デビュー・アルバム『Schlagenheim』で世界に衝撃を与え、2019年の年間ベストを総なめにした英ロンドンのバンド、ブラック・ミディ。彼らが、待望のセカンド・アルバム『Cavalcade』を2021年5月28日にリリースした。

本作でバンドは新たな領域に踏み込んでいるが、音楽そのもの以外にもおもしろい話がいくつかある。まず、アルバムはリリースの前日に突如配信が解禁された。また、先日『Bright Green Field』で全英4位を獲ったスクイッドのように彼らもチャートの上位をねらえたはずだが、あえてLPにゴールデン・チケット(今後10年間、バンドのヘッドライン・ツアーに入場できる)を封入したり特典のソノシートを付けたりしたことでチャート・アクションを避け、売上至上主義や商業主義にアンチテーゼを唱えた(ちなみに、チケットは日本で売られているCD/LPにも1枚限定で入っている!)。ブラック・カントリー・ニュー・ロードが自作のアートワークにフリー素材を使用した態度に似て、このエピソードはバンドの主張を端的に表している。

と、前置きが長くなったが、今回は新作のリリースと9月の来日公演の開催決定を記念して、ブラック・ミディの音楽やそのユニークな姿勢に共鳴する日本の音楽家2人の対談をお届けしよう。1人は、2019年の東京公演でサポート・アクトを務め、バンドからリミックスをオファーされるなど、ブラック・ミディと交流を続けるヒップホップ・トリオ、Dos Monosの荘子it。そしてもう1人は、ブラック・ミディから大いに刺激を受けているというシンガー・ソングライターの崎山蒼志。ダブルソウシによる音楽談義は、大いに盛り上がった。

BLACK MIDI 『Cavalcade』 Rough Trade/BEAT(2021)

 

かっこいいのは前提

――ブラック・ミディの話に入る前に、お2人の繋がりについて訊かせてください。崎山さんは、Dos Monosのファンなんですよね。

崎山蒼志「はい! ファンです」

荘子it(Dos Monos)「俺もファンです。崎山くんが出てきたときは、とんでもないやつが出てきたなと思ってびっくりしたから。最初は〈やばいフォーク少年が出てきた〉という取り上げられ方だったけど、たぶんいろいろな音楽を聴いてきて、分析的に音楽を作れるすごいミュージシャンだと思ったんだよね。まさか、自分たちのTシャツを着てくれているとは思わなかったから、うれしいです」

崎山「いやいや。恐縮です」

荘子it「インタビューやTwitterで紹介している音楽を見ていると、Dos Monosのことを好きになってくれたのもおかしくないんですよね。デス・グリップスが好きだとか、幅広く聴いていてイマっぽい。特別ヒップホップ・ファンというわけではなく、いろいろな音楽を聴いているなかでキャッチしてくれたのがうれしいですね」

――崎山さんがDos Monosを知ったきっかけは?

崎山「Twitterで知ったんだと思います。〈むちゃくちゃかっこいい〉と紹介している人がいたので聴いてみて、〈すごい!〉と思いました。配信サービスでいろいろな音楽を聴いているなかでも、特に衝撃を受けた音楽のひとつです。本当にかっこいいですね」

荘子it「それはもう、お互いさまということで(笑)。いまや音楽は、かっこいいのはデフォルトというか前提で、そのうえでいかに特色を出すかの勝負になっていると思う」

――荘子itさんが崎山さんのことを知ったのは、やはりSNSで話題になったAbemaTV「バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく」でのパフォーマンス(2018年)でしょうか?

