勢いが止まらないUKのインディロックシーンを、いまや牽引する存在と言っていいブラック・ミディ。2021年にリリースしたセカンドアルバム『Cavalcade』が絶賛されたことも記憶に新しいが、そんな彼らが早くもニューアルバム『Hellfire』をリリースした。これまでよりも想像力豊かに、過剰に拡張した驚くべき音楽性と怒涛の演奏は、バンドのさらなる進化を語っており……とはいえ、ブラック・ミディのなかに渦巻くこの創造的な混沌、奇妙に歪んだ折衷性どこから来ているのだろうか? 音楽ZINE「痙攣」の編集長・李氏が、唯一無二のバンドの特異性を論じた。 *Mikiki編集部

BLACK MIDI 『Hellfire』 Rough Trade/BEAT(2022)

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前時代の遺物がたどり着いた最果ての場所

鮮やかなマゼンタピンクの黄昏の海景をバックに、異臭漂う無数の漂流物に囲まれ一人の男が鎮座している。その佇まいは冥界の王のようにも、うらびれた浮浪者のようにも見える。恐らくどちらでもないのだろう、黒衣の彼の眼差しは読めない。

英国ロンドンのロックバンド、ブラック・ミディのサードアルバム『Hellfire』は、まさしくデヴィッド・ラドニック(David Rudnick)の手掛けたアートワークのような、どこか彼岸めいた場所で作り上げられたように思える。前時代の遺物のたどり着く、最果ての場所。

そのような一種のアナクロ感は彼らのサウンドからも確かめられる。アヴァンプログに、ラテンを含めたフォークロック、チェンバーポップがミックスされた音楽性に70年代のプログレバンドを連想する人もいるかもしれない。

『Hellfire』収録曲“Welcome To Hell”

ブラック・ミディの現在のエクストリームなスタイルは段階的に形作られていった。
バンドが注目された最初のきっかけである〈KEXP〉のライブ動画を観れば、今日のスタイルに繋がるフリーキーさと同時に、ある種のミニマリスティックな抑制がやや残っているのが分かる。2019年当時、ブラック・ミディはスクイッドやフォンテインズD.C.といった英国とアイルランドを中心とする新興ポストパンク勢の一つとして迎えられた。

2019年の〈KEXP〉でのライブ動画

しかしファーストアルバム『Schlagenheim』(2019年)のリリースを経て、ギタリストのマット・ケルヴィンが休止状態に入り、代わりにキーボードとサックスをサポートに擁した現在の体制になってからは、その音楽性はより異形化していくこととなる。カンのダモ鈴木との親交や、キング・クリムゾンへの敬愛を隠さない姿勢からも彼らの元々の志向は明らかだったが、セカンド『Cavalcade』(2021年)に至ってもはやポストパンク的なミニマリズムは、アヴァンプログのマキシマリズムに完全に取って代わられてしまっている。この変化の意味するものは大きい。

そもそも彼らが頭角を現したテン年代末にいわゆるポストパンク的なサウンドを選択することは決して目新しいことではなかった。同じ英国でもアイドルズやキング・クルールがすでに高い評価を獲得していたし、テン年代中盤にはアイルランドのガール・バンド(現ギラ・バンド)やデンマークのアイスエイジといったノイズロック的アプローチのポストパンクバンドが注目を集めていた。さらにゼロ年代に話を広げれば、インターポール、LCDサウンドシステム、ザ・ナショナルに代表されるポストパンクリバイバルも例に挙げられるだろう。21世紀に入ってここまで何度も参照され続けてきたジャンルはそうはない。

翻ってここ20年のアヴァンプログ的なサウンドの位置づけはどうか。ゼロ年代以降のマグマの活躍など見るべき点の多いジャンルではあるものの、いわゆる批評筋から取り上げられやすいインディーロックとの接点はマーズ・ヴォルタといった例外を除いて皆無に近い。

 

