
2021年の話題をかっさらったデビューアルバム『For the first time』に続いて、ブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下、BC,NR)が早くもセカンドアルバム『Ants From Up There』をリリースした。UKで3位、オーストラリアで6位と、商業的にも批評的にも高い評価を得た本作は、より構築性と物語性を増したバンドアンサンブルとエモーショナルな歌心が感動的な一作だ。リリースの直前、ボーカリストのアイザック・ウッド(Isaac Wood)が脱退した、という衝撃的なニュースはファンを悲しませるとともに驚かせたが、バンドは今後も活動を継続する意志を表明している。
今回は、そんなBC,NRを軸に、近年盛り上がりを見せるサウス・ロンドンの音楽シーン、ひいてはロンドンやUK全体のインディーシーンについての対談をお届けする。noteなどで同地の音楽について深く掘り下げた記事を執筆しているCasanova.S、パーティー〈School In London〉を主催するDJ/ライターの村田タケル、インディペンデントメディア〈ORM〉を運営するHayato Kajihara・Hayata Matsuhiro・Ryodo Fujita、そしてイギリスの大学院に留学中のライター佐藤優太に、UKシーンへの思いを語ってもらった。
それぞれが独自の視点から音楽についての発信を行う4組の話を聞いていると、彼らの活動に、現行のUKシーンにおけるDIY性やみずからコミュニティーを築き上げようとする姿勢が重なって見えた(なお、この取材はアイザックの脱退が発表される前に行った)。

BLACK COUNTRY, NEW ROAD 『Ants From Up There』 Ninja Tune/BEAT(2022)
音楽について独自の発信を行う4組
――まずは、みなさんの自己紹介からお願いできますか?
佐藤優太「佐藤です。以前は日本の音楽メディアやライブハウスで働いていましたが、去年の9月からロンドンの大学に1年間留学して、勉強をしながら現地のライブをよく観に行っています」
Casanova.S「僕は、最近ele-kingなどでライターとして書かせてもらっているCasanovaです。みなさん、Twitterなどですでにご存知かと思いますが(笑)」
村田タケル「〈School In London〉というインディーロックのイベントをやっている村田タケルです。DJイベントの運営をずっとやっていましたが、最近はMikikiなどで記事を書かせてもらっています」
Hayato Kajihara(ORM)「ORMというメディアをFujita、Matsuhiroと3人でやっているKajiharaです。ORMでは、海外のアーティストやレーベルにインタビューをしながら、リリース情報などを随時アップデートしています」
Ryodo Fujita(ORM)「ORMのFujitaです」
Hayata Matsuhiro(ORM)「ORMのMatsuhiroです。僕は、〈School In London〉で2人と出会ったんです」
――村田さんが繋いだ縁なんですね! ORMは、自主性とソウルを感じるすごく良いメディアだと思います。
UKインディーに興味を持ったそれぞれのきっかけ
――みなさんが現在のUKのインディーシーンに興味を持ったのは、いつ頃でしょうか?
Matsuhiro「最初はシェイム(shame)に興味を持ちました。僕が17歳の頃に彼らが来日したのですが、人生で初めてライブに行こうと思ったのがシェイムだったんです。それで、学校終わりに制服のまま観に行って。そこから、サウス・ロンドンのシーンを掘り下げていったんです」
Fujita「僕は、レコード屋で働いているので新譜に触れることが多いのですが、ソーリー(Sorry)のデビュー作『925』(2020年)を店頭で聴いたときに〈なんだこれは!?〉と思ったんですね。それがきっかけで、沼にハマっていきました」
Kajihara「僕は正直なところ、テン年代前半のUKの音楽シーンは、個人的にどこかパッとしない印象があったんですね。それもあって、当時はUSインディーばかり聴いていました。
ただ、ブラック・ミディ(black midi)のデビューは、そんなイメージを覆すくらいに大きな出来事だったと思います。そこから〈流れが変わったのかな?〉と思い、UKの音楽を聴きはじめました」
佐藤「僕もブラック・ミディがきっかけでした。
僕はORMのみなさんより一回り上の世代で、音楽を熱心に聴きはじめた頃はロックンロールリバイバルが盛り上がっていた2000年頃。その後にアークティック・モンキーズが出てきたり、ニューレイヴが注目されたりした時期でした。
ただ、2010年代に入って、アデルやコールドプレイが世界的にめちゃくちゃ売れるようになるなか、UKの音楽がちょっとわからなくなってきたんです。The xxやキング・クルールなど個人的に好きなアーティストもいたものの、全体的にはあまり魅力を感じなくなってしまって。その後は、USのインディーやブラックミュージックを主に聴くようになりました。
そんななかで2018年頃にブラック・ミディが出てきて、それまで自分が考えていたUKの音楽の方法論とは決定的にちがうことをやっているように感じて、〈雰囲気が変わったのかな?〉と注目するようになりはじめました」
村田「自分がシーンを意識したのは、2018年のThe Sign Magazineの特集です。あれを読んで、新しいムーブメントと魅力的なカルチャーが生まれていることを実感して、のめり込んでいったんですね。それ以前もUKの新人バンドの曲をDJでかけてはいたんですけど、個別のものとしてしか捉えていなくて。あと、それ以前は、何よりもアイスエイジに夢中で(笑)」
――シェイム、ブリクストンの重要なベニュー〈ウィンドミル〉、そして「So Young Magazine」に取材したThe Sign Magazineの特集は、確かに早かったですよね。いま読んでも発見があります。Casanovaさんは?
