田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。第63回グラミー賞の授賞式が開催されましたね! 主要4部門の受賞者はビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフト、H.E.R.、メーガン・ザ・スタリオンと、女性アーティストが占めました」

天野龍太郎「人種差別の問題などがあるなかでも、全体的に順当な結果だ、というのが今年の評価でしたね。ただ、ビリーが“everything i wanted”で年間最優秀レコードを受賞した際にネガティヴな反応を示して、〈メーガン・ザ・スタリオンが受賞にふさわしい〉と語ったのが忘れられません」

田中「もうひとつ、今週は音楽界に激震が走ったニュースがありました……。ライ(Rhye)のマイケル・ミロシュ(Michael Milosh)が、元妻のアレクサ・ニコラス(Alexa Nikolas)から性的暴行やハラスメントなどで告発されました。ニコラスのInstagramでオープン・レターが公開されています」

天野「ミロシュは否定していますが、本当だとしたらひどい話です。同意を得ない性行為の強要から、離婚後の慰謝料の支払いの拒否まで……。そもそも初対面のときにミロシュが33歳でニコラスが16歳、ミロシュはニコラスを隷従させるのに、長年その年齢差による権力勾配を利用していたという話ですから。今後の展開も見届けたいと思います。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Hiatus Kaiyote feat. Arthur Verocai “Get Sun
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はハイエイタス・カイヨーテの“Get Sun”。ハイエイタス・カイヨーテはオーストラリアのネオ・ソウル・バンドで、2015年のアルバム『Choose Your Weapon』が世界中で賞賛されました。Mikikiでは、冨田ラボこと冨田恵一さんが彼らの魅力について綴ったintoxicateのコラムがヒット記事になりましたね。この曲は、6月25日(金)にリリースする6年ぶりの新作『Mood Valiant』からの最初のリード・シングル。フライング・ロータス主宰のレーベル、ブレインフィーダー(Brainfeeder)に移籍したことも含めて、今週の話題をかっさらった一曲です」

天野「2018年にヴォーカリストのネイ・パーム(Nai Palm)が乳がんを患っていると診断されて、しばらく活動休止状態だったので、復活はうれしいです。プレス・リリースでパームは、〈自分の人生が奪われようとしていると感じたら、自分が何者なのかを考えるようになる。たぶん、乳がんの恐怖を味わってからだと思う。私が持っているものが偽物ではないことを人生で証明しなくてはならないと決断した。私のたったひとつの願いは、生きて、自分が体験した時間と美を捧げること〉と綴っています。この“Get Sun”のアッパーで生命力にあふれた明るいムードは、彼女の思いが音楽化されたものなのではないでしょうか。リズム感覚も強烈です。それと、アルトゥール・ヴェロカイがフィーチャーされていることに、とにかく驚きましたね!」

田中「アルトゥール・ヴェロカイは、60年代からエリス・レジーナやガル・コスタらの作品を手掛けてきたブラジルの伝説的なアレンジャー/プロデューサー。傑作ソロ・アルバム『Arthur Verocai』(72年)も知られていますね。この曲では、優美なストリングスと快活なホーンのアレンジに彼の卓抜した仕事ぶりが窺えます。4ヒーローなんかをほうふつとさせるUKソウル的な煌びやかさ、華やかさがいいですね」

 

ROSÉ “On The Ground”

天野「2曲目です。ROSÉの“On The Ground”。僕はBLACKPINKのROSÉがソロ作品をリリースすると聴いてから、めちゃくちゃ楽しみにしていたのですが、日本でリリースされるまでにタイムラグがあったことなどで、先週紹介しそこねてしまいました……。なので、今週は絶対に紹介しようと思っていたんですよね! ミュージック・ビデオを観ているだけでわくわくします」

田中「天野くんはROSÉ推しですからね。昨年、BLACKPINKのライブで初披露されるなど、煽りに煽って満を持してリリースされたのが、〈シングル・アルバム〉というK-Pop独得の形態でリリースされた2曲入りの『R』。同作には、この“On The Ground”と“Gone”が収録されています」

天野「K-Popでは普通のアルバムを〈正規アルバム〉と、シングルやミニ・アルバムのフィジカルを〈シングル・アルバム〉と呼ぶそうですね。収録曲の“Gone”は、ほぼROSÉの歌とエレクトリック・ギターだけのシンプルなポップ・バラード。対して〈A面〉と言っていい“On The Ground”は、ギターを中心としたヴァースから歪んだサブ・ベースがうねるサビのコーラスへ展開していくドラマティックな曲ですね。浮遊感のあるプロダクションは派手すぎず、ゆったりとしたテンポも含めていい曲だなと思いました。『folklore』以前のテイラー・スウィフトやロードなんかをほうふつとさせる、今様のアメリカン・ポップ路線ですね」