〈何でもアリ〉の混沌の時代の申し子

上で述べたようにブラック・ミディの前者から後者に至る流れは、シーンの文脈を大きく逸脱するものだ。しかしながらこのような音楽性の変遷を単なる70年代の懐古趣味と片付けることはできない。むしろ彼らの現代的な特質は、過去の意匠を脱文脈的に今日に接続する姿勢にこそある。どういうことか。

ブラック・ミディの現メンバーは全員2000年以降の生まれだ。NapsterからSpotifyまで。情報技術の進展に伴う音楽の生産/流通/消費のあり方の劇的な変化の後に物心の付いた世代。楽曲の商品価値が大きく切り下げられ、その気になれば月額10ポンド弱でストリーミング契約を結んだり、YouTubeで違法動画をタダで楽しめたりできる、そんな時代を彼らは当たり前に生きてきた。

アクセシビリティーの劇的な向上は、大半の人間にとっては単なる利便化に過ぎない。だが、好事家精神を持ち合わせた一部の人間にとっては違う。検索はさらなる検索を呼び込み、文脈の探求は加速していく。経路依存的に嗜向は分岐し、SNSを通じたコミュニティー形成がさらにそれを強化する。インターネットという触媒はリスナーの能動性に大きく反応し、その可能性を無数のパターンとして開花させる。

このような時代に従来の音楽メディアの役割は相対的に縮小する。もはや特定の書き手による文脈形成はこの種のリスナーにとって唯一の情報源ではないからだ。そしてメディアのコントロールを離れた好事家たちのネットワークは、支配的な文脈を持たない〈何でもアリ〉のカオスへと突入していく。

ブラック・ミディはまさしくそんな混沌の時代の申し子に他ならない。

 

異臭と威厳で圧倒する崇高美

〈何でもアリ〉の脱文脈化が進む現代において、音楽はメディア主導で形作られた明確な価値基準を見失い、大海を漂う漂流物のようなものになりつつある。それを生かすも殺すも作り手次第だが、どうやら彼らはうまくやったように思える。セカンド『Cavalcade』で試みられたキング・クリムゾンとスコット・ウォーカーの接合は、サード『Hellfire』においてアヴァンプログの喧しさとフォークロックの静謐さとチェンバーポップの大仰さの三つ巴構造へとさらに複雑化した。かつてアーケイド・ファイアやヴァンパイア・ウィークエンドといったインディーロックの先達が到達した崇高美に、ブラック・ミディは全く異なる道筋で辿り着いた。彼らの果てしなく高層化する漂流物の城は、今やひたすらに異臭と威厳で周囲を圧倒するばかりである。

『Hellfire』収録曲“Eat Men Eat”

 


RELEASE INFORMATION

BLACK MIDI 『Hellfire』 Rough Trade/BEAT(2022)

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リリース日:2022年7月15日

■国内盤CD
品番:RT0321CDJP
価格:2,420円(税込)
解説書・歌詞対訳封入

■国内盤1CD+Tシャツ付き
品番:RT0342MRJP
サイズ:S・M・L・XL
価格:6,820円(税込)

■輸入盤LP(限定レッド/初回限定日本語帯付仕様)
品番:RT0321LPE
価格:3,190円(税込)

■輸入盤LP(初回限定日本語帯付仕様)
品番:RT0321LP
価格:3,190円(税込)

TRACKLISTING
1. Hellfire 
2. Sugar/Tzu
3. Eat Men Eat
4. Welcome To Hell
5. Still
6. The Race Is About To Begin
7. Dangerous Liaisons
8. The Defence 
9. 27 Questions
10. Sugar/Tzu (Live at Electrical Audio, Recorded by Steve Albini) *Bonus Track for Japan
11. Still (Live at Electrical Audio,Recorded by Steve Albini) *Bonus Track for Japan

 

LIVE INFORMATION
black midi JAPAN TOUR 新日程

2022年12月4日(日)東京・渋谷 Spotify O-EAST(1st SHOW/2nd SHOW)
2022年12月5日(月)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2022年12月6日(火)愛知・名古屋 ボトムライン
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11891