
Kroiってやっぱりホーム・パーティーなんだよね
――そして、本日4月30日にリリースされる新曲“shift command”についてです。個人的にはアメリカの映画に出てくるホーム・パーティーみたいな雰囲気とか、祝祭のファンファーレみたいな雰囲気を感じました。あとは〈J-WAVE〉って感じ?
一同「(大爆笑)」
関「それめちゃめちゃ面白いっす!」

Kroi 『shift command』 PONYCANYON/IRORI Records(2021)
――(笑)。子供の頃、家でかかってたJ-WAVEって、こういう近未来っぽいオシャレな曲がかかってたよなって思ったんですよ。その辺は意識しましたか?って訊くのもおかしな話ですけど(笑)。
千葉「でもパーティー感はめっちゃ意識しましたよ。フックのメロディーとか雰囲気が楽しい感じがあるし、だからみんなで大騒ぎしてる声を入れたしね」
関「スタッフの人たちにも全員ブースに入ってもらって、マイクに向かって全員で〈イエーーーーイ!!〉ってね。あれはマジですごいパーティー感だった」
――だから、デビューするのにふさわしい曲だなって思ったんですよ。
千葉「それで選んだっていうのもちょっとあるよね。一発目に出す曲なので、華やかさがあった方がいいなというのは考えました」
――それはデモの段階からこういう華やかさがあったんですか?
千葉「もうちょいクールだったね」
内田「そうですね。華やかっていうキャラクター性はもともとあんまり無くて、みんなで作り上げていくうちに華やいだアレンジになっていきました」
千葉「オルガンが入ってなかったし、もうちょいロー・テンションぎみで」
――なぜ華やかになったんですか?
千葉「やっぱりオルガンが入ったからじゃないですかね(笑)」
内田「もともとのバッキングはシンセだったんだよね。だけど、いま〈近未来〉って言っていただいた通り、シンセのサウンドがマッチしすぎちゃうみたいなところがあって、逆に生のアナログの実機で録ろうっていうことになってオルガンにしたんです。だからそこで入れたハモンド・オルガンの華やかさが出たんじゃないかなって思いますね」
千葉「特別、華やかにしようっていう話し合いはしてないけど」
内田「使いたい音を使っていったら華やいだね」
千葉「いま言ってもらった〈ホーム・パーティー感〉っていうのも大事で、シンセを使うともっと壮大になっちゃうんですよ。ホーム・パーティーくらいの規模になるといいなと思ってたので、そこまで大きく盛り上げすぎないように、クールさを残したいと思ってました」
内田「Kroiってやっぱりホーム・パーティーなんだよね。(拳を挙げて)〈ウオーッ!〉〈ワーッ!〉っていうパーティーじゃない」
関「みんな内向きだからじゃない?」
内田「仲良いヤツらで集まって、小さい部屋でワイワイやるっていう感じなんだと思います」
――あと曲のキモになっているのがシンセベースかなと思います。あの音に懐かしさと新しさがあって。
関「あれはシンベなんですけど、怜央が(エレキ)ベースで弾けって言うんですよ(笑)」
内田「ベースを弾いてシンセベースの音を出してくださいっていうね」
関「で、急いでシンセのエフェクトを買ってすごく試行錯誤して弾いて、最終的にバーチー(千葉)に整えてもらってあの音になったんです」
千葉「大変だった……」
――こういうシンベ、どこかで聴いたことあると思っていろんなアーティストの音源をたくさん探したんですけど、やっぱりあの音は見つからなくって。
千葉「やっぱりあれは理屈としてはシンセの音ではないんですよね。弦楽器の音の鳴り方をしていて、どこかに違和感はあるんだと思います」
内田「そういう近未来感の中にもオルガンとか、ベースで弾くシンセベースとか、そういう人の力みたいなのを感じさせるものにしたかったので、それが伝わっていれば嬉しいです」
関「シンセでも成立するんでしょうけど、俺自身もどうせなら弾きたいという気持ちもあったので、怜央にそういわれた時は〈やるしかねえな〉って思いましたね。発音がすごくシビアで、細かい譜割りだと音が繋がっちゃったりするので、そのためにベースの弦高を高くしたりシューレースで他の弦が振動しないようにしたりと試行錯誤しました。でも、結果的にリスナーの人にはシンベだって聴かれてもいいんです。実はエレキ・ベースで弾いてるけどねってニヤニヤしながら思ってるので」
内田「セクションによっては生のベースも出て来るので、いつもと違う低音は演出できたと思います」

〈五月病・生ワクチン〉
――せっかくなので他のパートについても訊かせていただきましょうか。ドラムスはどこにこだわりましたか?
