天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。早いもので、2020年も半分が過ぎようとしています。そこで今回は連載の特別編として、〈PSN〉が選んだ2020年の上半期洋楽ベスト・ソング20をランキング形式で発表します!」

田中亮太2019年の上半期ベスト年間ベストの記事は、うれしいことに多くの方に読んでいただけました。今年は、世界が新型コロナウイルス感染症の大流行という災禍に見舞われ、それ以前と以降で様相が変わったな、という印象も。ですがここに選んだ20曲は、この半年間のポップ・シーンの空気感が伝わるものになったかと思います!」

天野「2020年はコロナ禍や、ここ数週間のブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動の再燃といった、さまざまなトピックがありましたね。一方、ポップ・シーンのキーワードは〈TikTokヒット〉だったのかなと思いました。というわけで、連載では紹介しなかった曲もたくさん入れています。記事の最後には選べなかった曲も加えたプレイリストがありますので、そちらもぜひ聴いてください。では、20位からカウントダウンでまいりましょう!」

 

20. Lido Pimienta “Eso Que Tu Haces”


田中「コロンビア生まれのシンガー・ソングライターによるユニークなラテン・ポップからスタート! リド・ピミエンタの“Eso Que Tu Haces”が20位です」

天野「高く評価された2016年のアルバム『La Papessa』から、伝統的なコロンビア音楽と先鋭的なサウンドを融合した独自の音楽を作っている音楽家ですね。この曲は、ゆったりとしたクンビアのビートが基調になっていて、パワフルな鍵盤やホーンの響きが印象的です」

田中「加えて、空の彼方へとまっすぐに放たれるような彼女の伸びやかな歌声が素晴らしい。コロンビアのダンス・グループ、グルーポ・クンベ(Grupo KUMBE)をフィーチャーしたミュージック・ビデオの鮮やかな色彩に魅了されます。ローカリティーを下敷きに、新たなポップを作っている姿勢がいいですよね」

 

19. Dogleg “Kawasaki Backflip”


天野「19位はドッグレッグの“Kawasaki Backflip”です。ブチ上がりますね!」

田中「ドッグレッグは米ミシガン州出身のエモ/ハードコア・パンク・バンド。彼らの曲は、2019年11月に“Fox”を初めて紹介しました。やぶれかぶれに突き進んでいくような激しいパンク・サウンドと、シンガーのアレックス・ストイトシアディス(Alex Stoitsiadis)のシャウトに心を揺さぶられます」

天野「拳を突き上げたくなります。この曲は、3月にリリースされたデビュー・アルバム『Melee』の1曲目。〈Kawasaki〉はバイクの〈カワサキ〉、〈Backflip〉は〈バク転〉の意味です。モトクロスのイメージとロック・サウンドの組み合わせがかっこいい! 彼らの曲を聴いていると、〈ロックはまだまだ最高だ!〉って思えるんです。『Melee』は今年のベスト・ロック・レコードのひとつだと思います!」

 

18. Pop Smoke “Dior”


天野「“Dior”は、今年の2月に20歳の若さで命を奪われたポップ・スモークのヒット・ソングです。彼はUKドリルを経由して独自に発展した〈ブルックリン・ドリル〉のシーンを代表するラッパーの一人だったので、失くなってしまったのが本当に残念で……」

田中「この曲、もともと2019年のミックステープ『Meet The Woo』の収録曲なんですよね。その後、ポップの死後にじわじわとチャートの順位を上げていき、スリーパー・ヒットになったと。ドリル特有のビートやベースライン、ポップの低い歌声によるフロウが印象に残る一曲です」

天野「ポップ亡きいまも、ブルックリンのドリル・シーンは盛り上がっています。まだまだたくさんの才能あるラッパーたちがいるので、今後も注目したいところです」

 

17. Soccer Mommy “circle the drain”


天野「サッカー・マミーはナッシュヴィル出身のSSW。この曲は、今年の2月に発表されたアルバム『color theory』からのリード・シングルでした。2018年の前作『Clean』はSSW然としていて、オルタナティヴ・カントリー色も濃いアルバムでしたが、新作はドリーム・ポップやサイケデリック・ロックの要素がぐっと増しました」

田中「全体的に浮遊感のあるサウンドなんですよね。個人的には、レディオヘッド『The Bends』(95年)への2020年代USインディーからの回答……なんて思ったりも。自身のうつや闘病中の母親への思いを綴った『color theory』は、アーティストとして大きな飛躍を遂げた作品だと思います。なので、そこからの一曲としてこの“circle the drain”を選出しました。90年代のグランジーな質感があるMVも素敵です」

 

16. IZ*ONE “FIESTA”


天野「IZ*ONEの“FIESTA”が16位です! 今年はK-Popのチェックをサボっていて、〈PSN〉でまったく紹介できていないことが反省点。そんななかでも、2018年から活動を始めた彼女たちのことはおもしろいなと思っています。韓国と日本の合同グループで、HKT48/AKB48の宮脇咲良など、日本人のメンバーが3人いるんです。それ自体は珍しくないのですが、IZ*ONEの活動はAKB48グループと直接関係しているので、もっと自覚的にK-PopとJ-Popを横断する存在だと思いますね」

田中「なるほど。たしかに、この曲はJ-Popファンの心にも響くようなメロディーがいいですよね。でも、全体的にはK-Popらしいキュートな電子音で彩られた、躍動感あふれる軽快なダンス・ポップ。今年のK-Popでは他に、ITZYの“WANNABE”ZICO(지코)の“Any song(아무노래)”IU(아이유)とBTSのSUGAによる“eight(에잇)”といった話題曲がありましたね」