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『Bandwagonesque』よりも『Songs From Northern Britain』

松永「澤部くんのティーンエイジ・ファンクラブとの出会いは?」

澤部「スカートをやっていると、〈ティーンエイジ・ファンクラブ、好きでしょう〉と言われることも多いのですが……。実は、大学生の頃に『Bandwagonesque』あたりを試聴して〈ちがうな〉と思って、そのままだったんです。18、19歳の頃はロックから距離を置いていた時期でもあったので、なおさらわからなかったのかもしれません。

ただ、最初に『Bandwagonesque』を聴くべきじゃなかったんですよね。なんで『Songs From Northern Britain』(97年)を聴かなかったんだろうって。あれを聴いていれば、絶対に好きになったはずです。失敗したなあと。

しばらく経って、Twitterで友だちが〈ノーマンが選ぶ自作10選〉という記事をシェアしていて、それをたまたま読んだんですよ。その友だちは〈『Songs From Northern Britain』がすごく好き〉という話をしていたので聴いてみたら、びっくりしちゃって。それが最初です。ちょうど『Here』(2016年)が出た後でしたね」

97年作『Songs From Northern Britain』収録曲“Ain’t That Enough”。作曲はジェラルド・ラヴ

直枝「若いね(笑)!」

松永「『Songs From Northern Britain』は、〈以前/以降〉と言えるくらい音楽性がはっきり変わった作品でしたね。当時、いきなり老けたなと思いました(笑)」

直枝「オアシスやブラーが大ヒットした後で、イギリスの音楽がいちばんいい時期だったよね」

松永「〈ブリットポップと一緒に盛り上がっていくのかな〉と思いきや、ティーンエイジ・ファンクラブは逆方向へ行った」

直枝「バーズやビッグ・スターのテイストを持った音楽性になったということが、まず異常だよね。それがしかも、イギリスのグラスゴーから出てきたバンドで、もともとはオルタナ出身だという時代背景もある」

松永「80年代後半、ロックは下火だったわけですが、その頃にロックのともしびを守っていた人たちの意志を受け継いでいるところが、ティーンエイジ・ファンクラブにはあるんですよね」

直枝「ジャド・フェアと一緒にやったりとか。先達へのリスペクト、感謝があるバンドなのが素敵だと思います」

※アメリカのミュージシャン。75年頃にアート・パンク、エクスペリメンタル・ロック・バンドのハーフ・ジャパニーズを結成。2002年にティーンエイジ・ファンクラブとアルバム『Words Of Wisdom And Hope』を制作

松永「ティーンエイジ・ファンクラブは、歴史を繋ぐ接着点だったんだなと」

直枝「ビッグ・スターからの影響を、これほどうまい具合に昇華させたジェラルド・ラヴの才能はすごいですよ。あのテイストを受け継いでいるのは、他にいないんじゃないですか」

松永「バーズのメンバーのなかでも実はジーン・クラークが重要でヤバいということも、彼らがいなければ知らなかったかもしれません」

 

ジェラルド・ラヴ脱退の衝撃

直枝「『Songs From Northern Britain』は、完ぺきなアルバムだよね」

澤部「ほんとに、何度も聴いちゃいます。とにかく、派手な装飾がないじゃないですか。音は厚くてリッチだけど、何かさびしさのようなものがある。あの感じは得難いなと思います」

松永「実は、『Songs From Northern Britain』は全英3位を獲っていて、バンド史上もっとも売れたアルバムなんです。あのアルバムで作られた〈グラスゴーイズム〉はあると思います。後にカメラ・オブスキュラなどが出てくる下地も、ティーンエイジ・ファンクラブが作ったのかなと」

澤部「僕は、ティーンエイジ・ファンクラブに対して〈オルタナのバンド〉って認識があったんですよ。自分は、ギターの音やバンドの演奏を聴くオルタナの風潮に、どうも馴染めなくて。でも、『Songs From Northern Britain』からさかのぼって聴いたら、ただただ曲のいいバンドなんだと気づいたんですね」

直枝「そうそう。俺は、ジェラルド・ラヴのことがすごく好きなのね。それこそ、バンドの要だと思っていた。ジェラルドが持っている音楽の地図は、相当なものだと思います」

松永「ノーマンやレイモンド(・マッギンリー)が博学なジェラルドに影響を受けたというのは、絶対にあるでしょうね」

直枝「もちろん、ノーマンもキレッキレのいい曲を初期の頃から書いていたけどね。でも、あとの2人(ノーマンとレイモンド)は、いい意味でマイ・ペース(笑)。ノーマンは天然だと思う。とってもピュアなポップセンスを持っていて、かつ時代に敏感っていう、そういう人なんじゃないかな。なので、ジェラルドが抜けたことは、相当痛いんじゃないですかね」

松永「ジェラルドが脱退したというニュースには、みんな驚いていましたよね。しかも、理由が〈ツアーへ行きたくない〉というもので(笑)。今後、ジェラルドの曲はプレイしないとドラマーのフランシス・マクドナルドが宣言したことも波紋を広げました」