荘子it「そうですね。弾き語りを観て、〈ギターのストロークがすげえ〉〈どう練習して身につけたんだろう?〉と思いました。でも、新曲の“逆行”とか、最近はバンド・サウンドにも挑戦していますよね。ブラック・ミディほど変なことをやるんじゃなくて、ちゃんと日本のポップスを踏まえている。あと、リズムの割り方がすごい。それこそロバート・グラスパー以降の現代ジャズのリズムをポップスに応用するのは流行ったけど、崎山くんの音楽は別の意味で割り方や刻み方がやばい。そこがかっこいいし、可能性を感じています」

崎山「ありがとうございます……!」

崎山蒼志の2021年のシングル“逆行”

 

荘子it(Dos Monos)

リズムに凝りたくなる2人

――Dos Monosも崎山さんも、リズムへのアプローチが特殊で実験的ですよね。

荘子it「ただ、僕がもともと好きだったフリー・ジャズやプログレや現代音楽のように、不可逆的な構成でリズム構造をめちゃめちゃにするのはいま、あんまりホットじゃないですよね。ブラック・ミディも、意外にミニマルでパンク的。プログレといっても、カンとかのジャーマン・プログレから影響を受けた、ミニマルな反復がいまの音楽の潮流に合っている。そうなると、こっちとしては微分的なリズムの実験をしたくなりますよね。最近はまた少し変わってきてるけど」

崎山「自分は、小さい頃から打楽器とか、リズムがすごく好きなんです。変拍子や16連符のような細かい刻みが好きで、弾き語りでもビートは気にかけています」

荘子it「崎山くんは、ただコードを弾くだけでも刻み方がすごいし、アタックが打楽器みたいに激しいよね。ライブを観させてもらったことがあるけど、そのときも〈アコギってエレキ・ギターよりよっぽど暴力的だな〉と思った。たとえば、山下洋輔のようなフリー・ジャズのプレイヤーがアコースティック・ピアノを肘とかでガーンと鳴らすじゃん。ああいう演奏のほうが、ディストーション・ギターとかシンセを弾くよりもよっぽど暴力的に感じる場合があるのに近くて」

崎山「ギターをバリンバリンと弾くと、間近に迫ってくる感じがしますよね」

荘子it「普通、アコギの音ってミックスで他の音に馴染ませちゃうんだけど、崎山くんの曲ではアコギが際立ったバランスでミックスされていて、ちょっと気持ち悪いというか、異常な感じがおもしろい。俺もアコギの音を使おうかなって思ったもん」

――崎山さんのギターを荘子itさんがサンプリングするとか、Dos Monosと崎山さんで曲を作ってほしいですね。綺麗にまとめず、はみ出させたり不協和にしたりする音作りは意識されていますか?

崎山「そうですね。僕はもともとノイズ・ミュージックが好きで、大友良英さんがギターをキシキシ弾いているのを聴いて、〈これだ!〉と思ったんです。中学生の頃、そういうものばっかり自宅で録音していた時期もあります。最近はポップスも意識して曲を作るので、その塩梅をどうするかは考えていますね」

荘子it「ああ! やっぱり、崎山くんのルーツはそういうところからもきてたのか。ブラック・ミディも日本の音楽がすごく好きで、大友良英が好きだって言っていたね」

 

ブラック・ミディと対バンしたDos Monos

――では、本題のブラック・ミディの話に入ろうかなと思います。彼らの音楽との出会いは?

荘子it「ファースト・アルバムの『Schlagenheim』ですね。すごく音楽性の高い、若くて熱のあるやつが出てきたなと思いました。自分たちのファースト(『Dos City』)も近い時期に出たので、気になるというか、勝手にライバル視していて。そういう出会いでしたね」

――荘子itさんは、ロックの新譜を追いかけて聴いているんですか?

