ハイエイタス・カイヨーテから新たなプロジェクト トレス・レチェスが始動!

 ハイエイタス・カイヨーテといえば、ネオ・ソウルをビート・ミュージック以降のセンスで刷新した音楽性でグラミー賞に3度ノミネートされたバンドだが、そんな彼らが新たなプロジェクト=トレス・レチェスを立ち上げ、アルバム『The Smooth Sounds Of Tres Leches, LHCC Mart Vol. 1』をリリースした。ハイエイタスの代表曲のセルフ・カヴァーから成る作品だが、余りにも大胆に原曲を再解釈しているがゆえ、カヴァー・アルバムとは言い難いだろう。むしろ、純然たる新作として楽しめるはずだ。

TRES LECHES 『The Smooth Sounds Of Tres Leches, LHCC Mart Vol. 1』 Brainfeeder/BEAT(2025)

 そのサウンドはヴェイパーウェイヴとシティ・ポップとフュージョンとチル・ウェイヴを折衷したような、爽やかでリゾート感覚に満ちたインストゥルメンタル・ミュージックだ。当初はハイエイタスのアルバム 『Love Heart Cheat Code』の架空のスーパーマーケットのサウンドトラックとして構想されたそうで、なるほど、イージー・リスニング作品として心地よく耳をくすぐるところも多々。また一部では、アンビエント色も漂い、日本の環境音楽に触発されたような繊細なテクスチャーを味わうこともできる。

 ただし、単なるBGMとして聞き流せるようなシロモノではない。よくよく聴き込めば、細部まで練りこまれた立体的な音像、淀みなくなめらかなギター・ソロ、硬質なブレイクビーツ、ボサノヴァやジャズを消化した瀟洒なアレンジなど、多面的で複層的な魅力を湛えた作品だと分かるはず。ハイエイタスのフロントに立つネイ・パームのヴォーカルこそ入っていないものの、ギターやキーボードの奏でる旋律はうたごころに満ちており、歌声の不在を補ってあまりある印象だ。

 この成果がハイエイタスにどのように還元されるかも気になるところだが、まずはまっさらな気持ちで驚異の新人(同然と言える)プロジェクトのおそるべきデビュー盤に触れる心づもりで、本作を堪能してみてはいかがだろうか。