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ショパンコンクールから一年。未来を創る人の〈胎動〉と〈追憶〉

 2022年10月17日。ショパンの命日に公開された角野隼斗のYouTube動画に驚愕した人は多いだろう。ポーランド国立放送交響楽団の来日ツアーでソリストを務めた“ショパン:ピアノ協奏曲第1番”が、まるごと披露されていたからだ。巨匠マリン・オルソップが指揮する〈ショパンの祖国〉の名門オーケストラの響き。マズルカ風のその旋律に身をゆだね、深く瞑想するようにピアノに向かう角野の姿は、前年のショパンコンクールで彼に魅了された世界中の人々が見たいと願った、夢の再来だった。4分後、万感の思いを告げるように響いた独奏ピアノの音。思わず涙し、若きショパンの言葉を思い出した。「(この協奏曲は)静かでもの憂げな、それでいて懐かしいさまざまな思い出を呼び起こす場所を、心をこめて、じっと見つめている」(「ショパン全書簡」岩波書店)。

角野隼斗, MARIN ALSOP, POLISH NATIONAL RADIO SYMPHONY ORCHESTRA 『ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11』 eplus music(2022)

 この一年、世界を舞台に一層多彩に疾走してきた角野が、再び向き合うショパンだった。ポーランド国立放送交響楽団にとっても23年ぶりの来日とあり、話題となったそのツアーのライヴ録音が、いよいよ12月に発売される。動画を目撃しても(したからこそ)なお手に入れたくなる彼だけの〈音〉は、初回盤ボーナス・トラックとして収録されるオリジナル曲にも通底している。“エチュードOp.10-1”と“バラード第2番”からインスパイアされ、角野が作曲した“胎動”と“追憶”。とりわけ“追憶”のアップライトピアノの微かに曇った響きは、寂寥を孕みながらあたたかく、懐かしく、心の奥深くを揺さぶる。彼の〈音〉はいつも、私たちのそばにある。そんなふうに感じるのはなぜだろう。

 角野隼斗の根底にある、愛ゆえなのかもしれない。彼の動画に寄せられたコメントを目にするたび、理由あってホールに足を運べない、見えない音楽ファンの存在を知る。常識を飛び越え前進する彼の歩みは、そうした人々をも巻き込み、クラシック音楽の未来を創っているのだ。2023年1月からは、新たな全国ツアー〈Reimagine〉もはじまる。あの〈音〉に再び会えることを楽しみに、この新譜を大切な人たちに贈りたい。

 


LIVE INFORMATION
⾓野隼⽃全国ツアー2023 “Reimagine”
2023年1月19日(⽊)宮城・⽇⽴システムズホール仙台 コンサートホール
2023年1月27日(⾦)神奈川・横浜みなとみらいホール ⼤ホール
2023年1月29日(⽇)岡⼭・岡⼭シンフォニーホール ⼤ホール
2023年2月1日(⽔)新潟・りゅーとぴあ 新潟市⺠芸術⽂化会館 コンサートホール
2023年2月3日(⾦)⼤阪・ザ・シンフォニーホール ほか
https://hayatosum-tour2023.com/