荘子it「というよりも、ジャンルで音楽を聴いていないから、変な音楽、おもしろい音楽が出てきたら聴く感じですね」

――そのなかで、ブラック・ミディがひっかかったと。

荘子it「ある意味では、すごく馴染みがある音楽だったので。たぶん、好きな音楽、聴いてきたものは似ているんだろうなって。“Talking Heads”って曲もあるし、ダモ鈴木とも共演していて、イギリスのバンドなのにアルバム・タイトルはなぜかドイツ語だから(アインシュテュルツェンデ・)ノイバウテンなんかも好きなのかなって思ったし。すごく好きなものがたくさん含まれていたので、親近感が湧きました。あとは、演奏が普通にクソ上手いなと。

2019年のシングル“Talking Heads”

崎山くんは、マーズ・ヴォルタってわかる? 世代じゃないから知らないかな」

――アット・ザ・ドライヴ・インのメンバーだったセドリック・ビクスラー・ザヴァラとオマー・ロドリゲス・ロペスによるポスト・ハードコア/プログレ・バンドですね。

荘子it「俺が高校生だった当時はプログレなんて流行っていなかったんだけど、その頃唯一輝いていたプログレ・バンドで。俺、彼らのことが超好きなんですよ。たぶん、崎山くんも好きだと思う」

崎山「ぜひ聴いてみます」

マーズ・ヴォルタの2008年のライブ映像。演奏しているのは2008年作『The Bedlam In Goliath』収録曲“Goliath”

荘子it「もちろん、文化的にも音楽的にもちがうところはたくさんあるけど、ある意味ブラック・ミディも、当時のマーズ・ヴォルタのように時代に似つかわしくない、孤高のバンド音楽なんですよね。俺が10代だったらどハマリしてたなと思うとエモくて、初めて聴いたときは青春を懐かしんじゃいました(笑)。

でも、まさか対バンすることになるとは思っていませんでしたね。お互いにライブをやって、めっちゃ仲よくなったから、終演後に楽屋で〈リミックスをやってよ!〉と言われて、〈いいよ! もちろん〉と答えたら、本当にちゃんとオフィシャルで依頼があったんです」

2019年のシングル“bmbmbm (Dos Monos Remix)”

 

崎山蒼志

崎山蒼志の海外アクト初体験はブラック・ミディ

――崎山さんのブラック・ミディとの出会いは?

崎山「僕は〈KEXP〉のYouTubeチャンネルに登録していて、上がっている動画をざっと観ていくことが多いんです。知らないミュ―ジシャンを知れることも多いので。

そんななかで、前日に上がったくらいのタイミングでブラック・ミディの動画を見つけて、まず〈すごく若そう、年が近いんじゃないかな〉と興味を持ったんです。実際に動画を観て、やばいなと思いました。ギタリストの方(マット・クワシニエフスキー・ケルヴィン)がスマホから音源を流してその音をギターのピックアップで拾ったり、でもバックの演奏はタイトだったり、もう本当にかっこいいなと思いました。

〈KEXP〉の2019年のライブ映像。ブラック・ミディはこの動画が話題になったことで世界的に知られるようになった

その後にリリースされたアルバムを聴いて、めちゃめちゃテンションが上がりましたね。僕は未聴感のある音楽がすごく好きなので、〈新しいロック・バンド、きた!〉と思いました。それで、お父さんにも〈やばいから〉って言って、実家のスピーカーで一緒に聴いて(笑)」

荘子it「たしかに、崎山くんに近いヴァイブスを感じるよね。音楽性は高いんだけど、変にインテリっぽくなりすぎずに、若さがほとばしっている感じがいい。ファーストの1曲目(“953”)なんて、〈ちょっとバカなのかも?〉と思うくらいの勢いだし(笑)」

2019年作『Schlagenheim』収録曲“953”

崎山「来日公演が決まったときは行くしかないなと思いました。東京公演は行けなくて、大阪に行ったんです。まだ高校生だったので、学校帰りに急いで地元・浜松から新幹線に飛び乗って。海外のバンドの単独公演を観にいったのは初めてだったので、ドキドキしましたね。ちょっと怖いなと感じたり、ライブハウスがどこかわからなかったり」

