武満徹、高橋悠治など60年代に書かれた日本のピアノ曲を集めた画期的アルバムが50年を経て初CD化!

徳丸聰子, 高橋アキ, 小林仁, 本荘玲子, 平尾はるな 『ピアノ・コスモス~現代日本ピアノ曲集1960-69』 キング(2021)

 「戦後もすでに20数年をへた」————秋山邦晴によるライナーノート、冒頭の文章だ。

 70年の大阪万国博覧会を控えた69年の夏に録音された『ピアノ・コスモス』は、この文章にあるように〈戦後〉が遠ざかりつつある時期、あわせて、20世紀が後半にはいりつぎの世紀へと進みゆこうとする時期に書かれたこの列島のピアノ作品を集成する。

 このアルバムを発端として、『高橋アキの世界』、『現代日本ピアノ音楽の諸相(1973-1983)』と、それぞれ73年、83年にリリースされた。おおよそではあるものの、どのようなピアノ音楽が書かれてきたか俯瞰できた。

 『ピアノ・コスモス』収録の作曲家は12人。武満徹、篠原眞、石井眞木、高橋悠治ら6人が1930年代生まれで、その前後、20年代生まれの入野義朗、松下真一、佐藤慶次郎、40年代生まれの安達元彦、野田暉行、三宅榛名を配する。あらためて聴いてみると、個々の作曲家の違いはあるものの、〈60年代〉の語り口の共通性がつよくあらわれる。鍵盤が身体の前にあり、手と指は広い音域を右に左に跳躍し、聴き手は音たちが描く軌跡から想像上の彫刻を垣間みる。どちらかといえば、1枚目のほうが共通性がつよく、2枚目のほうにはずれる作品がいくつか。

 録音当時ではほとんどが20~30代か。ピアノを弾いているのは徳丸聡子、高橋アキ、小林仁、本荘玲子、平尾はるなの5人。いまから半世紀前でも、同時代の作品を演奏するピアニストは男性より女性のほうが積極的だったことが浮かびあがる(これはいまも変わらない、か)。

 ライナーノートはカラフルな4色。1曲について作曲者じしんのノートと上野晃の楽曲解説があるのも、当時かなり力をいれていたことをうかがわせる。

 いま、こうしたピアノ音楽のアンソロジーを編んだら、どうなるか。80年代から90年代、2000-2010年代というふうに。誰の、何がはいってくるか……。近年耳にした作品を想いだしながら60年代作品を聴いてみると、50年のへだたりは小さくない。そんなことをあらためて。