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Swedish House Mafia “It Gets Better”

天野「プログレッシヴ・ハウス/EDMのスーパーグループ、スウェディッシュ・ハウス・マフィアが復活! SHMは、アクスウェル(Axwell)、スティーヴ・アンジェロ(Steve Angello)、セバスチャン・イングロッソ(Sebastian Ingrosso)という、スウェーデンの3人のDJ/プロデューサーで構成されています。2008年に結成され、2013年に解散。内2人はアクスウェルΛイングロッソとして活動していましたが、2018年に復活して、今回9年ぶりの新曲“It Gets Better”を発表しました」

田中「以前のど派手なEDMサウンドと比べると、ディストピックなダンスフロアを捉えたMVも含めて、かなりダークで抑制的でヘヴィーな曲ですね。シンプルな4つ打ちでもブレイクビーツでもない、ハネたビートと音の抜き差しが効いた複雑な構成に驚きました」

天野「EDMのネクスト・レヴェルというか……。それと、〈もっとよくなるよ、ベイビー〉というヴォーカル・サンプルがコロナ禍においてダンス・ミュージック・シーンが陥った状況に語りかけているようで、意味深です。ちなみに、ここでサンプリングされているのはディーヴァズ・オブ・カラー(Divas Of Color)のガラージ・クラシック“One More Time”(94年)のイヴリン・キングの歌。コロナ禍以降、こういったダンス・ミュージックそのものに自己言及するようなシリアスさをまとったものや、ダンスの快楽を改めて称揚する曲が増えましたね。これもその一例のように感じます」

 

Kevin Abstract feat. $NOT & slowthai “SLUGGER”

天野4月にリリースした新作『ROADRUNNER: NEW LIGHT, NEW MACHINE』が好調なブロックハンプトン(BROCKHAMPTON)のリーダー、ケヴィン・アブストラクトが2年ぶりにソロの新曲“SLUGGER”をリリース。異端児らしい、かなりへんてこで歪なヒップホップ・サウンドです」

田中「フィーチャーされているのは、$NOTとスロウタイ。$NOTは〈スノット〉と読むラッパーで、フディー(パーカー)のフードを被って顔の前で紐をぎゅっと絞った、なんとも変わったスタイルで知られています(笑)。NY出身で、フロリダのウェスト・パーム・ビーチで活動中です。もう一人は、ノーザンプトンの過激なラッパー、スロウタイ。2月にリリースした新作『TYRON』が話題になっていますね。こういった組み合わせの妙が、さすがケヴィン・アブストラクトという感じです」

天野「ケヴィンらしい、ちょっと気持ち悪いサウンドもあいかわらずで、彼自身とブロックハンプトンのロミル・ヘムナニ(Romil Hemnani)、マルチ・インストゥルメンタリストでサンプル・メイカーのアル・ハグ(Al Hug)がプロデュース。金属音っぽいパーカッションやピアノなどは、アル・ハグの仕事なんじゃないかなと思います。ラストにスクラッチが入っているのもおもしろい。冒頭、ピンプ・Cへの追悼やローリン・ヒルの悪評への言及があるケヴィンのヴァースがかっこいいですね。ただこの新曲、アパレル・ラインの新しい春夏コレクションの宣伝も兼ねていると思います(笑)」

田中「なるほど(笑)。とはいえ、前作『ARIZONA BABY』(2019年)に続くソロ・アルバムに期待したいところですね」

 

Trippie Redd feat. Lil Uzi Vert “Holy Smokes”

天野「今週最後の曲は、トリッピー・レッドが先輩リル・ウージー・ヴァートをフィーチャーした“Holy Smokes”。2人の初共演曲です。これはかなり強烈ですね。ウージーが最近取り組んでいる、チープな8ビットっぽいシンセサイザー・サウンドが印象的で、それをトリッピーがパクった感じというか(笑)」

田中「プロデューサーは、〈グーンテックス(GOONTEX)〉というオランダのコレクティヴのファウンダーであるtnfデーモン(tnfdemon)=フランジ―(flansie)と、そこに所属するセロトニン(sserotonin)。ただ、ウージーやプレイボーイ・カルティのタイプビートをYouTubeでたくさん発表しているtnfデーモンと、彼に似た作風のセロトニン、2人の色が濃く出たサウンドのようですね」

天野「トリッピー・レッドは新作はウージーから影響を受けていると言っていて、〈彼がカルチャーにやったことは素晴らしい〉と言っていました。なので、このビートの感じも納得ですね。この“Holy Smokes”は、トリッピーがこれからリリースする予定の新作『Trip At Knight』からのシングルです」

田中「天野くんが言ったようなチープで浮遊感のあるビートと、悪童トリッピーの甘さとハードさを兼ね備えたラップにまずは心を掴まれます。〈白いカップに紫色のもの(リーン)がたっぷり、(『ドラゴンボール』の)フリーザみたいに見える〉なんてラインも彼らしいですね」

天野「そこに、下品すぎて訳せないリリックで切り込んでくるウージー! トリッピーは2020年10月にリリースした『Pegasus』も絶好調で、新作が楽しみですね。いまもっとも勢いのあるラッパーの一人だと思います」