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 2020年12月、ファースト・フル・アルバム『HAYATOSM』発売に先駆け、角野はサントリーホールという舞台で、ふたりの偉大な名曲たちに真っ向から挑んだ。

 公演決定の予告映像では、彼がショパンの代名詞と位置づけている“英雄ポロネーズ”を披露。満場のリサイタルもこの曲からスタートし、つづくノクターンの響きで会場を酔わせた。“子犬のワルツ”とペアリングさせた自作の“大猫のワルツ”や“ピアノソナタ0番「奏鳴」”などをはさんで、リストからは“死の舞踏”や“ハンガリー狂詩曲第2番”。後者に添えられた自作のカデンツァや非公開のセットリスト、リアル公演とStreaming+配信の2部構成も革新と驚きに満ちていて、心を掴まれた。

 最も印象的だったのは、音が消える瞬間まで計算しつくされたように、丁寧で美しい弱音。ショパンの繊細さとリストの即興性。角野の音楽は、それぞれの美点を内包しているようだ。

 「楽曲としてはショパンが好きなんです。彼の音楽は和声がものすごく綺麗で、シンプルかつ無駄がない。余分なものは加えず、最も美しく音を響かせるにはどうすればいいかを常に計算している。それに対してリストは――若い頃に限った話ですが、第一印象が派手です。楽譜を見ても〈弾ける人が書いたんだろう〉と一発でわかるんです。しかし、意外なことにその音型は単純。ショパンのそぎ落としたシンプルさとは違って、リストは音数が多く技巧的には難しいけど、じつは暗譜しやすい。それってたぶん、本番の即興性を第一にしていたからじゃないでしょうか。どこか自由な雰囲気を孕んだカリスマ性、スター性というのが、リストへの憧れの主軸です」