
スクイッド『Bright Green Field』に聴く生音と電子音の理想的な融合
――では改めて、スクイッドの新作『Bright Green Field』を聴いた感想を教えてください。
「すごくハイブリッドではあると思いました。でもハイファイな音楽ということではなく、土臭さを残した上で、ハイブリッドなことをめっちゃやってるなって。
〈ドラム・マシンを人力でやる〉って、ジョイ・ディヴィジョンの頃からやってることで、ニュー・オーダーは実際にドラム・マシンを使ったりしたわけですけど、その融合をこの時代に、このミックスでするっていうのは、ひとつの完成形なんじゃないかと思ったんですよ」
――具体的には、どんな部分でそう感じましたか?
「基本的には生音がありつつ、ビートの中の重要な刻み、例えば、ライド・シンバルにエレクトロニックな音色処理をしていて、さらにそこにホーンが入って、ジャズ的なコード感も出てくる。すごくハイブリッドなんだけど、でも隙間があって、何でもぶち込んでる感じにはなってないんですよね。ちゃんと全部の音を一つひとつ耳で追えて、〈これとこれが面白い〉というのがわかるし、しかも展開が無駄に多かったりしないから、その瞬間をすごく享受して楽しめるというか、マジすげえと思いました。さっきも言ったアンビエントっぽいミックス感、広がりも耳に心地よいし」
――生演奏と打ち込みの融合というのは、ずっといろんなバンドがトライし続けてるけど、このバランス、この組み合わせ方はこれまでに聴いたことがないと。
「音圧を上げるためのエレクトロ・ミックスは最近すごく多いと思うんですよ。スネアとクラップを被せたり、生のキックと打ち込みのキックを被せて、もっと音圧のある音像にする、みたいな。
でも、スクイッドの場合はシンプルなビートの中にエレクトロライクな刻みが存在して、ある意味浮いてるんですけど、それが面白い。まるでシーケンスのような、カチカチした抑制されたグルーヴ感があって、でもそれがあるからホーンとかの生ものがより生きてくるし、〈(エレクトロニックな音を加えているのは)音圧のためじゃない〉っていうところに好感が持てるんですよね」
――〈サブスク以降のバンド・ミュージックの音像・音圧とは?〉という問いに対してのひとつの回答にもなっていると言えるかもしれないですね。
「結局音圧があると、音像は狭く感じるんですよね。でもたぶんスクイッドはアンビエント的な広がりを大事にしてるから、ビートにもちゃんと隙間を作ってるというか。
そこに関しては、各楽器が上手過ぎないのもいいんですよ(笑)。ライブ映像を観ると、ベースの人がホーンを吹いて、そのときギターの人がベースに持ち替えたりしてて、そういう柔軟性があるのは、曲ありきというか、ちゃんと伝えたい音があるってことだと思うんです。フレーズ先行じゃなくて、音先行のフレーズ作りで、だから隙間を作るのも上手いんだろうなって」

Tempalayでは隙間がある音作りをしている
――ブラック・カントリー・ニュー・ロードのライブ映像とかを観ても、その感覚は伝わりますよね。でも、途中で言ってくれた、〈ハイブリッドなんだけど一つひとつの音がちゃんと追えて、アンビエント的な広がりが感じられる〉というのは、Tempalayの新作『ゴーストアルバム』もまさにそういう作品だったように思います。
「そこは俺自身がドラムですごく意識してるところなので。ライブは激しく、ダイナミクスをつけて演奏しますけど、音源だと……例えば、ハイハットをオープンにすることでギターのエフェクトの音が埋もれてしまう可能性がある。なので、極端に言えば、ビートはキックとスネアの質感さえ伝わればそれでいいと思ってて、できるだけ隙間がある音作りをしてるんです。それによって、アンビエント的なギターやシンセの音がより生きる。そういう隙間の作り方は最近メンバーとも話すようになりました。
音圧で聴かせるドラムって、俺なんか嫌なんですよ。それでかっこいいバンドももちろんいるんですけど、もっと耳に心地よい部分を大事にしたくて、Tempalayは綾斗の作る曲のメロディアスな良さもあるけど、それだけで終わらせたくないっていう気持ちがあるんです」
――スクイッドのメンバーはノイ!をはじめとした70年代のクラウトロック/ジャーマン・ロックからの影響を公言していて、実際に楽曲からもその影響が感じられますが、夏樹くんはリスナーとしてそのあたりはどの程度通ってますか?
「正直そんなに通ってなくて……(アインシュテュルツェンデ・)ノイバウテンとか、ノイズ、インダストリアルみたいなのは結構通ってるんですけど、逆にカンとかは最近聴くようになった感じです」
――日本のサイケデリック・ロックの系譜みたいなことで言うと、Tempalayの前にはゆらゆら帝国やオウガ(OGRE YOU ASSHOLE)がいて、特にオウガはクラウトロックの影響を消化しつつ、それをハウスやテクノを通過した耳で現代のバンドとして鳴らし続けているわけで、今のUKのバンドともリンクする部分がある気がしたんですよね。
「オウガはめっちゃ好きですね。2012年の〈フジロック〉のホワイトで観て、それまで日本のバンドって全然聴いてなかったんですけど、〈日本にもこんなかっこいいバンドいるんだ〉って思いました。シーン的にも、物理的にも※、中心からは距離を置いてやってる感じもめちゃめちゃかっこいいなと思うし」
――もちろん、だからと言って模倣をするわけではなく、TempalayはTempalayとしての音楽性を確立していきましたよね。
「ただ、俺が影響されるのはやっぱり音像なんですよ。曲の感じは違っても、音像の面では〈オウガみたいな音にしたい〉っていう思いはずっとある気がします」