自分の歌の新しい部分を追い求めて——通算10作目のアルバムは、冨田恵一との親密なやり取りで作り上げたチャレンジングな一枚!

 原点回帰と新機軸、エレクトロニックとオーガニック、実験性とポップネス──あらゆるファクターが極めて自然に共存する、多彩な魅力を持ったヴォーカル・アルバムが誕生した。bird、10枚目のオリジナル作『Lush』。ライヴで歌うことを前提にしてバンド・サウンドで構築された前作『9』から一転、冨田恵一とふたりだけでクリエイトされた本作は、サウンド、歌詞、ヴォーカルを含め、新たな音楽性を志向した作品となった。その出発点は「聴いた人が〈birdは声の人、歌の人なんだな〉と思ってくれるようなアルバムにしたい」という意思だったという。

bird Lush Village(2015)

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 「今回は歌と歌詞に集中したいと思って。冨田さんはソングライティング、音作りもトータルで任せられるプロデューサー。いままでの私の音楽の流れもわかってくれているし、私の新しい部分を引き出してくれるんじゃないかという予感もありました」。

 冨田がベーシック・トラックとメロディーラインを作り、彼女が歌詞とヴォーカルを乗せ、さらに冨田がアレンジを加えるというスタイルで制作されたという本作。緻密に構築されたエレクトロニカ・サウンドとソウルフルな旋律が溶け合うタイトル曲 “Lush”、R&Bとジャズが接近するトラックのなかで穏やかな昂揚感を湛えた歌が広がる“タイドグラフ”、有機的にグルーヴが変化していくサウンドと〈テントテントテン ツナゲ〉という心地良い語感のリリックがひとつになった“Ten”。「実験的なこともやりながら、最終的にはポップに仕上げようと話していました」という楽曲には、刺激的なトライアルとポップスとしての魅力が絶妙なバランスでレイアウトされている。

 「“Lush”のデモが送られてきたときは、〈冨田さんがこんなにレイドバックしたメロディーを書くなんて!〉ってビックリしました。いままでの流れとは違う曲だなと思ったし、なにか沸き立つような感じがあったから、“Lush”というタイトルを付けたんですよ。この曲もそうですけど、私が書いた歌詞に寄り添うような感じで、冨田さんがアレンジをブラッシュアップしてくれることも多くて。そのやり取りも楽しかったし、冨田さんにとっても、いろいろと新しいことができたアルバムになってもらえたんじゃないかな」。

冨田ラボの2013年作『Joyous』収録曲“この世は不思議”

 

 先鋭性とポップ感がせめぎ合うサウンドのなかで彼女は、多彩な表情、豊かな感情を備えた声を奔放に響かせている。「曲によって強く歌ってみたり、優しく歌ってみたり。〈どういう歌い方がいいんだろう?〉と冨田さんと話しながら、いろいろ試してみました」という本作は、ヴォーカリストしての新たな〈気付き〉に繋がったようだ。

 「結構長く歌ってますけど、歌はまだまだ奥が深いです。身体が楽器なので、年齢と共に変化があるし、歌のアプローチ、響かせ方をいろいろな方向から試すのは本当におもしろいなって。歌って、聴いて、試して、検証して、ということをこれからも続けていきたいし、そんなふうに思えるのは自分の歌に新しい部分がずっと見え隠れしているからだと思いますね」。

 シンガー・birdの奥深いポテンシャルを改めて示したアルバム『Lush』。歌という表現が持つ新しい可能性をたっぷりと堪能してほしい。 

birdの2008年作『MY LOVE』収録曲“サマーヌード”

 

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 ここではbirdの近作と関連盤を紹介します。デビュー15年目を迎えた2013年3月、本人選曲による2枚組のベスト盤『bird's nest 2013』と、樋口直彦のアコギのみをバックに歌ったセルフ・カヴァー集『HOME』を同時リリースした彼女。9月には自身のライヴ・バンドであるThe N.B.4を従えての9作目『9』を発表し、記念イヤーを盛り上げました。並行して同年のDJ KAWASAKIのベスト盤『NAKED / DJ KAWASAKI COMPLETE BEST』に新曲“Shining”でゲスト参加し、2014年にはHome Grownの配信シングル“Coral Sands”にて歌唱。2015年もシアターブルックの最新作『LOVE CHANGES THE WORLD』に招かれるなど、その美しいさえずりを多様な場所で響かせています。

DJ KAWASAKIの2013年作『NAKED / DJ KAWASAKI COMPLETE BEST』収録曲“Shining”