Photo by Steve Gullick

ここ数年活況を呈している英サウス・ロンドンのロック・シーンから、とびきり個性的なバンドが現れた。その名もドライ・クリーニング。あのイギー・ポップが注目する4人組だ。歌というよりも語りに近いフローレンス・ショウのアンニュイなヴォーカルと、USオルタナティヴ・ロックからの影響を感じさせるサウンドは、同地のシーンで異彩を放っている。

そんな彼女たちが、名門4ADからデビュー・アルバム『New Long Leg』を2021年4月2日(金)にリリース。これを機に、メンバーが選曲したプレイリストも参照しながら、彼女たちの魅力に音楽評論家の小野島大が迫った。

なおドライ・クリーニングは、タワーレコードでヴァーチャル・インストア・ライブを開催する。こちらも観逃さないでほしい。 *Mikiki編集部

DRY CLEANING 『New Long Leg』 4AD/BEAT(2021)

 

〈ドライ・クリーニング〉とソニック・ユースの〈洗濯機〉

クールでスタイリッシュ、ダークでノイジーでミニマルなサウンドは、ソニック・ユースやジョイ・ディヴィジョンのようなオルタナティヴ〜ポスト・パンクに通じる。どこまでも平熱のフラットなトーンで淡々と呟くように歌う女性ヴォーカルが強烈に耳に残るが、対照的にギター・サウンドはメロディアスで饒舌だ。オープニング曲“Scratchcard Lanyard”は、そんな彼らの音楽の特徴を過不足なく提示している。過去のさまざまなアーティストの影がよぎるが、単純にこれはアレね、と片付けられない個性がある。ニュー・ブリティッシュ・サウンドの震源地:サウス・ロンドンから現れた話題の4人組ドライ・クリーニングだ。

『New Long Leg』収録曲“Scratchcard Lanyard”

まずはドライ・クリーニング、というバンド名が謎である。一体どんな意味がそこに込められているのか。ソニック・ユースが95年に発表した9枚目のアルバムは『Washing Machine』というタイトルだった。洗濯機→ドライ・クリーニングとくれば何らかの関連がありそうではある。あるいは、ソニック・ユースがやってきたことを自分たちなりに受け継ぎ発展させているという意思の表れなのかもしれない。しかしなにかのメタファーや、隠されたニュアンスや文学的含みがあるというより、文字通りの意味のままであって(つまり深い意味などなくて)、聴き手に特定のイメージも、何の先入観も与えないことに主眼があるような気もする。バンド名の段階であれこれ考えを巡らせてしまうだけで、既にこのバンドの仕掛けた巧妙な罠にハマっているということなのかもしれない。

ソニック・ユースの95年作『Washing Machine』収録曲“Little Trouble Girl”

 

非ミュージシャン、フローレンスのアンニュイな歌が起こす化学反応

2018年に結成され、自主制作で発表した2枚のEPが評判となり名門4ADと契約、この4月にファースト・アルバム『New Long Leg』を発表する。ポスト・パンク〜オルタナティヴの大型新人として本国では既に大きな話題を呼んでいる。しかしアーティスト写真を見ると、おそらくメンバーの年齢は30代から40代ぐらい。それなりのキャリアの持ち主であることがうかがえる。

それもそのはず、メンバーのうちルイス・メイナード(ベース)と、ニック・バクストン(ドラムス)の2人はラ・シャーク(La Shark)というバンドで活動していた。ラ・シャークは2010年ぐらいから活動を始め、2枚のアルバムを発表している。音楽はちょっとヒネくれたインディー・ロックという感じで、ドライ・クリーニングに比べずいぶんポップでねじれたユーモア感覚も感じられるが、これという突き抜けた魅力は感じられない。

ラ・シャークの2013年作『Limousine Mmmm...』収録曲“Magazine Cover”

おそらくラ・シャークでの活動に行き詰まってしまった2人は2017年に行われたパーティーでトム・ダウズ(ギター)と会ったことをきっかけに、彼と共にドライ・クリーニングを結成。当初はインスト・バンドだったが、半年後にフローレンス・ショウ(ヴォーカル)が加入し、現在のドライ・クリーニングの基本形ができあがった。当時は大学で絵画の講師をやっていたフローレンスの登場が、バンドの方向性を決定づけたのは間違いないだろう。

フローレンスはドライ・クリーニング以前の音楽キャリアは皆無だという。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのニコとか、ヤング・マーブル・ジャイアンツのアリソン・スタットンとか、フライング・リザーズのデボラ・エヴァンス=スティックランドとか、ステレオラブのレティシア・サディエールとか、ソニック・ユースのキム・ゴードンとか、そんな感じのぶっきらぼうなオルタナ系女性ヴォーカルをさらにフラットに、無表情に、抑揚を抑えてクールにしたような歌唱は、歌というよりはポエトリー・リーディングに近い。始めからそういうスタイルを狙ったというよりも、音楽の初心者ゆえそうするしかなかったのだろう。

『New Long Leg』収録曲“Strong Feelings”

だがそれが3人の作るバンド・サウンドと出会った時に化学反応が起きた。フローレンス加入前のトリオ時代の彼らの音楽性がどんなものだったかは不明だが、現在のドライ・クリーニングの曲作りは、完全にフローレンスのヴォーカルを中心に据えたもので、彼女のアンニュイな声が際立つようにアレンジや構成を錬っていることがわかる。最低限の楽器数、ダビングも最小限に抑えたミニマルなギター・バンド・サウンドだ。