――いいエピソードですね。

崎山「ライブが始まったら最初にベーシストの方(キャメロン・ピクトン)が出てきて、パッドを叩いてSEが流れた瞬間に〈やべえ!〉と思いました。ライブは、めちゃめちゃかっこよかったです。曲間がなくて、ずっとジャム・セッションのように演奏している感じとか。最初、始まったときはラフな印象だったんですけど、どんどんヴァイブスが上がって集中していっている感じがありました。特に“Near DT, MI”(2019年)という曲が大好きで、演奏されたときはたまらなくて、めっちゃアガって。〈うわっ、やばい!〉って、一瞬トびそうになりました。あと、横で観ていた人がすごく盛り上がっていて、ぶつかったのが痛かったです(笑)」

2019年作『Schlagenheim』収録曲“Near DT, MI”

荘子it「初海外アクトの思い出だから、細部がめっちゃヴィヴィッドな感想がいいね(笑)」

 

遺産食いつぶす系加速主義的パンク

荘子it「たしかに、あんなに激しい演奏をするバンドなのに、ぬるっと始まるのがいいよね。たとえば、クリス・デイヴのライブなんかもほんと適当に始まるんだけど、いつのまにかやばい演奏になっている。ブラック・ミディはみんな上手いし、ああいう音楽性でありながらジャズ・ミュージシャンのようなノリで演奏するのが、またすごいよね」

――突飛な音楽的なアイデアが注目されがちですが、バンドで演奏することによろこびを見出しているバンドだと思います。

荘子it「あとコスチュームを揃えたり、3DCGのアバターをアー写にしたり、退廃的な世界観の構築がすごいですよね。その世界観をアツい演奏にうまく混ぜていて、そこはプログレ・バンドに近い。

プログレにも2種類あって、宮殿みたいな建造物を音楽で作る様式美や構築美を目指す方向性のバンドもかっこいいんだけど、俺はキング・クリムゾンの一部の作品のような〈構築して壊す〉タイプが好き。イタリアのプログレ・バンドもそう。イタリアといっても、両極端なバンドがいるけど」

――イタリアン・プログレといえば、アレアとか?

荘子it「そうそう。俺はプログレのなかでもアレアやオザンナがとにかく大好きで、構築しながらフリー・ジャズ的な即興をうまく溶け込ませてるんですよね。

オーセンティックなヒップホップのミュージシャンってサンプリング・ソースに対してリスペクトを示すんだけど、俺はどっちかというと〈ぶっ壊してやる〉という感覚でやっていて。〈親の遺産を食いつぶしてやる〉というモチベーションやガッツだけで生きている、みたいな(笑)。サンプリングされた側にしてみれば、〈勝手に使っておいて壊さないでくれ〉って感じだろうけど(笑)。

本人が〈タイトルにまったく意味がないことが重要〉〈アルバムは(曲を届けるための)単なる容器にすぎない〉と明言してたから、これはあくまであえてする言葉遊びなんだけど、ブラック・ミディのファーストのタイトルの〈Schlagenheim〉って、直訳すると〈hit / beat home=家を打つ〉に変換できて、それが俺には〈家をぶっ壊す〉と言っているように思えるんだよね。ブラック・ミディのメンバーはたぶん、親がレコード・コレクションを持ってたり、由緒正しき音楽一家の出身だったり、さらにブリット・スクールで音楽を学んだり、いろいろなインプットや遺産を持っているんだろうけど、それを全部叩き壊してやるという意志がバンドのコンセプト・レベルである気がする。一周回ったパンク感というか、〈遺産食いつぶす系〉のパンク感(笑)。権力を転覆させるんじゃなくて、〈有り余る遺産を全部食いつぶしてなきものにしてやる〉という、ちょっと独特の加速主義的なパンク感。そういう、ブリティッシュ・パンクの伝統のなかの新しい空気を感じましたね」

――崎山さんは、いま荘子itさんが言った〈構築して壊す〉というスタイルについてどう思いますか?