Casanova「僕もきっかけはシェイムで、2016年に“The Lick”のスタジオライブ動画を観たんです。コペンハーゲンシーンに近い感じがするけど、ちょっとちがう。メンバーがすごく若かったのもあって、面白いなと思いました。
〈このシーンがきてる〉と確信したのはゴート・ガール(Goat Girl)が同じ年に“Country Sleaze”を出したときで、YouTubeでライブ動画を観たらすごくて。猫背でギターを弾いているロッティ※がかっこよかったのもあるんですけど、それ以上に、笑顔で飛び跳ねる観客の熱気がすごかった。みんながその一部というか、スタジアムのサッカーファンと同じような盛り上がり方をしていたので、〈これは何かあるぞ〉と感じたんですね。
それが『So Young』のイベントの動画で、〈『So Young』って何?〉と検索して、彼らが主催していたイベントのフライヤーのバンドを調べたら、出てくるバンドがみんな良かった。調べて、知れば知るほど良いバンドが出てくるのが、本当に楽しかったんですね。
なので、YouTubeとInstagramの存在は大きかったです。一瞬だけ映されたライブの映像を観て、〈このバンド、早くシングルを出さないかな〉と思ったり。たとえば、スポーツ・チーム(Sports Team)やドラッグ・ストア・ロメオズ(Drug Store Romeos)も、『So Young』のフライヤー経由で発見して。ドラッグ・ストア・ロメオズは、曲が出るまでだいぶ時間がかかっちゃいましたが」
――YouTubeといえば、ルー・スミス(Lou Smith)が何年も前からウィンドミルなどでのライブ動画をたくさんアップしていたことが、現地の空気を知る重要な手がかりでしたよね。

サウス・ロンドン・シーンの連帯感、風通しの良さ、音楽教育
――現在のいわゆるサウス・ロンドン・シーンは、どんなところが面白いと思いますか?
Kajihara「Casanovaさんの話に関連して、ライブカルチャーの熱気やファンとアーティストの密接度合いが、日本とはぜんぜんちがうと感じますね。ファンやアーティストどうしの繋がりが一体感を生み出している要因の一つかなと。僕は、〈サウス・ロンドン〉で一括りにすることには、ちょっと疑問があるのですが」
Fujita「Kajiharaが言った〈連帯感〉がキーワードだと思っていて、僕が好きなポイントの一つはまさにそれです。
最近、ヤード・アクト(Yard Act)がデビューアルバム『The Overload』をリリースしましたが、周囲のアーティストが〈頑張れ〉って応援して、UKチャートの2位を獲ったんですよね。そういうアツい友情のストーリーが、僕は大好きで(笑)。〈一緒に高みを目指そう〉という姿勢、大手のレーベルに移籍して売れても仲が良くて温かさがあるのがいいなと」
Casanova「ヤード・アクトをめぐる動きは、ちょっと前にスポーツ・チームでも同じことが起こっていましたよね。
みんな仲が良くて、SNSでお互いの曲を紹介しあっているから、それで新しいバンドを知ることも多い。その点でもインターネットは大きくて、SNSを通してお互いの活動や好みを知っているから、実際に会ったときや一緒に何かをやろうとするときに話が早いんですよね。しかも、エゴサで色々見ている(笑)。スポーツ・チームのことを書いた記事について、〈あのFAカップのたとえ、良かったよ〉って本人たちからリプライがきたことがあって」
――翻訳して読んでいるんですね(笑)!
