細井徳太郎(左)、君島大空(右上)、石若駿(右下)
 

SMTKをはじめとした様々なバンド、ユニットに所属し、ジャズとロックをクロスオーヴァーさせるギタリスト、細井徳太郎が初のソロ作品『スカートになって』を完成させた。ジミ・ヘンドリックスに憧れてギターを始め、上京してからは新宿のPIT INNで働きながら様々なジャズを追求し、現在は即興/ノイズのシーンでも活躍する細井だが、ソロでは作詞作曲・ヴォーカルを担当し、ポップス的な作風も展開しているのが新鮮だ。

そこで今回はかねてより細井と交流があり、『スカートになって』の制作にも深く関わっている君島大空と石若駿を迎えて、3人での鼎談を行った。本作には即興ノイズ発生団体〈秘密基地〉でともに活動する高橋佑成(キーボード/シンセサイザー)、トリオ〈泥砂に金〉でともに活動する瀬尾高志(ウッドベース)、SMTKでともに活動するマーティ・ホロベック(エレキベース/シンセベース)も主要メンバーとして参加していて、ジャズを軸に素晴らしい才能が混ざり合い、刺激し合っているシーンの現状を改めて伝える作品でもあると言っていいだろう。そのうえで、細井の特異性を伝える意味では、君島が取材の最後にポロッと口にした「ジャズ・ギタリストのソロ・アルバムだと思って、間違えて聴いてほしい」という言葉をつけ足しておこう。

細井徳太郎 『スカートになって』 APOLLO SOUNDS(2021)


3人の出会い

――細井くんと石若くんは細井くんが新宿のPIT INNでバイトをしていたときに出会ったとSMTKのインタビューなどで話されていますが、細井くんと君島くんはいつ頃どうやって出会っているのでしょうか?

細井徳太郎「僕と君島氏が出会ったのもPIT INNです。2018年に駿の3デイズがあって(2018年10月26日~28日に行われた〈石若 駿3DAYS 6公演〉)、君島、岡田(拓郎)さん、優河さん、シュウタメン(西田修大)とやってたのを観て、すごくいいなって。俺はその時スピッツを感じたんだけど」

君島大空「初めて言われた(笑)」

細井「〈この声好きだわ〉と思って、その場でデモを買って、仲良くなってからそれにサインをもらいました(笑)」

君島「同じ日に徳ちゃんは〈SONGBOOK〉(石若、西田、角銅真実によるプロジェクト)のバンド・セットに出てて、エレキがシュウタメンと徳ちゃんだったんですけど、そこで初めて徳ちゃんがプレイしているのを観て、〈ヤバいやついるなあ〉と思いました。プレイが狂気に満ちてたんですよ(笑)。で、終わってからちょっと話したら、めちゃくちゃ優男だったっていうのが怖すぎて、〈こんな人いるんだ〉って思ったのを強烈に覚えてます。ギターを持つとホントに変わっちゃう人だなって、その印象は今も変わらないかも。最初は〈ジャズ・ギタリスト〉って紹介されたけど、〈こんなロックなギターを弾くやつは他に知らないな〉って思いますね」

――石若くんは細井くんのギタリストとして、音楽家としての魅力を特にどんな部分に感じていますか?

石若駿「共通点として、根底にはジャズがあって、でも世界中にはいろんなジャズがあるから、好きな部分が共通する人はそんなに多くない中、徳ちゃんとは好きなものが結構一緒で、しかも同い年なので、最初から馬が合うなと思いました。一緒に演奏をしてても、好きなものを共有してると話が早いというか、僕が出した音に対して、すぐそれに似合う音を出してくれるんですよね」

――2人は日本のジャズで共有している部分が多いという話だったと思うんですけど、具体的にはどんな名前が挙がりますか?