崎山「それは、ブラック・ミディにすごく感じますね。リフレインしていて気持ちいいなと思っても、それが突然崩れていくとか。“Ducter”の〈Pitchfork(Music Festival 2019)〉でのライブ映像でも、お客さんがノってきたのに演奏が一回壊れるんです。演奏が止まったと思ったら、またアガってきて、すごいキメがあったり。〈加速主義〉という荘子itさんのたとえは、〈あ~!〉と思いました。

〈Pitchfork Music Festival 2019〉でのライブ映像

あと、モーガン・シンプソンさんのドラムがめっちゃかっこよくて。〈好きなドラマーを3人挙げてください〉と言われたら、僕は彼を入れると思います。新作ではジャジーなアプローチもありましたが、めちゃめちゃタイトで、リズムをちょっとずらしてもバネみたいに戻ってくる。あのドラムは、僕がブラック・ミディを好きであることの大きな要素のひとつですね。大好きです」

荘子it「僕も元マーズ・ヴォルタのトーマス・プリジェンがいちばん好きなドラマーでした(笑)」

 

未聴感から快楽へ

――新作『Cavalcade』を聴いた感想を聞かせてください。

崎山「全曲、かっこいいなと思いました。特に、“Dethroned”のリフレインには“Near DT, MI”で感じた上昇していくような感触があって、前作に通じるものを感じます。未聴感のあるフレーズを繰り返しているんだけど、それがだんだんとかっこいいサウンドに感じられてきて、どこかEDMのような〈うわっ、きた!〉という瞬間もある。ギター・リフが大サビになっているように聴こえるんですね。

『Cavalcade』収録曲“Dethroned”

でも、その次の“Hogwash And Balderdash”はまたちがっていて、ちょっとネイキッド・シティの“Dead Spot”(90年)みたいだと思いました」

――ネイキッド・シティは、ジョン・ゾーンのアヴァンギャルド・ジャズ・グループですよね。たしかに。

ネイキッド・シティの90年作『Torture Garden』収録曲“Dead Spot”

荘子it「未聴感のあるフレーズを反復することで快楽を感じるものに変えていく、というのはあるよね。一聴して気持ちいいものは既聴感があるものだから、俺もサンプリングするときはあえて変なところをとっかかりに使うんです。たとえば、ライブ盤の客の咳の音をデカくしてループさせたり、(レコード)針の音をループさせたりして、それをグルーヴの素にしてビートを作っていく。

それは、ブラック・ミディにも通じることだと思う。“bmbmbm”のリミックス(2019年)を頼まれて送られてきたパラ・データを聴いたら、楽音じゃない変な音がけっこう入ってたんだよね。

しかも、ジャムで無限に音を生み出せる集団だから、まとめてパッケージングするのが大変だと思うんだけど、そこをうまく、ポスト・プロダクションも含めて世界観を構築できているのがすごくおもしろくて、それが前作と比べたときの新作の聴きどころ、ポイントなのかなと思った。だから、今後がほんとに楽しみだよね、ブラック・ミディは」

崎山「前作はマス・ロックやポスト・ロックっぽいところがあって、オルタナティヴ・ロックっぽいコードも聴こえてきました。音の質感もタイトだったんですけど、今回はより奥行きが出てゴージャスになった印象があります。ホーン・セクションを入れるとか、こういうアプローチもするんだなって。〈KEXP〉の新しいライブ映像を観たら古い機材を使っていて、そういう部分の変化も感じました」

〈KEXP〉の2021年のライブ映像

 

言葉のヴァイブス重視

荘子it「前作のオルタナやノーウェイヴ感、〈遺産ぶっ壊す系〉の退廃的な感じからすると、たしかにちがうよね。〈Cavalcade〉っていうタイトルも〈行進〉〈行列〉とか――」

崎山「〈隊列〉って意味ですよね」

荘子it「そうそう。至るところにいまは亡き没落貴族の感じがある、というか。曲名になっているマレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)は1920、1930年代に活躍したドイツの女優なんです。たぶん彼らはシネフィルではないと思うから、何が参照項なのかはちょっとわからないんだけど、そういう華やかなりし過去の時代を思わせる雰囲気をところどころに感じる」

『Cavalcade』収録曲“Marlene Dietrich”