村田「〈2021年に絶対に注目したい若手UKバンド3選〉についての記事を書いたとき、そこで取り上げたラウンジ・ソサエティ(The Lounge Society)について、スピーディ・ワンダーグラウンド(Speedy Wunderground)がTwitterで反応してくれたんですね。少なくとも記事にアクセスしないとどのアーティストが取り上げられているのかわからないと思うので、ちゃんとチェックしているんだなと驚きました」
――いまはボタンを一つ押すだけで翻訳できますからね。ソーシャルメディアや機械翻訳によって壁がなくなっているのは感じます。一方で、シーンの連帯感はベタベタした内輪感に転じてしまいそうですが、ロンドン周辺のシーンの空気はオープンな感じがします。
村田「セリーヌやフレッドペリーのようなファッションブランドが積極的に関わっていることもあって、広い範囲に届いている気がしています」
Fujita「〈内輪〉というレベルではないほど、大きくなっているのかも」
Kajihara「2010年代のUSインディーシーンで人気だったバーガー・レコーズは、ファンとの近さゆえに過ちを犯して、解体しちゃいましたよね。でも、現在のUKのシーンは、『So Young』のようなメディアが第三者的な視点から介入しているから、ベタベタせずにドライな具合を保てているんじゃないかなと」
――風通しが良いということですよね。バーガーの事件は、まさに風通しの悪いトキシックな性質が引き起こしたことでした。
Matsuhiro「イギリスのアーティストってフラットでオープンで、かっこつけずに〈自分たちはこうだ〉という自然体の人が多いと思います。BC,NRのライブも笑顔が多くて楽しそうに即興演奏をやっていますし、ありのままという感じ。
地域性も感じます。サウス・ロンドンでは、もともとジャズが盛んで、アートや演劇なども根づいているそうです。他にもアフリカやカリブ系のコミュニティーがあるとか、人種や文化がボーダーレスに存在していて、それが音楽やアートにも表れていると思います」
村田「The Sign Magazineのインタビューで、シェイムが〈ギグの場を平等で安全な空間にすることを意識している〉というようなことを言っていて、すごくいいなと思いました。
他にも、ウインドミルや『So Young』などに共通する姿勢は、有名じゃないアーティストでも良いと思ったら積極的に取り上げる意識で、それが連帯感に繋がっていると思います。〈UKインディーが低迷していた〉と言われることが多い2010年代前半〜中頃も、良いアーティストはそれなりにいたと思うんです。でも、現在のシーンとのちがいは、みんなで作り上げていく、シーンとして押し上げていく空気だと思うんですね」
Matsuhiro「プラス、学校や教育が充実していることを強く感じます。ブリット・スクールがそうであるように、国や地域、企業が積極的に投資していて、文化教育を受けるハードルが低い。アートや文化が生活に根づいていることを感じます」
佐藤「学校や教育は、まさに今日話そうと思っていたポイントの一つです。
柳樂光隆さんが取材されていたトゥモローズ・ウォーリアーズというチャリティー団体は、子どもたちに音楽レッスンを無償で提供していて、シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)やヌバイア・ガルシア(Nubya Garcia)のようなミュージシャンを輩出しています。
シャバカはギルドホール音楽演劇学校を卒業していて、ギルドホールはBC,NRやミカ・レヴィ(Mica Levi)が通った学校ですよね。ミカ・レヴィと親友のティルザ(Tirzah)は、小学生から高校生までをカバーするパーセル・スクール・フォー・ヤング・ミュージシャンズの同級生同士。そのパーセルは親の所得によって学費が変動する仕組みがあって、差額は国や自治体、パトロンからの支援金で賄われる。さほど裕福ではない子どもたちも、音楽教育を受けやすいんですね。
そういうことに対するナラティブも変わったなと思います。2000年代までは、〈労働者会級出身者がロックンロールスターになる〉というオアシス的なワーキングクラスヒーローのストーリーがまだ有効でしたし。たとえば、ブリット・スクール出身のクークスが2000年代にデビューしたとき、〈音楽学校出身のやつらがロックンロールをやるのか〉という声もあった。そういう空気の変化は大きいですね」
――佐藤さんは、今日の取材前に、ギルドホールへ見学に行ったそうですね。
佐藤「そうなんです。写真をお見せしますね。これがギルドホールの入り口です。

シティ・オブ・ロンドンというロンドンのど真ん中、東京で言うところの大手町や永田町のような政治経済の中心地にあるので、周辺は高級な寿司店があるとか、とにかくハイソな感じ。
これは別館ですね。オペラや舞台の衣装が展示されていて、学校の格式を感じます。

こちらは隣接している、バービカン・センターという複合アート施設です。『POPEYE』2022年2月号でBC,NRのメンバーとイーサン・P.・フリン(Ethan P. Flynn)が写真を撮られていたのも、ここです※。

ただ、BC,NRのメンバーは、学校で習ったことがバンドの活動にそれほど関係しているかというと、そうじゃないとよく言っていますよね。色々な縁でさまざまなプロジェクトに広がっていくことに重きがあると」
ブラック・カントリー・ニュー・ロードの歌詞、エモさ、スリル、コレクティブ感
――では、本題のBC,NRについて、どういうところが面白いバンドだと、みなさんは思いますか?
