(左から)丸山素直、三宅亮太
 

昨年のEP『Ecco Funk』に続いて、シンセサイザー・ユニット、CRYSTALのセカンド・フル・アルバム『Reflection Overdrive』がリリースされた。フューチャリスティックでサイバーな質感をまといながらも、骨っぽいファンクや、80年代のテクノ・ポップ、更には当時のシンセ歌謡的な雰囲気すら引き寄せた内容は、現在世界的なトレンドとなっている〈ニュー・レトロ〉的世界観とも強く触れ合うものだ。

彼等はしかし、2009年のデビュー以来常にそういった表現を深化させてきた〈先駆者〉でもあり、流行はどこ吹く風、飄然と自らのサウンドを追求してきた。時代と並走するようでいて、どこか突き放したようなCRYSTAL特有のアティテュードは、この10年以上、世界のクラブ・ミュージック/ダンス・ミュージック・シーンと厚い交流を続けてきたゆえの〈現場的感覚〉が表出したものなのかもしれない。

軽やかに耳を通り過ぎていく全11曲は、よく聴くとどこかいびつで、きわどくもある。これまであまり語られることのなかった経歴から新アルバムの内容まで、メンバーの三宅亮太と丸山素直に話を訊いた。

CRYSTAL 『Reflection Overdrive』 FLAU(2021)

フレンチ・エレクトロからのフックアップはバグで起こった!?

――CRYSTALの日本語でのインタビュー記事は珍しいと思うので、経歴的なところからお伺いします。結成のいきさつは?

三宅亮太「CRYSTALを始めようと思った10数年前って、インディー的な価値観の中で音楽を聴いていた僕らからすると80年代ポップス的なもの=ダサいものだったんですよ。けれど、元メンバーの大西(景太)君と、自分たちはあえてそういうものを志向してみたら面白いんじゃないかという話になって。バンド名もなるべく80年代感のある単語でいこう、と話したんです。そこで〈ペガサス〉と〈クリスタル〉でコイントスをして、結果的に今の名前になったという」

――丸山さんがメンバーに加わった経緯は?

丸山素直「大学の文化祭で松田聖子のコピー・バンドをやって、CRYSTALの前座として演奏したんです。私はドラマーでした。それまで打ち込み系の音楽はあまり聴いてなかったけど、CRYSTALの80年代感はとても面白いなと思って。その後、〈今度ライブハウスに出るので、サポート・ドラムとして参加してくれないか〉という誘いを受け、そのままメンバーになりました」

――現在、丸山さんはシンセサイザーも演奏していますね。

丸山「はい。両親がともにクラシックの先生で、家がピアノ教室なので、私も鍵盤をずっとやっていたんです」

――CRYSTALはまずフランスのダンス・ミュージック・シーンで発見されて、同国のレーベル、インスティチューブス(Institubes)から2009年にデビューをするわけですが、それは具体的にはどんな流れだったんですか?

三宅「Myspaceで自分たちのページを作っていたんですけど、システムのバグかなにかでジャスティスのギャスパール(・オジェ)さんのトップ・フレンドに僕らが載ったことがあって(笑)。そうしたら、そこから辿って聴いてくれたサーキンからコンタクトがあり、彼のレコードを出していたインスティチューブスからリリースすることになったんです。当時はフレンチ・エレクトロのシーンでも80年代のリヴァイヴァルがあったし、その流れにうまくハマったのかもしれません」

2010年にインシティチューブスからリリースしたシングル“Neo Age”収録曲“Magic”
 

――偶然がきっかけだったんですね(笑)。その後もフランスのレーベル、サウンド・ペレグリーノのコンピレーションに参加するなど様々な活動を経て、2015年にFLAUから日本デビューするに至ります。

三宅「最初はたしか、FLAUのフクゾノ(ヤスヒコ)さんがレーベルのロゴをリニューアルしたいとかでイラストレーターをやっている僕の弟(三宅瑠人)にコンタクトがあり、そこから繋がった感じですね。当初フクゾノさんは僕と弟を同一人物だと勘違いしていたらしいですけど(笑)」

 

ヴェイパーウェイヴと僕たちは違う

――僕は、アルバム『CRYSTAL STATION 64』(2015年)でCRYSTALの存在を知ったと記憶しているんですけど、最初に聴いたとき、当時はまだいわゆるシンセウェイヴ的なものが今ほど世界的に広がっていなかったというのもあって、〈こういうことをやっている人たちが日本にもいるんだ!〉と驚いた覚えがあります。あのアルバムは、どういったサウンドを目指して制作したんでしょうか?

三宅「キツネからリリースされていた楽曲とかああいうおしゃれなシンセサイザー・サウンドをやるのが周りでは主流だったんですけど、僕はもっとやかましくて、垢抜けない感じのものをやろうと思っていました。昔のゲーム音楽や、アート・オブ・ノイズのようなユーモアのある音楽が好きだったのも大きいと思います」

2015年作『CRYSTAL STATION 64』収録曲“No Fun”
 

――当時は、近い流れにヴェイパーウェイヴもありましたよね。その辺りも意識していましたか?

三宅「そこはやっぱり意識していましたね。特にヴィジュアル面が好きでした。けれど、僕らとヴェイパーウェイヴは音楽的には違うと思っていて……」

――ヴェイパーウェイヴとシンセウェイヴってよく混同されますけど、ヴェイパーウェイヴがほぼ丸々サンプリングによって出来ているのに対して、シンセウェイヴ系は基本的にイチから作るものですしね。

三宅「そうそう。そういう意味では、僕らはサンプリングされる側にいたいなと思ったんです。そのスタンスは今回のアルバムでも変わらないですね」