日本ツアーを直前に、前衛性と肉体性を融合させる3人組のライヴ盤が到着! 急旋回・急発進・急停止を繰り返すスリリングな演奏に震えながら、奴らの急襲に備えよ!!
今年7月に発表されたブラック・ミディのサード・アルバム『Hellfire』は、全英22位/全米139位と、どちらもバンド史上最高のチャート順位を獲得した。だが、冷静に考えてみると、これは相当にアクロバティックなことだ。
ブラック・ミディの音楽における最大の特徴は、ユーモアに裏打ちされた予測不可能性だ。集中して何度も聴かないと理解しきれない複雑な曲構成とアレンジ。それはまるで急旋回・急発進・急停止を繰り返すジェットコースターのようで、少しでも気を抜くとリスナーはあっという間に置いてきぼりにされてしまう。チャートの上位を占めるある種のポップスが醸し出す快適さとは真逆の音楽。だからこそ彼らがエド・シーランをけちょんけちょんに貶すのも納得するし、反面、商業的な成功には驚嘆もする。
12月の来日公演を記念してリリースされるライヴ盤『Live Fire』は、彼らの予測不可能性を成り立たせている強力なミュージシャンシップが浮き彫りになる作品だ。録音は2022年6月9日の〈プリマヴェーラ・サウンド・ポルトガル〉でのステージ。ファーストやセカンドの人気曲に加え、まだリリースされていなかった『Hellfire』からも5曲が収録されている。編成はメンバーのジョーディ・グリープ(ヴォーカル/ギター)、キャメロン・ピクトン(ベース)、モーガン・シンプソン(ドラムス)に、近作には継続的に参加しているサポート奏者のセス・エヴァンス(キーボード)を加えた4人。スタジオ盤では菅弦楽器などを用いたオーヴァーダブも駆使する彼らだが、ライヴでは同期音源は使用しない(現代ではそれ自体が一種の態度表明だ)。結果、バンドの演奏の骨格が、技術の高さも含めて剥き出しになっている。
やはり最初に耳を奪われるのは、シンプソンのドラミングだろう。バンド結成前から世代を代表するドラマーと目され、ジャズ畑のモーゼス・ボイドと同じ青少年向けのレッスンで技術を磨いたという彼の、メタルやハードコアからジャズ、ファンクまでを飲み込んだ迫力のプレイを、スタジオ盤よりも遥かに直接的に感じることができるというだけで本作の価値は約束されたようなもの。ピクトンのベースも併せて柔剛を制するリズム隊の存在こそ、ブラック・ミディと他のバンドが一線を画している最大のポイントだとあらためて実感させられた。
演奏力という意味では、エヴァンスも軽んじることはできない。本作でグリープがしきりに〈シャンク〉と彼のあだ名を呼び、その貢献を讃えているのも納得。リリース毎に編曲の比重を高めているブラック・ミディだが、この編成ではエヴァンスのジャジーな鍵盤が、 音の色彩のかなりの部分を担っている。
そしてグリープは、テクニカルなギターの演奏と歌唱を両立して全体を司る。スコット・ウォーカーやデヴィッド・ボウイ、デヴィッド・バーン、ジャーヴィス・コッカーといったシンガーたちを彷彿とさせるシアトリカルな彼の歌の魅力は、技術力の云々を超えた次元で語るべき。神経症の預言者のような鬼気迫るニュアンスに満ちた歌は、バンドの醸す黙示録的なムードを引っ張っている。
それらの演奏と歌唱が組み合わさったアンサンブルは、混沌とした奈落の底への入り口を嬉々として覗き混みながら、その縁を駆け回ってスリルを楽しむ妖怪の子どもたちのようで、強力な印象を残す。本作には未発表曲“Lumps”も含まれているが、この曲におけるブラジル音楽とハードコア・パンクを直結してしまう作法には、洗練とさえ呼びたくなる優雅さを感じる。
ライヴ盤らしい一貫性のある音のもと、過去作からバランス良く選曲されたこのアルバムは、入門編としても最適。個々人の音楽家としての才能と、それらが接合したときのバンドとしての迸る熱を同時に感じさせる本作は、来日公演の火蓋を切るという意味でも、まさに『Live Fire』な一枚なのだ。
ブラック・ミディの作品。
左から、2019年作『Schlagenheim』、2021年作『Cavalcade』、2022年作『Hellfire』(すべてRough Trade)
メンバーのモーガン・シンプソンが参加した作品を一部紹介。
左から、ケイティ・J・ピアソンの2022年作『Sound Of The Morning』(Heavenly)、グレッグ・フォート・グループの2022年作『Blue Lotus』(Blue Crystal)、ウー・ルーの2022年作『Loggerhead』(Warp)
LIVE INFORMATION
Black Midi Japan Tour 2022
2022年12月4日(日)東京・渋谷 O-EAST
2022年12月5日(月)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
2022年12月6日(火)名古屋 THE BOTTOM LINE
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