Casanova「やっぱり、歌詞が面白いですよね。僕は普段、そんなに歌詞を重視して音楽を聴かないのですが、BC,NRは本当に面白い。
歌詞サイトのGeniusに、リリース前の新曲をライブで聴いたファンが書き起こしを載せていて、注釈も付けていたんですよ。それを読んだり調べたりすると、歌詞の意味が変わって聞こえて、まるで翻訳小説を読んでいるかのように楽しめる。その部分が、現地のファンの間でも盛り上がっていますよね」
――アイザック・ウッドの歌詞は固有名詞や引用が多くて、ポストモダン小説のようでも、ラップのリリックのようでもありますね。
Casanova「1曲で完結せずに他の曲と繋がっているとか、聴き手が考えたり解釈したりする余地が残されている作りが魅力ですよね」
――村田さんはどうですか?
村田「自分は不気味だったりちょっと気持ち悪かったりする音楽を好きになる傾向があるので、BC,NRのファーストは曲が長くて色々な楽器が入ってるし、多様なものが入り混じったジャンル不明なサウンドで、〈なんだこれは!?〉と興味を持ってハマりました。
あと、彼らはよく、〈ポップミュージックを作ろうとしたら、こんな音楽が出来ちゃった〉と言うんですよね。結果的に、あきらかにポップミュージックとちがうものが出来ているのが面白い。ただ、彼らのポップミュージックの定義は、〈自分たちが楽しめるもの〉なのかなと思います。知識があって専門性も高い彼らが楽しめる音楽を作ろうとしているんじゃないかなと」
佐藤「僕も、当初はクレズマーとかを取り入れた折衷的なところが魅力かなと思っていました。村田さんがおっしゃったとおり、いわゆる音楽偏差値が高くて、色々な参照点がある。
その一方で、特にセカンドで顕著ですが、歌や曲をストレートに聞かせることにもフォーカスが置かれている感じもある。その意味で、ポップソング的ではあるんですよね。音楽偏差値が高くて、複雑なことをたくさんやっているけど、最終的にはエモーションをストレートに伝えようとしていて、そのアツさが魅力かなと」
――エモさはBC,NRの魅力の一つですよね。
Fujita「僕は、キーワードとして〈共感〉があります。BC,NRのメンバーとは年齢が近いし、僕と同じナードな部類の人間だと思うんです(笑)。歌詞には意外と恋愛の要素があるのも面白くて、ナード特有の思いをうまく伝えられないことや、うまくいかないことの表現に共感します」
――確かに、アイザックの歌詞には、ちょっとヘタレ感がある(笑)。
Fujita「でも、ただナード的なんじゃなくて、知的だからこそ惹きつけられる。そこが、他のバンドとの差ですね」
Matsuhiro「僕は直感的でわかりやすい音楽が好きなので、初めてファーストを聴いたときはよくわからない部分があったのですが、多くのメディアが言うとおり、最高のライブバンドだという印象がありますね。すごく魅力的なライブをしますし、ライブで魅力が増すバンドなので、早く生で観たいですね」
――本当にそうですね。BC,NRのライブって、即興性がすごく高いですし。
Kajihara「僕も比較的わかりやすい音楽が好きなのですが、BC,NRがよく引き合いに出されるスリントのようなポストロックはあまり理解できなかったんです。でも、BC,NRは、いままで自分が理解できなかった音楽や、あまり聴くことがなかったジャンルに興味を持つきっかけになったので、音楽の架け橋だと感じます。
あと、特にファーストは即興性が高くて、何回聴いても次の展開が読めなくてドキドキする。その感覚は、大所帯バンドならではの魅力だと思います」
――ファーストは、現状報告的なアルバムだからこそスリリングですよね。あと、Casanovaさんの記事にあるとおり、サイドプロジェクトや他のアーティストへと地図が広がるところが面白い。
Fujita「ジョージア・エラリー(Georgia Ellery)とテイラー・スカイ(Taylor Skye)のジョックストラップ(Jockstrap)なんて、ぜんぜん音楽性がちがいますからね。アイザックのソロプロジェクトであるザ・ゲスト(The Guest)も、BC,NRとはちがいますし」