石若「山下洋輔トリオ、富樫雅彦さん、プーさん(菊地雅章)とか。徳ちゃんはPIT INNのバイト時代にそういう音楽にまみれて過ごしていたと思うし、僕も日本のジャズのことを考えて音楽をするようになった時に、そのあたりをたくさん勉強したのもあって。もちろん、日本のジャズだけじゃなくて、例えば、ポール・モチアンの話もよくするし、お互いその辺が好きなんだなっていうのが、話をしなくても音で分かる、みたいな」

細井「付け加えると、日本のジャズだけじゃなくて、日本のロックも似たようなのが好きで。夏に一緒に花火をしたときに、フジファブリックを大音量で流して合唱したり(笑)」

――ジャズが根底にありつつ、それ以外の話も幅広くできるからこそ、馬が合ったという部分もあるでしょうね。ちなみに、最初に西田くんの名前が挙がりましたが、人脈的にも近いところにいるし、わりと王道のロックから入って、ジャズを吸収して、今では幅広いプレイ・スタイルを持っているという意味で、細井くんと西田くんには通じる部分もあるのかなと思うのですが、細井くん自身はどう感じていますか?

細井「変な音を出したり、目立つことをしたり、面白いアプローチをするっていう部分では共通するところもあると思うんですけど、根幹の部分は違いがあって、それぞれのベクトルを突き進んでるのかなって。ギタリスト同士ってわりとバチバチしがちだと思うんですけど、君島氏とシュウタメンに対しては〈いいなあ〉と純粋に思います」

君島「印象に残ってるのが、さっきも言った駿さんの3デイズのときに、徳ちゃんと西田でソロの掛け合いをしてたんですよ。当たり前といえば当たり前なんだけど、そのとき考え方の違いみたいなのがそれぞれのソロにすごく出てたんですよね。それまで僕の周りにはジャズ・ギタリストの友達ってあんまりいなくて、同年代となるとさらに少ないという中で、徳ちゃんは〈めちゃめちゃカート(・ローゼンウィンケル)みたいなフレーズ弾いてるな〉と思って新鮮だったし、西田はもっとフリーキーなロック・ヴァイブスで行ってて、全然違うけどいい2人だなと思ったのはすごく覚えてて。好きな機材は結構似てる気がするんです。でも材料は一緒なんだけど、全然違うものを作る2人、みたいな」

――ちなみに、細井くんが使ってるグヤトーンは君島くんにオススメされて買ったとか?

君島「そうです。徳ちゃんが〈ソリッド・ギターが欲しい〉と言ってたのを聞いてて、そうしたら僕の地元の方にある楽器屋さんにグヤトーンのテレキャスが売ってたので、徳ちゃん絶対こういう変なの好きだろうなって。それ、めちゃくちゃ安かったんですよ」

細井「3万円で売ってて、前のギターを下取りに出したから、1万5千円で買いました(笑)」

――でもそれが今もメイン・ギターのひとつなんですよね。

君島「徳ちゃん、毎回ライブに違う竿を持ってきたりするじゃん? 自然にやってるんだと思うけど、何を使うかってどんどんシビアになっていくところだと思うので、それができるのは案外すごいなあと思ったりもします。もちろん、こだわりはあるんだけど、その日の気分で服を選ぶような気軽さで、竿を選んでるんだろうなって。そもそも普通だったらグヤトーンは買わないと思うし(笑)、そういうところも素敵だなあと思います」

 

27歳までにギタリストとしてどこかに到達しないといけないんじゃないか

――そんな細井くんが初のソロ作『スカートになって』を発表するわけですが、ソロ作の構想はいつ頃からあったのでしょうか?

細井「コロナ禍になって、みんな仕事がバンバン飛んだりして……(2020年)5月とか6月くらいだったかな? 駿に〈こんな曲書いたよ〉というのを携帯で録って送って、駿も駿で作った曲を送ってくれて、そういうやりとりが何回かあった中で、駿が〈これを徳ちゃんに歌ってもらおうと思う〉って、“したっけ”を書いてくれて。で、〈駿がこんないい曲を書いてくれたから、俺も書こう〉と思って、“スカートになって”を“したっけ”に対するアンサー・ソング的な感じで書いて。この2曲を駿の家で宅録したときに、駿が〈せっかくだしEPとかにしようよ〉と話をしてくれて、〈やるか〉ってなったんです。〈コロナ禍で1年を無駄にしちゃった〉じゃなくて、〈僕たちにはこんないい思い出がある〉というものを残したいと思って、それで作品にすることにしました」

