、プレイヤーだけでなくエンジニアなどレコーディングに関わるすべての人間の技術が廃れていってしまう。僕がやれるのはあと2、3年ぐらいかもしれないけど、現役でいるうちは続けていくつもりです」

「僕もちゃんと顔を見合わせながら演奏して録音するのが性に合っているし、瀬尾さんがおっしゃることはとても健全だと思う」

瀬尾「人間同士が対面することでしか生まれ得ないグルーヴが音楽の魅力だから。感情を伝えるのが音楽の役目なのに、感情が生まれるのを抑えていく方向が果たしていいのかどうか、って考えてしまうんだよね。設計図どおりにただブロックを組み合わせていくような音楽作りはつまらない。完成形がちょっと歪んでいたとしても、それがとても自然で、魅力的に映ることもあると思う。手作りの魅力を追求するのはいまの時代にはそぐわないかもしれないけどさ、でも楽しいじゃん、スタジオにみんながいて〈せ~の〉で音出したりするのって」

「ほんとレコーディングが楽しかったんですよ。ミックスを聴いたときは感動しましたもん。いい作品を作らせてもらったなぁって」

瀬尾「何を言ってんの(笑)」

――間さんの新しい扉は開けましたか?

「開かれましたねぇ」

瀬尾「悪いほうに開いたわけじゃないよね?(笑)」

「ハハハハハ!」

 


間慎太郎 LIVE INFORMATION

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2021年3月27日(土)兵庫・ 神戸チキンジョージ
※ワンマンライブ(他出演者は後日発表)
開場/開演:17:00/17:30
料金:前売 4,000円/当日 4,500円
チケット:
プレイガイド(2/18~発売)
チケットぴあ:0570-02-9999 [Pコード:193-445]
ローソンチケット:0570-084-005 [Lコード:52668]
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