Mikiki編集部のスタッフ4名が〈トキめいた邦楽ソング〉をレコメンドする週刊連載、〈Mikikiの歌謡日!〉。更新は毎週火曜(歌謡)日、数無制限でNEWな楽曲を軸に、たまに私的マイブームも紹介していくので、毎週チェックしてもらえると思いがけない出会いがあるかもしれません。どうかごひいきに! *Mikiki編集部
【田中亮太】
ミツメ “なめらかな日々”
ミツメ・イズ・ナンバーワン。彼らを特別なバンドにしている理由は、モンドやアヴァンギャルドへの嗜好をフレーズやアンサンブルに落とし込みつつ、その完成形としてインディー・ポップとしか言いようのない音楽を作っていることだと思います。だってこの曲、細部を切り取るとヘンテコだらけなのに、ウキウキもウットリもできる良い曲なんだもの。“エスパー”以降のミツメは、曲の練磨とサウンド面での挑戦との足並みが揃っていて、バンドとして第二の円熟期に入っている印象です。『eye』(2012年)を越えたと断言したい新作『Ghosts』は本日フラゲ日。
踊ってばかりの国 “weekender”
現5人編成の踊ってばかりの国は本当に凄い。下津光史が見つめる無情の世界に、色と風を与えるバンドの演奏。ほったらかしにしていいバンドじゃない。
よしむらひらく “君が踊り続けられるように”
2017年の11月より活動休止していたシンガー・ソングライター、よしむらひらくが再始動。はたせぬ夢を胸に抱えたまま、それでも歩むことをやめられなかった男のオーヴァー・サーティー・ブルース。
エイプリルブルー “エイプリルブルー”
For Tracy Hyde、I Saw You Yesterday、ARAM、17歳とベルリンの壁のメンバー4名が、バンド経験なしのヴォーカリスト・船底春希と結成したというエイプリルブルー。本日18時に解禁のデビュー曲です。星屑を散りばめた轟音とマンチェスターから届いたビート。悲しい彼女は今日も涙を見せない。ハッチーのフロント・アクトはこのバンドで決まりですね。
【高見香那】
KΣITO “令和Gqom”
〈令和〉で踊ろう。テクノウルフなどでも活動するプロデューサー/DJのKΣITO氏が、〈令和〉となんと南アフリカ発祥のハウス・ミュージック〈ゴム〉を掛け合わせた〈令和ゴム〉を発表。これがなんとも、この新元号に付随する複雑さとも合っているような気もして、良い。子どもに聴かせたら泣いてしまいそうですが。
太郎忍者 “Pussy (feat. Jin Dogg, MonyHorse, Shurkn Pap & A-THUG) [Remix]”
〈最近知った/Pussyの意味〉〈お前Pussyじゃん〉で話題となった小学生ラッパー、その“Pussy”のリミックスが公開に。見てのとおりの気合いの入った先輩方の中で、原曲よりも主役のラップが光っている印象です。
FLASHLIGHTS “Shadows”
現在活動休止中のロッカチェリーというめちゃくちゃ格好良いガレージ・パンク・バンドがおられるのですが、そのギター/ヴォーカルのようこさん擁するバンド、FLASHLIGHTS。これは彼らの2016年のファースト・アルバム『Shadows and Lights』からの大好きな一曲で、現在は入手困難なこのアルバムが近々アナログ化されるとのニュースがあり、嬉しくて紹介したくなりました。ヴェルヴェッツ、モダン・ラヴァーズとか好きな人にはバッチリのガレージ・サウンドとちょっとドリーミーなメロディー。艶っぽいヴォーカルで歌われる日本語詞、ようこさんのコーラスがうすーく入る〈シティ・ライトが まぶしくて~〉からの良サビ、〈静〉って感じの体温低めなムード……。とにかく聴いてみてと強く言いたい。
【酒井優考】
Young Juvenile Youth “Hung Up”
今週は豊作だったので日記形式で。3/22。暗い箱のなかに佇むような“DARKROOM”、優しいのに刺してくるような“Sugar Spike”に続いて配信リリースされた3か月連続配信曲の3作目。いつも音数は最低限でやっぱり孤独感を感じるけど、前2作より人の体温が乗り移ってきた感じ。バラエティ番組で出自やキャラクターが注目されたりもしてるけど、そんなことよりも、もう無二のジャンルを築きあげている彼女の音楽に注目が集まってほしいです。
太陽コンピューターfeat.cuushe “キオク”
3/25。乃木坂46のPV制作チームから生まれたユニット、らしいです。最初の配信曲ではヴォーカルにYeYeをフィーチャーしていて、2作目となる今作ではcuusheをフィーチャー。それ以上のことはよく知らないんですが、この徐々に来るぞ…っていうシューゲイザー的サウンドになぜか引っかかりました。
東京事変 “閃光少女”“スーパースター”
3/26。解散から7年経って突如ドロップされたライヴ映像。〈イチローが引退したからじゃないの?〉なんて友人は言ってたけど、これってすでに何かのフラグが立ってると思いませんか。
グーグールル “Picked”
作曲したken akamatsu氏(Words Studio/チャンポンタウン)のツイートで知りました。6人組アイドルユニット。この低体温でずんずん侵食してくる感じ、すごくいいと思います。
Cornelius “Audio Architecture”
