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Photo by Daniel Swan

ウェールズの大自然のなかで生まれたトランス、コアレス『Agor』

――では、コアレスのアルバム『Agor』についてはいかがでしょう?

野田「テクノだよね。エイフェックス・ツインなんかが好きな人が聴いたらおもしろいアルバムだと思う」

KORELESS 『Agor』 Young/BEAT(2021)

河村「僕はすごくトランスっぽいなと思いました。ネイサン・フェイクとかイタリアのロレンツォ・センニとか、ポスト・トランス的なプロデューサーたちのトランス解釈に近いんじゃないかなと」

野田「たしかにね。メロディーはそんな感じがする」

河村「トランス的な音楽って、いますごく流行っているじゃないですか。そういうのに感化されたのかなと思いました」

野田「トランスや90年代初頭のプログレッシヴ・ハウスがリバイバルしているからね。4曲目の“White Picket Fence”がすごく好きで、アンビエントっぽい曲なんだけど、遠い彼方でトランスがかかっている感じがする」

『Agor』収録曲“White Picket Fence”

河村「ただ、リズムのような基部を変えてもコアレスの音になっている。まさに、2ステップ/ダブステップからまったくちがうところに行ったプロデューサーだと思います」

野田「コアレスは、もともと変わり種だったからね。グラスゴーの大学に行って、たまたまそこでダンス・ミュージックに出会った人だから、〈シーンのなかにいる人〉というのとはまたちょっとちがう。

グラスゴーっていうのがすごく重要で、というのもグラスゴーって、いちばんダンス・ミュージックがアツい場所なんですよ。アンダーグラウンドのミュージシャンがいちばん信用している場所で、たとえばジェフ・ミルズやUR(アンダーグラウンド・レジスタンス)がグラスゴーでしかライブをやらないとか、デトロイトのレーベルがグラスゴーにしかレコードを流通させないとかね。そのグラスゴーのクラブ・カルチャーに衝撃を受けたっていうのは、コアレスにとってデカいんだろうなと思う。

あと、グラスゴーってラスティとハドソン・モホークもいるじゃん。彼らの音楽に近い感じも、今回のアルバムにはあるよね」

ラスティの2010年作『Sunburst』収録曲“Hyperthrust”

河村「たしかに、ラスティとハドソン・モホークに近い感じはこのアルバムにありますね。ガチャガチャとした派手な音色で、変化が多くてミニマルじゃないところとか」

野田「ラスティは地元ではすごく影響力があったから、ひょっとしたらコアレスは彼のパーティーに行っていたのかも。

“4D”のすぐ後に出した“Lost In Tokyo”(2012年)は、またちがう方向性だったよね。だから、グラスゴーのシーンでさまざまな音楽をいっぺんに聴いて好きになって、特定のスタイルを突き詰めるよりも、いろいろな音楽の要素を同時に持っている人だと思う。

コアレスの2012年のシングル“Lost In Tokyo (Original Mix)”

それと、コアレスはウェールズ出身で、〈ウェールズでイビサのコンピCDを聴いて感動した〉ってインタビューで言っていたのがおもしろかったな。ウェールズみたいなイビサとかけ離れたところで『Cafe Del Mar』を聴いたっていう(笑)。だから、それもトランスっぽさに関係しているんじゃないのかな」

河村「そうかもしれないですね。メロディアスで、でもいわゆるフィジカルなダンス・ミュージックじゃない、ちょっと想像上のイビサというか、観念的なタイプのトランスに持っていっていますからね」

野田「でも、やっぱりコアレスならではの変な感じがあるよね。フロアで踊るテクノっていうよりは、完全にリスニングのほうのテクノ。それが、故郷に戻ったことでまた変形していて、視覚的な音楽になっている。

シングルの“Joy Squad”がすごくいい曲で、ゴールド・パンダに近い感じもしたな。インディー・ロックが好きなリスナーがアプローチしやすいエレクトロニック・ミュージックというか」

『Agor』収録曲“Joy Squad”

河村「そうですね。そういう意味で、ヤング・タークスというレーベルの個性にぴったり合っていると思います」

――先日〈ヤング〉に改名したヤング・タークスのアーティストといえばThe xxですし、まさにインディー・ロックとエレクトロニック・ミュージックの中間に位置するレーベルですよね。コアレスは、同じヤングのFKA・ツイッグスのプロデューサーもやっています。そして、『Agor』は野田さんがおっしゃったように、故郷のウェールズに戻って制作したアルバムです。

野田「ウェールズには93年に一回だけ行ったことがあって。なんでかというと、エイフェックス・ツインがトリのレイヴがコーンウォールで開催されるっていう広告をNMEで見て、〈行くしかない!〉と思ったから(笑)。それで、東京からコーンウォールのレイヴを目指して飛行機に乗って行ったんだけど、レイヴがキャンセルになって、イギリス人の友だちが〈かわいそうだから〉ってウェールズに連れてってくれたんだよね。

ウェールズは言葉もちがうし、標識もウェールズ語で読めなかった。当時のウェールズは、ちょっと奥に入ると道が舗装されていなかったり、人気のない細い山道の途中で馬に乗ったおじいさんに出会ったりしたな」

――〈Agor〉というアルバム・タイトルは、〈開く〉という意味のウェールズ語なんですよね。

野田「スコットランドやアイルランドもそうだけど、UKのなかでウェールズは文化的に、いまだにイングランドには屈していないところがあるしね」

河村「都会的な音ではないですよね。他人と関わらないところで作った内省的な作品、というか。ジョイ・オービソンの音楽は〈ロンドン〉という感じで、すごく対照的だと思います」