――〈Cavalcade〉にしろ〈Marlene Dietrich〉にしろ、語感がおもしろいと思います。2019年にジョーディ・グリープ(ギター/ヴォーカル)とキャメロン・ピクトンにインタビューしたとき、歌詞やタイトルについて訊いたのですが、言葉の意味はあまり重要視していないと話していました。

荘子it「たぶん、彼らが本当に重視しているのは、統語的な意味よりも、単語レベルの言葉から感じるヴァイブスだと思うんだよね。トーキング・ヘッズみたいな曲だから“Talking Heads”というタイトルにしました、とか(笑)。

Dos Monosも、言葉から得るヴァイブス重視でタイトルをつけていますね。たとえば、『Cavalcade』に“Dethroned(王、君主を廃する)”という曲があるけど、その語が持つヴァイブスに共感するところがあって、Dos Monosの『Dos City』収録曲の“生前退位”というタイトルも、王冠を下ろす、権力が剥奪されるときの快楽をイメージしていて。言葉が持つイメージのパワーを使っているんですよね」

Dos Monosの2019年作『Dos City』収録曲“生前退位”

崎山「自分も、言葉の意味が合っているか合っていないかは、あんまり意識しません。ギターを弾いて出てきた言葉に着想を得て、広げていくこともします。パッと思いついた言葉に感じる快楽とか、言葉のイメージを追って歌詞を書いていますね」

荘子it「“逆行”は?」

崎山「“逆行”は……ヴァイブスでしかないです」

荘子it「アツいね(笑)」

崎山「字面のよさと、加速していくイメージですね。ハムスターが回し車を回していると回転が速すぎて、前に進んでいるのか止まっているのか後ろに進んでいるのか、よくわからなくなるじゃないですか。ああいうイメージを描きたいなと思いました」

――荘子itさんのラップのリリックには映画のタイトルなどがよく出てきますが、それも言葉遊びや連想ゲーム的ですよね。

荘子it「〈意味〉ってメッセージだから、言葉をメッセージとしてじゃなくて、言霊が宿っている呪文として扱っているんですよね。その言葉を言うだけで、呪文として言霊を生んでしまう、というか。そういう、言葉が帯びてしまうエネルギーを使いたいんですね。たとえば、お経って聞いても意味がわからないし、現代では単に儀礼的なものにすぎないけれど、元来そこには儀式的/呪術的な何かがあるわけじゃないですか」

――ブラック・ミディも、あえて耳慣れない単語を選んで、それを唱えている感じがありますよね。

荘子it「広い意味での中二病ですよね(笑)。キング・クリムゾンもそう。それはいまどき、あんまりない感覚だけど、ブラック・ミディはある種の洗練をすることによって、それをOKなところに持っていってると感じます」

 

ブラック・ミディを聴くと〈もっとやっていい〉と思える

――荘子itさんも崎山さんもブラック・ミディから刺激を受けつつ、彼らとはライバルであり同世代のミュージシャンでもあると感じていますか?

荘子it「崎山くんは完全に同世代だからね」

崎山「彼らをライバルと言うのはちょっと恐縮なんですけど、いちファンとしてめちゃめちゃ大好きです。あと同世代で、こんなにおもしろい音楽をかっこよく、うまくやっている方々がいらっしゃること自体に希望を感じます。ブラック・ミディを聴いていると、自分ももっとやっていいんだなって思えるんです」

荘子it「Dos Monosも、そうなりたいと思って始めたところがあるんだよね。特に2017、2018年頃までは、この手の攻め攻めの音楽をやることが憚られる空気を如実に感じていたから。でも、2019年にいきなりブラック・ミディとか、いろいろなミュージシャンが一気に出てきて」

――崎山さんがTVのパフォーマンスで話題になったのは、2018年の半ばでしたね。崎山さんとのコラボレーションもした諭吉佳作/menさんが注目されはじめたのも同時期で、長谷川白紙さんの『草木萌動』がリリースされたのが2019年12月です。あの頃に音楽シーンのムードが変わった、と言うこともできるでしょうね。

