デビュー・アルバム『Schlagenheim』で世界に衝撃を与え、2019年の年間ベストを総なめにした英ロンドンのバンド、ブラック・ミディ。彼らが、待望のセカンド・アルバム『Cavalcade』を2021年5月28日にリリースした。

本作でバンドは新たな領域に踏み込んでいるが、音楽そのもの以外にもおもしろい話がいくつかある。まず、アルバムはリリースの前日に突如配信が解禁された。また、先日『Bright Green Field』で全英4位を獲ったスクイッドのように彼らもチャートの上位をねらえたはずだが、あえてLPにゴールデン・チケット(今後10年間、バンドのヘッドライン・ツアーに入場できる)を封入したり特典のソノシートを付けたりしたことでチャート・アクションを避け、売上至上主義や商業主義にアンチテーゼを唱えた(ちなみに、チケットは日本で売られているCD/LPにも1枚限定で入っている!)。ブラック・カントリー・ニュー・ロードが自作のアートワークにフリー素材を使用した態度に似て、このエピソードはバンドの主張を端的に表している。

と、前置きが長くなったが、今回は新作のリリースと9月の来日公演の開催決定を記念して、ブラック・ミディの音楽やそのユニークな姿勢に共鳴する日本の音楽家2人の対談をお届けしよう。1人は、2019年の東京公演でサポート・アクトを務め、バンドからリミックスをオファーされるなど、ブラック・ミディと交流を続けるヒップホップ・トリオ、Dos Monosの荘子it。そしてもう1人は、ブラック・ミディから大いに刺激を受けているというシンガー・ソングライターの崎山蒼志。ダブルソウシによる音楽談義は、大いに盛り上がった。

BLACK MIDI 『Cavalcade』 Rough Trade/BEAT(2021)

 

かっこいいのは前提

――ブラック・ミディの話に入る前に、お2人の繋がりについて訊かせてください。崎山さんは、Dos Monosのファンなんですよね。

崎山蒼志「はい! ファンです」

荘子it(Dos Monos)「俺もファンです。崎山くんが出てきたときは、とんでもないやつが出てきたなと思ってびっくりしたから。最初は〈やばいフォーク少年が出てきた〉という取り上げられ方だったけど、たぶんいろいろな音楽を聴いてきて、分析的に音楽を作れるすごいミュージシャンだと思ったんだよね。まさか、自分たちのTシャツを着てくれているとは思わなかったから、うれしいです」

崎山「いやいや。恐縮です」

荘子it「インタビューやTwitterで紹介している音楽を見ていると、Dos Monosのことを好きになってくれたのもおかしくないんですよね。デス・グリップスが好きだとか、幅広く聴いていてイマっぽい。特別ヒップホップ・ファンというわけではなく、いろいろな音楽を聴いているなかでキャッチしてくれたのがうれしいですね」

――崎山さんがDos Monosを知ったきっかけは?

崎山「Twitterで知ったんだと思います。〈むちゃくちゃかっこいい〉と紹介している人がいたので聴いてみて、〈すごい!〉と思いました。配信サービスでいろいろな音楽を聴いているなかでも、特に衝撃を受けた音楽のひとつです。本当にかっこいいですね」

荘子it「それはもう、お互いさまということで(笑)。いまや音楽は、かっこいいのはデフォルトというか前提で、そのうえでいかに特色を出すかの勝負になっていると思う」

――荘子itさんが崎山さんのことを知ったのは、やはりSNSで話題になったAbemaTV「バラエティ開拓バラエティ 日村がゆく」でのパフォーマンス(2018年)でしょうか?

荘子it「そうですね。弾き語りを観て、〈ギターのストロークがすげえ〉〈どう練習して身につけたんだろう?〉と思いました。でも、新曲の“逆行”とか、最近はバンド・サウンドにも挑戦していますよね。ブラック・ミディほど変なことをやるんじゃなくて、ちゃんと日本のポップスを踏まえている。あと、リズムの割り方がすごい。それこそロバート・グラスパー以降の現代ジャズのリズムをポップスに応用するのは流行ったけど、崎山くんの音楽は別の意味で割り方や刻み方がやばい。そこがかっこいいし、可能性を感じています」

崎山「ありがとうございます……!」

崎山蒼志の2021年のシングル“逆行”