Page 2 / 3 1ページ目から読む

自分はポップスを作っているつもり

Cuusheの音楽はファンタジーの世界を想起させる。フェミニンな香りと淡い色彩、やさしさと緊張感。そういったイメージを音と映像で捉えたのが、彼女の代表曲“Airy Me”のMVだ。2013年、久野遥子が卒業制作として手掛けたこのアニメーションは数々の賞を受賞し、海外からも称賛の声が相次いだ。その後、同年にセカンド・アルバム『Butterfly Case』、2015年にEP『Night Lines』を発表。2012〜2014年までベルリンに滞在していたCuusheは、〈自分が作りたい音楽が明確になってきた時期〉と当時を振り返っている。

――僕もそうでしたが、“Airy Me”のMVでCuusheさんのことを知った方は多いと思います。この曲ではどんなことを歌おうと思ったのでしょう。

2009年作『Red Rocket Telepathy』収録曲“Airy Me”
 

「この頃は歌詞をすべて即興で作っていました。フリースタイルのラッパーじゃないですけど、ずっと休み時間に歌っていたこともあって、歌さえあれば言葉が自然と出てきたんです。今はもうそのチャクラは閉じてしまいましたけど(笑)。私はずっと心の中に空虚感を抱えていて、友人がいないわけじゃないけど、言葉がすぐに出てこないというか。そのせいで、他人と心を通わせられない感覚がありました。いろんなものが反響する世界で、そういう空虚で不確かな自分が、誰かがいることでぎりぎり保っていられる。そういうことを描きたかったんだと思います」

――当時、海外ではチルウェイヴやドリーム・ポップが非常に人気でしたよね。Cuusheさんの音楽も、そういったシーンの音楽が引き合いに出されていた印象です。

「ファースト・アルバムの頃は、自分がどんな音楽を作っているのかわかってなくて。周りから評価してもらうようになったことで、自分の作っている音楽はエレクトロニカなんだ、ということに気づかされました。一人で音楽が作れることをそういったジャンルの音楽から教えてもらったけど、そもそも歌が歌いたくて、ポップスを作っているつもりだったから、電子音楽の世界には正直戸惑いがありました。この頃からドリーム・ポップと呼んでもらうことも多くなったけど、当時比較されていた音楽――コクトー・ツインズやスロウダイヴなどは(自作の)レビューを読んで知り、そこから気に入ることが多かったです」

――2012年の『Girl you know that I am here but the dream』(新曲3曲と前作のリミックスを収録)では、ジュリア・ホルターやティーン・デイズ、ブラックバード・ブラックバードなど錚々たる面々がリミキサーとして参加しています。この作品を振り返ってもらえますか。

「もともとジェフ・バックリィとか、この頃だとサム・アミドンみたいな音楽が好きで。彼らみたいに歌だけでも良いと思える曲を目指して、シンプルに作ることに立ち返ったのが(同作収録の)“Do You Know the Way to Sleep”です。初めてギターを使った曲で、色々エフェクトを突っ込んだことでシンセサイザーでは出せない無限の広がりを感じて、この時期のサウンドを固めていくベースになった大切な曲です。

2012年のEP『Girl you know that I am here but the dream』収録曲“Do You Know the Way to Sleep”
 

この曲をSoundCloudに公開して、いろんなフィードバックをもらうなかで、(リミックスを手掛けた)ジュリア・ホルターやモーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルなど、私と同じようにDIYで作っているアーティストに興味が沸いたんです。もちろん彼らはPCも使ってるとは思うけど、電子音楽を追求するために使用しているというよりは使いやすいツールとして使っているだけのような。ローファイでオーガニックなところにシンパシーを感じました」

――2013年にセカンド・アルバムの『Butterfly Case』を聴いたとき、プロダクションの飛躍ぶりに驚かされました。

Cuushe 『Butterfly Case』 flau(2013)

「ありがとうございます。まとまった時間がないとアルバム制作ができない性分で、以前から興味があったベルリンにワーホリで行けることになり、そこで制作をしようと思いました。マイクがコンデンサーに変わったのと、やはり部屋が大きいので大きな声を出したり、ギターを気兼ねなく弾けたりする環境は大きかったですね。

ベルリンの冬は寒くて、友人たちも引きこもって制作していることが多く、孤独が極まり……そういうときに制作は進むもので、夏と秋にたくさん行ったクラブの影響もあり、前述した“Do You Know the Way to Sleep”からの流れにありつつ、ビートの要素や多幸感を汲んだものができたと思います」

2013年作『Butterfly Case』収録曲“I Love You”
 

――2015年のEP『Night Lines』をあらためて聴き直し、最新作『WAKEN』に通じるダンサブルなサウンドがすでに鳴っていたことに気づかされました。

「ベルリンでは開放的な気分で音楽を作れていましたが、そこから東京に戻って、隣人からの騒音を気にしながら深夜に制作する生活に戻りました。そういう周囲を気にしなくてはいけない疎外感、たくさん人はいるけど孤立している感じ。まだベルリンの残り香はあるけど、小さな声で死んだようなディスコを作っていました。自分なりのシティ・ポップかもしれません」

2015年のEP『Night Lines』収録曲“We Can't Stop”