荘子it「〈チルから暴力へ〉なんて同人誌(2020年のZINE『痙攣』)もありましたね。〈なんか世の中チルっててつまんねえな〉という空気があって、鬱屈したものが一気に噴出してきたタイミングだった。〈こういう音楽をもっとやっていいんだぞ〉という空気にはすごく共鳴したし、他のミュージシャンもみんなそういうことをやりはじめて。

これはマジで大事なことで、もちろん音楽がかっこいいことも重要だけど、やっぱ綺麗にまとめあげられたものだけを聴いていてもね。いち音楽リスナーにとっては興奮できるものでも、音楽を遠目に眺めている人たちからするとホットに見えない。ミックスの妙とか、そういう細かいことも大事だけど、〈こんなとんでもないことをやっている人がいるんだ〉という状況が文化には必要だから」

――私が崎山さんのパフォーマンスを観たときの印象も、〈異物〉と言ったら失礼ですが、綺麗な歌を綺麗に歌う普通のシンガー・ソングライターとはちがう、はみ出した存在だと感じて衝撃を受けたんです。〈こういう歌を歌ってもいいんだ〉と感じる崎山さんの表現に、聴き手は勇気づけられていると思います。

崎山「それはうれしいですね。やっぱり、自分の歌ってけっこう聴きづらいなと思うんです」

――(笑)。

崎山「声も微分音的というか、(ピッチが)合っているのか合っていないのか、ギリギリの感じですし」

荘子it「“五月雨”に〈♪不安定な〉というところがあるじゃないですか。あれを聴くと、こっちも不安定な気分になる(笑)。そこがいいよね」

崎山「不安定さや弾けた表現は自分の個性だと思うので、磨いていきたいですね」

崎山蒼志の2018年のシングル“五月雨”

荘子it「ブラック・ミディから学べるのは、一回ぐちゃぐちゃになっても戻ってくればいい、ということですよね。崎山くんの音楽も、不安定な部分がありつつも、最後はポップスに戻ってくる。最終的にポップスに戻ってくれば許してもらえるというか、5分の曲のなかに30秒くらいやばい瞬間があってもバレない、それがむしろプラスになっている、みたいな(笑)」

――そういう点で、3者には共通するものを感じますね。

荘子it「ブラック・ミディのファースト・ライブはサウス・ロンドンのウィンドミル(ヴェニュー)だったんだけど、そこしか声をかけてくれなかったらしいんですね。そういう場所こそが文化の発信元になる、っていうのがミソですよね。

俺らもそう。日本のレーベルはどこからも声をかけられなくて、結局LAのデス・ボム・アークだけがひっかかってくれた。狭い感度を持っている変なやつが次世代の文化を作るんだよね。そう自分に言い聞かせるスタイルでやっています(笑)。なので、崎山くんのぶっ壊し芸に期待したいですね」

崎山「僕もブラック・ミディを聴いて、すごくポップな曲に1分くらいのドローンを入れたくなりました(笑)」

 


RELEASE INFORMATION

BLACK MIDI 『Cavalcade』 Rough Trade/BEAT(2021)

■国内盤CD(スピンオフ・アルバム『Covercade』付)
品番:RT0212CDJP
価格:2,420円(税込)
ボーナス・トラック2曲追加収録/解説・歌詞対訳付

■国内盤CD+Tシャツ(S)
品番:DISBD009
価格:6,820円(税込)

■国内盤CD+Tシャツ(M)
品番:DISBD010
価格:6,820円(税込)

■国内盤CD+Tシャツ(L)
品番:DISBD011
価格:6,820円(税込)

■国内盤CD+Tシャツ(XL)
品番:DISBD012
価格:6,820円(税込)

■輸入盤CD
品番:RT0212CD
価格:2,519円(税込)

■限定盤LP(ピクチャー・ディスク/特典ソノシート付)
品番:RT0212LPE
価格:3,179円(税込)