佐藤「僕が2010年代のラップミュージックに魅力を感じていたのは、フィーチャリングやコラボレーションの積み重ねがシーンを活性化させて、より創造的な方向にドライブをかけているように思えたからでした。当時は、バンドミュージックに足りないのは、これなんじゃないかと思っていた。特に海外ツアーをするようなバンドは全員で動くことが前提になりがちなので、ラップシーンのクリエイターのようにフットワーク軽く色々なことをするのは難しいのかなと思っていました。でも、いまのUKの音楽には、そういうラップミュージック的なコラボレーションの面白さもあるように思います」

『Ants Up There』の変化と成熟、感動
――セカンドアルバム『Ants Up There』の感想もお伺いしたいです。
Casanova「本当に変わりましたよね。以前、アイザックが〈ネクスト・アーケイド・ファイアになれたら最高〉と言っていましたが、それに近づいたなって。
ファーストは、解散してしまった前身バンドのナーヴァス・コンディションズ(Nervous Conditions)の続きという面があったんじゃないかなと感じました。“The Place Where He Inserted The Blade”で、〈僕はただ君の夢をもっと良く描こうとしただけなんだ〉という歌詞があるのですが、これってナーヴァス・コンディションズのことを言っているんじゃないのかなって。ファーストで過去に区切りをつけたからこそ、セカンドがこれだけ変わった作品になった。ここからがスタートだと感じましたね」
Fujita「ナーヴァス・コンディションズとBC,NRは、ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーのようですよね。ニュー・オーダーのファースト(『Movement』)は、ジョイ・ディヴィジョンの音楽性がかなり残っている作品ですし」
Casanova「確かに。あと、ファーストの頃のインタビューは、ちょうどセカンドの制作の時期だったので、いま読んだほうが彼らの考えがよくわかります。なので、セカンドについてのインタビューは、サードアルバムのモードになっているかもしれません(笑)」
Kajihara「それだと、僕らは永遠にBC,NRに追いつかないですね(笑)」
――ORMの3人はどうですか?
Fujita「僕も完全に別のバンドだと思いました。ファーストは初期衝動や実験的なサウンドが織り交ぜられた先の読めない音楽でしたが、セカンドは全体的に落ち着きがある印象です。“The Place Where He Inserted The Blade”は涙を誘う曲で、ライブでオーディエンスが動画を撮りながら泣いてたのが印象的だと、メンバーがインタビューで言っていました。ファーストが〈興奮〉なら、セカンドは〈感動〉と表すのが適切かなと。普遍的な美しさがあるアルバムだと感じましたね」
Kajihara「僕も変化には驚きました。ファーストは良い意味でちぐはぐな感じがあって、不協和音や一つの型にはまらないところが特徴でしたが、今回はストリングスなどが強調されていて、まとまりが意識されている。
たとえば、キャロライン(caroline)にも、オーケストラの要素がかなりあるじゃないですか。そういう要素がシーンのなかでも今後目立ってていくのかな、という期待もしました」
Matsuhiro「ファーストには〈BC,NRの全部を出した〉という感じはしなかったのですが、今回統一感のある長い作品としてセカンドを出したことで、〈これが本当にやりたかったことなのかな〉と思ったんです。とはいえ、ファーストの爆発に向かっていくような構成も残っていて、才能や音楽性の幅に驚かされました。気が早いですが、サードでまったく別の音楽性に向かうんじゃないかな、とも感じます」
――では、村田さんは?
村田「先行シングルの“Chaos Space Marine”は、イントロが星野源の“恋”にしか聞こえなくて(笑)。その時点では、すごくポップになったなと思いました。
ただ、アルバムとして通して聴くと、全体的に牧歌的でフォーク調ですよね。以前、〈ファーストの“Track X”が次のアルバムを示唆している〉とメンバーが発言していましたが、確かに前作から繋がった世界でもある。
前作では各楽器がぶつかりあっていて、不協和音やちょっとグロテスクな面にゾクゾクしたのですが、今作はハーモニーを大切にして、音が混ざり合っている。特にチャーリー・ウェイン(Charlie Wayne)のドラムが良くて、曲を引き立てていますね」
――佐藤さんはいかがでしょう?
