Page 4 / 5 1ページ目から読む

未聴感から快楽へ

――新作『Cavalcade』を聴いた感想を聞かせてください。

崎山「全曲、かっこいいなと思いました。特に、“Dethroned”のリフレインには“Near DT, MI”で感じた上昇していくような感触があって、前作に通じるものを感じます。未聴感のあるフレーズを繰り返しているんだけど、それがだんだんとかっこいいサウンドに感じられてきて、どこかEDMのような〈うわっ、きた!〉という瞬間もある。ギター・リフが大サビになっているように聴こえるんですね。

『Cavalcade』収録曲“Dethroned”

でも、その次の“Hogwash And Balderdash”はまたちがっていて、ちょっとネイキッド・シティの“Dead Spot”(90年)みたいだと思いました」

――ネイキッド・シティは、ジョン・ゾーンのアヴァンギャルド・ジャズ・グループですよね。たしかに。

ネイキッド・シティの90年作『Torture Garden』収録曲“Dead Spot”

荘子it「未聴感のあるフレーズを反復することで快楽を感じるものに変えていく、というのはあるよね。一聴して気持ちいいものは既聴感があるものだから、俺もサンプリングするときはあえて変なところをとっかかりに使うんです。たとえば、ライブ盤の客の咳の音をデカくしてループさせたり、(レコード)針の音をループさせたりして、それをグルーヴの素にしてビートを作っていく。

それは、ブラック・ミディにも通じることだと思う。“bmbmbm”のリミックス(2019年)を頼まれて送られてきたパラ・データを聴いたら、楽音じゃない変な音がけっこう入ってたんだよね。

しかも、ジャムで無限に音を生み出せる集団だから、まとめてパッケージングするのが大変だと思うんだけど、そこをうまく、ポスト・プロダクションも含めて世界観を構築できているのがすごくおもしろくて、それが前作と比べたときの新作の聴きどころ、ポイントなのかなと思った。だから、今後がほんとに楽しみだよね、ブラック・ミディは」

崎山「前作はマス・ロックやポスト・ロックっぽいところがあって、オルタナティヴ・ロックっぽいコードも聴こえてきました。音の質感もタイトだったんですけど、今回はより奥行きが出てゴージャスになった印象があります。ホーン・セクションを入れるとか、こういうアプローチもするんだなって。〈KEXP〉の新しいライブ映像を観たら古い機材を使っていて、そういう部分の変化も感じました」

〈KEXP〉の2021年のライブ映像

 

言葉のヴァイブス重視

荘子it「前作のオルタナやノーウェイヴ感、〈遺産ぶっ壊す系〉の退廃的な感じからすると、たしかにちがうよね。〈Cavalcade〉っていうタイトルも〈行進〉〈行列〉とか――」

崎山「〈隊列〉って意味ですよね」

荘子it「そうそう。至るところにいまは亡き没落貴族の感じがある、というか。曲名になっているマレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)は1920、1930年代に活躍したドイツの女優なんです。たぶん彼らはシネフィルではないと思うから、何が参照項なのかはちょっとわからないんだけど、そういう華やかなりし過去の時代を思わせる雰囲気をところどころに感じる」

『Cavalcade』収録曲“Marlene Dietrich”

――〈Cavalcade〉にしろ〈Marlene Dietrich〉にしろ、語感がおもしろいと思います。2019年にジョーディ・グリープ(ギター/ヴォーカル)とキャメロン・ピクトンにインタビューしたとき、歌詞やタイトルについて訊いたのですが、言葉の意味はあまり重要視していないと話していました。

荘子it「たぶん、彼らが本当に重視しているのは、統語的な意味よりも、単語レベルの言葉から感じるヴァイブスだと思うんだよね。トーキング・ヘッズみたいな曲だから“Talking Heads”というタイトルにしました、とか(笑)。

Dos Monosも、言葉から得るヴァイブス重視でタイトルをつけていますね。たとえば、『Cavalcade』に“Dethroned(王、君主を廃する)”という曲があるけど、その語が持つヴァイブスに共感するところがあって、Dos Monosの『Dos City』収録曲の“生前退位”というタイトルも、王冠を下ろす、権力が剥奪されるときの快楽をイメージしていて。言葉が持つイメージのパワーを使っているんですよね」

Dos Monosの2019年作『Dos City』収録曲“生前退位”

崎山「自分も、言葉の意味が合っているか合っていないかは、あんまり意識しません。ギターを弾いて出てきた言葉に着想を得て、広げていくこともします。パッと思いついた言葉に感じる快楽とか、言葉のイメージを追って歌詞を書いていますね」

荘子it「“逆行”は?」

崎山「“逆行”は……ヴァイブスでしかないです」

荘子it「アツいね(笑)」

崎山「字面のよさと、加速していくイメージですね。ハムスターが回し車を回していると回転が速すぎて、前に進んでいるのか止まっているのか後ろに進んでいるのか、よくわからなくなるじゃないですか。ああいうイメージを描きたいなと思いました」

――荘子itさんのラップのリリックには映画のタイトルなどがよく出てきますが、それも言葉遊びや連想ゲーム的ですよね。

荘子it「〈意味〉ってメッセージだから、言葉をメッセージとしてじゃなくて、言霊が宿っている呪文として扱っているんですよね。その言葉を言うだけで、呪文として言霊を生んでしまう、というか。そういう、言葉が帯びてしまうエネルギーを使いたいんですね。たとえば、お経って聞いても意味がわからないし、現代では単に儀礼的なものにすぎないけれど、元来そこには儀式的/呪術的な何かがあるわけじゃないですか」

――ブラック・ミディも、あえて耳慣れない単語を選んで、それを唱えている感じがありますよね。

荘子it「広い意味での中二病ですよね(笑)。キング・クリムゾンもそう。それはいまどき、あんまりない感覚だけど、ブラック・ミディはある種の洗練をすることによって、それをOKなところに持っていってると感じます」