益田「ドラムスはプリプロの中盤まで打ち込みだったんですよ。でも自分は生のドラムでどうしてもやりたくて、〈生でやりたいです〉ってみんなに相談して。でも俺だけの意見だと通らない可能性があるから、裏から怜央に(小声で)〈俺、生ドラムやりたいんだよ〉って言い続けて(笑)」
内田「タクシーの中で言われたな~(笑)」
益田「〈じゃあ俺が援護してあげるよ〉って言ってくれて、それで生ドラムになりました」
――フレーズとかは変わってないんですか?
千葉「久々にデモを聴いたら結構変わってたよね」
益田「うん、そうだね」
関「ドラムスにしてもシンベにしても、打ち込みにしたら〈いかにも〉な曲になっちゃうなってね」
益田「ドラムスの音が生で温かいのにシンセベースみたいな音が入ってるとか、結構意味分かんないよね」
千葉「いやー難しいバランスだよ、これは」
――結構斬新ですよね。ギターはどうですか?
長谷部悠生「この曲はデモの時ちょっと構成が違ったんですよ」
内田「え、そうだっけ?(と言ってデモを流す)ああ、たしかにちょっと違うし、BPMを上げたね。何回かBPM戦争をしてさ、Zoomの会議でBPMを上げたり下げたり何度も試して」
長谷部「そうやってテンポ感や構成が変わっていく中で、フィルター系のエフェクトのかかり具合は何度もすごく考えましたね」
千葉「お、フィルター長谷部!」
長谷部「サビとイントロで弾き方も変えて差別化もして、ギター・ソロはトーンを絞って歪ませて弾いて」
――めちゃくちゃカッコいいソロですよね。そしてこの曲はラップがヤバい。
内田「本当ですか? 嬉しいです(笑)」
――個人的にはリリックを読み解くのが好きなんですけど、今回は〈なんじゃこりゃ!?〉って思いました。
内田「たしかに。今回またさらによく分からないリリックにしたので」
――今のこの暗く圧迫された状況を歌ってるようにも聴こえるし、ごちゃごちゃ言ってないでポジティヴに生きよう、みたいなメッセージにも聴こえたんですが、いかがでしょう。
内田「どこをどう言えばいいのか分からないけど、一応めちゃめちゃ暗いリリックを作ろうと決めていて。……だけど、明るくハッピーエンドで終われるかもしれないってなった時に、曲の出るタイミングも含めて考えたテーマが〈五月病・生ワクチン〉っていうものだったんです。五月病の憂鬱な歌詞を書いて、それを聴いてくれた人の中に注入して、抗体を作ってもらって5月を迎えるっていう、そういう策略を練ってたんです」
一同「おおー!」
内田「だから歌詞は暗く終わってるんです。“shift command”っていうタイトルも、〈shift〉と〈command〉にプラスして、あなたが何かアルファベットのキーを押して、この曲はあなたが完成させるんだよ、あなたのものになるよっていう意味も含まれているので。いろんな人の中に注入した“shift command”が、どういう抗体になるのかなって思いながら書きました」
――すごいメッセージのメジャー・デビューですね。
一同「(笑)」
内田「だから、割と歌詞の内容もそうなんですけど、曲を取り巻く反響すらも作品にできたらいいなということはよく考えてますね」