――じゃあ、もともと以前からソロの構想があったわけではなくて、言ってみれば、コロナ禍での石若くんとのやりとりから偶発的に生まれたものだと。

細井「はい。こう言うと申し訳ないですけど、もともとソロでやるっていうのは考えてなかったです」

石若「でも去年ライブが少なくなった中で、徳ちゃんはそれでも曲作りやライブをできる限りやっていこうとしているように見えて、気付いたら〈ライブで歌ってるな〉と思って。その頃キミ(君島)とも密に連絡を取ってたと思うから、歌い始めたのはキミの影響もあるのかなって俺は感じてた。あと〈俺は次の誕生日までに何かを残す〉と言ってた気がする」

細井「あー、27歳から28歳になるってやつでしょ?」

君島「ジミヘンの話?」

細井「そうそう。27歳までにギタリストとしてどこかに到達しないといけないんじゃないかという強迫観念があって(笑)」

――ジミヘンは細井くんの一番のルーツなんですよね。

細井「そうです。僕のアイドルです」

――彼が亡くなった27歳までに、何かひとつ形にしようと。

細井「結局今年の1月で28歳になっちゃったから、〈越えちゃった〉と思いつつ、2月末くらいにレコーディングをしました。内容もギタリストギタリストしたものでは全然ないんですけどね」

――さっきの石若くんの話に戻すと、歌い始めたきっかけは君島くんだったりするんですか?

細井「最初に話した駿の3デイズの少し後に下北沢THREEで君島氏のワンマン・ライブを観たんですけど、その前後に〈エフェクターを見せ合おう〉って話をして、一緒にスタジオに入り、その後に君島氏とシュウタメンと下北沢APOLLOに内橋(和久)さんを観に行って」

君島「そうだ。(山本)達久さんとのやつ」

細井「そこでAPOLLOの美浦さんとも仲良くなって、APOLLOで君島氏と何かやりたいと思い、〈実験室〉というタイトルでデュオをやったんですけど、そのとき君島氏が〈徳ちゃんも歌ったら?〉と言ってくれて。それで歌い始めて、そこに瀬尾さんも入り、〈泥砂に金〉というトリオが始まったんです。なので、君島大空さんへの憧れから歌い始めた説もある(笑)」

君島「すごく印象的だったのが、SMTKに“ホコリヲハイタラ”という曲があって、メロは(松丸)契ちゃんがサックスで吹いてるんですけど、いい曲だなと思ってたら、徳ちゃんが書いた曲で、しかも〈あれ実は歌詞があるんだよ〉と言ってたのに僕はすごくときめいてしまって。〈いつか歌う気でいるんじゃないか?〉って、嬉しかったのを覚えてます」

SMTKの2020年作『SMTK』収録曲“ホコリヲハイタラ”
 

細井「歌う気があったというよりは、俺の書いた曲には大体歌詞があるんです。メロは鼻歌で生まれるから、ゴニョゴニョ歌いながら曲を作って、一応その歌詞もメモってあるんだけど、でもみんなにはメロディーだけ渡してて」

君島「なるほど。その歌詞は徳ちゃんしか知らないんだ」

石若「佑成のやつで角さん(角銅真実)が“ホコリヲハイタラ”歌ってるよね?」

細井「そうそう、秘密基地では角さんが歌ってくれてます」

――じゃあ、やっぱり〈歌〉への意欲は以前からあったと言ってもいいかもしれないですね。

細井「そうですね。それこそジミヘンも歌ってるし、ジョン・フルシアンテがレッチリのライブだとか細い声でコーラスしてるのとかもめちゃめちゃ好きで、SMTKでコーラスをやってみたいとも思ってたから、声で表現したい気持ちはずっとあったんだと思います」