3/29。昨年作『Ripple Waves』収録曲で、〈AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展〉のテーマ・ソング。同展でも公開されていたPVが公開に。音とシンクロする圧倒的な映像美。
レトロな少女 “教頭戦線異状なし”
3/29。人生で初めて“LOVEずっきゅん”を聴いた日を思い出しました。ぜひ御多忙プピーピと対バンしてください。
キュウソネコカミ “ギリ昭和 ~完全版~”
4/1。昨日はいろんな方がかなりのスピード感でいろんな話題を振りまいてくれましたが、去年の6月から歌詞に新元号を当てはめる曲を作っていたという発想にアイデア賞を差し上げたいです。
【天野龍太郎】
Kizuna AI “AIAIAI(feat. 中田ヤスタカ)”
連載〈Pop Style Now〉のためということもあり、情報収集のために日々海外メディアを巡回しているなかで、なぜかバーチャルYouTuberのキズナアイに行き会った。しかも、先鋭的な音楽ばかりを取り上げる〈Tiny Mix Tapes〉で。
〈TMT〉はそもそも、この曲を作詞・作曲・編曲している中田ヤスタカをかねてから高く評価していて、きゃりーぱみゅぱみゅやPerfumeをたびたび取り上げている。だからキズナアイも載せているわけだけど、極めてドメスティックな存在であるバーチャルYouTuberをまったく文脈の違う英語圏のメディアで見かけると、ちょっとびっくりする。
で、このキズナアイの“AIAIAI(feat. 中田ヤスタカ)”はペンタトニックなメロディーが〈これぞ〉という一曲。キャンディー・ポップな装いの一方で、やっぱりプロダクションは攻めていて、フューチャー・ベースやK-Popのサウンドを独自解釈しているのが刺激的(歌詞が強烈……)。キズナアイのアルバム『hello, world』は5月15日(水)リリース。
折坂悠太 “抱擁”
ミュージシャンはライヴやグッズ/マーチャンダイズで稼ぐしかないという言説があって、そういう事実ももちろんある。でも結局、優れた作品を残さないことには、そういった話にも及ばないのではないかと感じることが多い。
その意味で、2018年は折坂悠太と中村佳穂という2人のストイックな音楽家が優れた作品を残し、ブレイクスルーを果たした年だった。それはミツキが『Be The Cowboy』という作品を世に問うて高い評価を得たのとどこか相似形を描いていたとも思う。〈好きな人は好き〉というインディーのミュージシャンから、表現の鋭さはそのままにポップ・フィールドへ打って出たという点で。
アルバム『平成』に続く折坂悠太の新曲“抱擁”は、サンバのフィーリングを感じるスローで穏やかなラヴソング。〈ひねもす〉という古い言葉と〈キス〉というカタカナ語が同居しているのがおもしろい。昨年の成功の後にこうした楽曲を届けてくれることが、なんとも心強いと思う。
never young beach “春らんまん”
昨年、マック・デマルコが細野晴臣の“Honey Moon”をカヴァーして話題になったけれど、never young beachの新曲“春らんまん”は、そうした音楽史のツイストのさらに次のフェイズというか。彼らは細野晴臣や大瀧詠一(言うまでもなく、大瀧作曲の同名曲がはっぴいえんどの『風街ろまん』に収録されている)から受け継いだものを多く持っているものの、そんな重たさは微塵もなく、バンドのアンサンブルはどんどん身軽に、柔らかく、しなやかになっていっている。このさりげなさ。2000年頃のくるりのようだとも思う。
Suchmos “Indigo Blues”
ニュー・アルバム『THE ANYMAL』に収録されている12分弱のサイケデリック・ロック・スイート。(音質は措くとして)68年か69年の録音だと言われたら信じてしまいそう。音像の奥から聴こえてくるザラついたテクスチャーのYONCEの陶酔的なヴォーカルに圧倒される。横浜スタジアムの後は東高円寺のU.F.O.CLUBでライヴしてほしい。
萩原健一 “祭ばやしが聞こえる”
ショーケンといえば、僕にとっては俳優というよりもシンガー。大好きなのは79年のライヴ盤『熱狂雷舞』で、いつ、どこで買ったかは忘れてしまったものの、2枚組のアナログ・レコードも持っている。ショーケンの汗が飛んでくるようにも感じられるこの生々しいライヴ録音は、僕だけでなく多くの聴き手をいまだに惹きつけている作品だということは強調しておきたい。GS時代のザ・テンプターズでも、ロック時代の(沢田研二や岸部一徳らとの)PYGでもなく、79年のショーケンなのだ。
『熱狂雷舞』が愛されている理由は、バックで演奏する柳ジョージ&レイニーウッドの演奏が素晴らしいからだというのもあるだろう。この録音には、セクシーなロック・フィーリングとファンキーでグルーヴィーでねっとりとした歌謡曲っぽさとが見事に同居しているのだ。でもやっぱり、それ以上にショーケンの歌がカッコイイ。かすれて、たまにうわずる歌声は、どこかボブ・ディラン(75~76年の〈ローリング・サンダー・レヴュー〉の頃)を彷彿とさせる。曲間に男女の〈カッコイイ!〉という叫び声が聞こえるが、思わず自分も言いたくなる。カッコイイ! 萩原健一さんのご冥福をお祈りいたします。