名器デュランティと魂が震えながら弾いた名曲集

 千住真理子は2002年にストラディヴァリウスの名器デュランティ(1716年製)と出合う。以来この楽器とともに歩み、音楽人生をひたすら深めている。

 「楽器を入手してから、私の人生は以前とはまったく変わりました。デュランティは最初とても気難しい楽器で、すばらしい音は出るのですが、いうことを聞いてくれない。とても手強い相手で、小手先のテクニックなど通用しない。自分を根本から変えないと弾きこなすことができないと思いました。いま19年目ですが、最近ようやく少し楽器に歩み寄り、納得のいく音が出せるようになりました。生活全般を変えたためどんどんストイックになり、趣味や遊びや余計なことは全部捨てました(笑)。 すべてはいい音楽を奏でるため、自分が納得のいく演奏をするためです」

 こう明言する彼女が「生涯ずっとこうした作品を弾いていきたい」と語る珠玉の名曲集が完成した。

千住真理子, 山洞智 『蛍の光~ピースフル・メロディ』 ユニバーサル(2021)

 「どうしても弾きたいと思う曲を選び抜いて録音しました。〈魂が震えながら弾いた〉という感じ。“エストレリータ”は情景が浮かび、涙を流しながら弾く曲。“アラビアの歌”“インドの歌”はクライスラーが編曲しているものを探し当てた、本邦初公開の録音です。“我が母の教え給いし歌”“私のお父さん”、やはり両親必要でしょ(笑)。“スペイン舞曲”は歌劇「はかなき人生」よりで、いま世界中の人たちが抱いている感情です。“ハンガリー舞曲”第20番は数あるハンガリー舞曲のなかでもっとも好きな曲。とことん悲しみの淵に追いやられるような、絶望のメロディがたまりません。“鳥の歌”はカザルスが国連で弾いた曲ですが、カザルスが平和を希求した気持ちは、いまも私たちの変わらぬ思いですよね。“グリーンスリーブス”はどことなく寂しい気な雰囲気。“アロハ・オエ”は陽気な感じではなく、クライスラー編曲ではしっとりとしている。ハワイの悲しい歴史を考えさせられます。“オールド・リフレイン”は昔ながらの歌で、現地ではビール片手に涙を流すような曲。“バラ色の人生”はこのタイトルが好きなんです、いまの時期にみなさんに捧げたい思いですね。“金髪のジェニー”はハイフェッツの編曲がすばらしい。“黒い瞳”は私の編曲で、エキゾチックに重音を駆使し、昔ながらのロシアの陰鬱でありながら民俗的な雰囲気に仕上げました。“ダニー・ボーイ”はアンコールで演奏するとみなさん喜んでくださる。“蛍の光”は編曲が難しいので、兄に頼みました。とても緻密で、ゆっくりうたう感じ。緊張感がみなぎっています。“アメイジング・グレイス”はソロヴァージョンで、最後にしっとりと聴いてほしいと思っています」

 〈希望の光を見出してほしい〉との願いが全編を覆う。

 


LIVE INFORMATION
千住真理子 2021 コンサート情報

2021年9月15日(水)神奈川 ミューザ川崎シンフォニーホール(開演:13:30)
2021年9月25日(土)埼玉プラザウエスト さくらホール(開演:14:00)
2021年10月16日(土)静岡・熱海 静岡MOA美術館 能楽堂(開演:14:00)
2021年11月26日(金)神奈川 ミューザ川崎シンフォニーホール(開演:13:30)https://marikosenju.com/concert/