佐藤「僕が好きな曲は“The Place Where He Inserted The Blade”です。この曲について、プレスリリースには〈ボブ・ディランの『Rough And Rowdy Ways』から影響を受けた〉といったことが書いてあって、確かに色々な楽器の音が溶け込んだサウンドという意味では共通しているし、そういった音像はアルバム全体のポイントでもある。
20代前半のアーティストが作る音楽にしては成熟しすぎていると感じるくらいで、グループとして合意を得ながらこういうものが作れるのは、驚異的な才能です。本当に、アーケイド・ファイアと比較しても大袈裟に感じないくらいのスケール感のあるバンドだと思います」
――2000年代のUKではデビューがピークで尻すぼみになっていくバンドが多かったのですが、いまはBC,NRやブラック・ミディのようにどんどん成長していくアーティストが多いと思います。それは、音楽教育が関係しているのかもしれませんね。
佐藤「あと、イギリスに来て感じたのは、メディアのレンズを通してシーンの盛り上がりを伝えることの難しさです。おそらく日本の洋楽市場のサイズにも関係していると思うのですが、メディア上で特定のシーンが強調されると、他の部分が相対的に小さく感じられてしまうという一種のひずみがしばしば起こりうる。
でも、たとえば、BBCのラジオを聴いていると、僕自身が一度〈終わった〉と決めつけてしまった2000年代の音楽──ゴシップの“Standing In The Way Of Control”やMGMTの“Kids”のような当時のインディヒットって、別に廃れていなくて、普通にスタンダード的な曲としてかかっているんですね。だから、現在のシーンは2000年代のシーンと切れているわけではなくて、積み上げてきたことの結果としていま盛り上がっているという面が大きいのではないかと。そういう意味では、反省もしていますね」
4組がおすすめするUKのアーティスト
――最後に、いま、みなさんがおすすめするUKのアーティストを訊きたいです。たとえば、ウェット・レッグ(Wet Leg)は、まさに注目株だと思うのですが。
Matsuhiro「僕は、ウー・ルー(Wu-Lu)に注目しています。ダブやグランジ、ヒップホップなどを取り入れていて、いまのサウス・ロンドンを表すボーダーレスなアーティストなんですよね。でも、それを自然な形でアウトプットしていて、〈自分がやりたいことをやるだけ〉という姿勢が音楽から伝わってくるのが魅力的だと思います。
あと、最近はdvrが好きです。彼はまだ17歳なのですが、XLから『dirty tapes EP』をリリースしたばかりで、今後どうなるのかなって期待しています」
Kajihara「僕はいま、ORMでインタビューしたブルー・ベンディ(Blue Bendy)がいちばん好きですね」
村田「最高だよね!」
Kajihara「ですよね! 『Loud And Quiet』が彼らを見開きで取り上げていて、イギリスでの注目度も高いんです。
音楽性は、かなり異質だと思います。ボーカルのアーサー・ノーラン(Arthur Nolan)の歌い方がキュアーのロバート・スミスっぽい粘り気のある感じなのも良くて、新しさのなかに過去の音楽をリバイバルさせた要素があるのはすごくいいなと思いました。
あと、ポピー・アジューダ(Poppy Ajudha)というサウス・ロンドンのシンガーソングライターがおすすめですね。以前、トム・ミッシュがフィーチャーしていて、当時は気にかけていなかったのですが、徐々に注目されはじめています」
――“London’s Burning”というシングルが最高でしたね。コンピレーションアルバム『Blue Note Re:imagined』(2020年)にも参加していました。
Kajihara「そうですね。彼女は、4月22日(金)にアルバム『The Power In Us』を出します。ジェンダーや階級社会に対する意見をはっきりと打ち出すスタンスのアーティストって、フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)やシェイムのようにバンドではけっこういたのですが、彼女のようなソロアーティストではあまりいなかった印象です。そこが清々しいのと、音楽性もUKに囚われないUSからの影響も強い感じで、面白いですね」
Fujita「僕は、フォーリー・グループ(Folly Group)に注目しています。『So Young』が去年立ち上げたレーベルからデビューしたバンドで、スクイッド(Squid)のようにドラマーが歌うんですよね。次にきそうなアーティストのなかでも頭一つ抜けている印象で、現地の人たちの反応を見ても、今年は目が離せないなと思います。
もう一組はPVAで、BC,NRが所属しているニンジャ・チューン傘下のビッグ・ダダのバンドです。2020年のEP『Toner』が、ものすごく良くて」
――あれはめちゃくちゃ良かった……。
Fujita「ですよね。ポップでありながらもスロッピング・グリッスルのようなインダストリアル感があって、サウス・ロンドン・シーンのなかでもテクノの要素がある3人組というのが他にない魅力なので、今後が楽しみですね」
――Casanovaさんは?