■輸入盤LP(初回帯付仕様/特典ソノシート付)
品番:RT0212LP
価格:2,849円(税込)

■輸入盤カセット
品番:RT0212MC
価格:2,519円(税込)

TRACKLIST
1. John L
2. Marlene Dietrich
3. Chondromalacia Patella
4. Slow
5. Diamond Stuff
6. Dethroned
7. Hogwash and Balderdash
8. Ascending Forth
9. Despair *Bonus Track for Japan
10. Cruising *Bonus Track for Japan

 

*2021年9月1日追記
〈black midi JAPAN TOUR 2021〉延期のおしらせ
2021年9月に開催を予定されていた〈black midi JAPAN TOUR 2021〉は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や日本政府による緊急事態宣言・まん延防止等重点措置、出入国の制限、ライブ会場や運営の制限などにより、延期になりました。現在、振替日程を調整中で、新たな日程と希望者へのチケットの払い戻しについては、後日発表されます。詳しくはビートインクのオフィシャルサイトをご覧ください。
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12069

LIVE INFORMATION

black midi JAPAN TOUR 2021
OSAKA

2021年9月15(水)大阪・梅田 CLUB QUATTRO ※延期
開場/開演:18:00/19:00
インフォメーション(SMASH WEST):https://smash-jpn.com
コロナ・ガイドライン:https://smash-jpn.com/guideline
※キャパ制限あり

NAGOYA
2021年9月16日(木)愛知・名古屋 THE BOTTOM LINE ※延期
開場/開演:18:00/19:00
インフォメーション(JAILHOUSE):https://www.jailhouse.jp/
※イベント・ページにコロナ・ガイドラインが記載されています
※キャパ制限あり

TOKYO
2021年9月17日(金)東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST ※延期
■1ST SHOW
開場/開演:17:30/18:15
■LATE SHOW
開場/開演:20:30/21:15
インフォメーション(Beatink):https://www.beatink.com/
コロナ・ガイドライン:https://www.beatink.com/user_data/covid-19_guideline.php
※キャパ制限を鑑み1日2回公演

■チケット
前売り:6,380円(税込/ドリンク代別/オール・スタンディング)
※未就学児童入場不可
※購入制限:お1人様2枚まで(要同行者登録)

■先行販売
2021年6月10日(木)18:00〜
Beatink主催者先行(先着限定数):https://beatink.zaiko.io/e/blackmidi2021
2021年6月12日(土)12:00〜2021年6月16日(水)18:00
イープラスPG最速先行(抽選限定数):https://eplus.jp/blackmidi/

■一般販売
2021年6月26日(土)〜
イープラス:https://eplus.jp/blackmidi/
チケットぴあ:https://t.pia.jp/
ローソンチケット:https://l-tike.com/
Beatink:https://beatink.zaiko.io/e/blackmidi2021

企画/制作/お問い合わせ(Beatink):https://www.beatink.com/

 


PROFILE: 荘子it(Dos Monos)
93年生まれ。2019年にファースト・アルバム『Dos City』で米LAのデスボム・アークからデビューしたヒップホップ・クルー、Dos Monosを率い、全曲のプロデュースとラップを担当。古今東西の音楽、哲学やサブカルチャーまで奔放なサンプリング・テクニックで現代のビート・ミュージックへ昇華したスタイルが特徴。2020年3~4月にかけて、ブラック・ミディとの共演も含むアメリカ・ツアーを予定していたが、コロナ禍の影響で中止に。その後、台湾のIT大臣オードリー・タンとのコラボレーション・ソング“Civil Rap Song ft. Audrey Tang”など、数作のシングルを発表し、7月24日にアリゾナのヒップホップ・クルー、インジュリー・リザーヴが参加したセカンド・アルバム『Dos Siki』をリリースした。

 

PROFILE: 崎山蒼志
2002年生まれ、静岡・浜松出身。2018年5月、インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャー・デビュー。現在、自身の楽曲制作のほかにTVドラマや映画主題歌、CM楽曲を手がけるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。