Casanova「僕はアグリー(Ugly)というバンドが大好きなんです。BC,NRのチャーリーがドラムを叩いていたバンドですね。どうやらメンバーは、BC,NRのルイス・エヴァンズ(Lewis Evans)とメイ・カーショウ(May Kershaw)と同じ学校に通っていたようです。ボーカルのサミュエル・ゴーター(Samuel Goater)は、このシーンに多いしゃべるように歌うスタイル(シュプレヒゲザング)じゃなくて、リバティーンズのピート・ドハーティのような、ちょっとロマンがかった言葉数多めの歌詞を歌い上げるようなスタイルなんです。2020、2021年はコロナ禍で活動が止まっていたようで心配していたのですが、最近レコーディングを始めたようで、今年は期待しています。
あとは、スクイッドの“Narrator”(2021年)に参加していたマーサ・スカイ・マーフィ(Martha Skye Murphy)。彼女はここまでに挙げたバンドと同じシーンに属していると思うんですけど、方向性や音楽性がぜんぜんちがう。すごく映像的で美しい音楽を作っているんですよね。そろそろアルバムを出さないかなと、期待しています」
――マーサ・スカイ・マーフィの音楽は実験音楽、現代音楽やポストクラシカルに近くて、不思議な才能ですよね。村田さんは?
村田「まず挙げたいのは、カッセルズ(Cassels)です。オックスフォード出身の2人組で、いまはロンドンを拠点に活動しています。新作『A Gut Feeling』から最初にリリースされた先行曲“Mr Henderson Coughs”は、僕の去年のベストソングの一つなんです。ブラック・ミディやスクイッドのように1曲のなかでの曲調の変化が大きくて、ギーラ・バンド(Gilla Band)のような気持ち良い轟音ノイズを出すので、本当にかっこいいバンドです。しかも、それを2人だけでやっているのもすごい。
あとは、マンチェスターのマンディ・インディアナ(Mandy, Indiana)を挙げたいですね。ファイア・トーク(Fire Talk)というNYのレーベルと契約しているのも、サウス・ロンドンのバンドとはちょっとちがっていて面白い。
それと、ハイスクール(HighSchool)やグーン・サックス(The Goon Sax)などのオーストラリア勢のバンドがロンドンに去年移住したようなので、彼らがロンドンのシーンにどう溶け込んでいくのかにも期待しています」
佐藤「去年、マンディ・インディアナのライブをウインドミルで観ましたよ」
村田「お~!」
佐藤「たぶん、ロンドンで初のショーだったんじゃないかな。ロンドンのバンドとは毛色がちがっていたので、NYのレーベルと契約していると聞いて納得しました」
――ブライトンのポーリッジ・レイディオ(Porridge Radio)もアメリカのシークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)と契約していて、UKからUSへという展開は面白いですよね。
佐藤「シェイムが所属しているのもデッド・オーシャンズ(Dead Oceans)ですしね」
――では、最後に佐藤さんのおすすめは?
佐藤「僕は普段ブラックミュージック寄りの音楽を聴くことが多いので、その意味でも先ほど名前が挙がったウー・ルーには、ワープと契約したばかりということもあり注目しています。
彼はクウェイク・ベース(Kwake Bass)と〈The Room〉という小さなスタジオを構えていて、そこを中心にミカ・レヴィ、ティルザ、コービー・セイ(Coby Sey)など多くの音楽家が互いに共演してシーンを形成している。クウェイク・ベースはコン&クウェイク(CoN & KwAkE)名義での新作をシャバカのネイティヴ・レベル(Native Rebel)から発売予定で、ジャズシーンとの関わりも深い重要人物です。
あと、ウー・ルーと曲を出しているレックス・アモー(Lex Amor)という、ラップと歌の中間のようなボーカルスタイルのアーティストも今後が楽しみです。
あとは、ニルファー・ヤンヤ(Nilüfer Yanya)の周辺。彼女の新作『PAINLESS』に参加しているウィルマ・アーチャー(Wilma Archer)は風変わりなブラックミュージックを得意とする奇才プロデューサーで、ウィルマ・ヴリトラ(Wilma Vritra)というデュオ名義での新作も近々リリース予定です。ニルファーは、UKジャズのシーンともロックのシーンとも絶妙な距離感を保っているように思います」
Casanova「色々な方面で名前を聞くのですが、どのシーンにも繋がっていて、どこにも属していない、中間的な立ち位置が面白いですよね」
――というわけで、このメンバーの対談は、話が尽きませんが……(笑)。本日はここまでにしましょう。ありがとうございました! またぜひ、UKの音楽についてお話ししましょう。
RELEASE INFORMATION

BLACK COUNTRY, NEW ROAD 『Ants From Up There』 Ninja Tune/BEAT(2022)
リリース日:2022年2月4日
■国内盤CD
品番:BRC685
価格:2,200円(税込)
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/歌詞対訳・解説書封入
■デラックス輸入盤2CD
品番:ZENCD278X
価格:2,790円(税込)
■輸入盤CD
品番:ZENCD278
価格:2,490円(税込)
■日本限定カラー盤2LP(帯付き/クリスタルクリアローズヴァイナル)
品番:ZEN278JP
価格:5,190円(税込)
■デラックス輸入盤4LP(ブラックヴァイナル)
品番:ZEN278BX
価格:7,090円(税込)
■限定輸入盤2LP(ブルーマーブルヴァイナル)
品番:ZEN278X
価格:4,690円(税込)
■輸入盤2LP(ブラックヴァイナル)
品番:ZEN278
価格:4,190円(税込)
■輸入盤カセット
品番:ZENCAS278
価格:2,490円(税込)
TRACKLISTING
CD(BRC685)
1. Intro
2. Chaos Space Marine
3. Concorde
4. Bread Song
5. Good Will Hunting
6. Haldern
7. Mark’s Theme
8. The Place Where He Inserted the Blade
9. Snow Globes
10. Basketball Shoes
11. Haldern (Piano Version) [Bonus Track]
Deluxe CD(ZENCD278X)
Disc 1
1. Intro
2. Chaos Space Marine
3. Concorde
4. Bread Song
5. Good Will Hunting
6. Haldern
7. Mark’s Theme
8. The Place Where He Inserted the Blade
9. Snow Globes
10. Basketball Shoes
Disc 2
1. Mark’s Theme (Live From The Queen Elizabeth Hall)
2. Instrumental (Live From The Queen Elizabeth Hall)
3. Athens, France (Live From The Queen Elizabeth Hall)
4. Science Fair (Live From The Queen Elizabeth Hall)
5. Sunglasses (Live From The Queen Elizabeth Hall)
6. Track X (Live From The Queen Elizabeth Hall)
7. Opus (Live From The Queen Elizabeth Hall)
8. Bread Song (Live From The Queen Elizabeth Hall)
9. Basketball Shoes (Live From The Queen Elizabeth Hall)
2LP
Side A
A1. Intro
A2. Chaos Space Marine
A3. Concorde
A4. Bread Song
Side B
B1. Good Will Hunting
B2. Haldern
B3. Mark’s Theme
Side C
C1. The Place Where He Inserted the Blade
C2. Snow Globes
Side D
D1. Basketball Shoes
Deluxe 4LP
Ants From Up There
Side A
A1. Intro
A2. Chaos Space Marine
A3. Concorde
A4. Bread Song
Side B
B1. Good Will Hunting
B2. Haldern
B3. Mark’s Theme
Side C
C1. The Place Where He Inserted the Blade
C2. Snow Globes
Side D
D1. Basketball Shoes
Live From The Queen Elizabeth Hall
Side A
A1. Mark’s Theme (Live From The Queen Elizabeth Hall)
A2. Instrumental (Live From The Queen Elizabeth Hall)
A3. Athens France (Live From The Queen Elizabeth Hall)
Side B
B1. Science Fair (Live From The Queen Elizabeth Hall)
B2. Sunglasses (Live From The Queen Elizabeth Hall)
Side C
C1. Track X (Live From The Queen Elizabeth Hall)
C2. Opus (Live From The Queen Elizabeth Hall)
C3. Bread Song (Live From The Queen Elizabeth Hall)
Side D
D1. Basketball Shoes (Live From The Queen Elizabeth Hall)



