自分たちの内面が剥き出しに

 また今回は、過去作にも参加したunmoやTokiyo Ooto(And Summer Club)、トラックメイカーとして活躍するSagesaka Tomoyuki(isagen)など、これまで以上に多くのヴォーカリストをフィーチャーしているのも大きなトピックだろう。洒脱でドラマティックな展開を見せる“Listen”では猪爪東風(ayU tokiO)がナチュラルな歌唱を寄与している。

 「猪爪さんはまったく面識がなかったんですけど、ayU tokiOのヴォーカルの感じが曲のイメージとピッタリだった。メロディーとかワクワクする感じにフィットすると思ったので、まったくの飛び込みでお願いしたら、ぜひやりましょうと言ってくださったんです」(西山)。

 “Panorama”に迎えたのは弓木英梨乃。アコースティック・ギター風のサウンドと、透明感と凛とした表情を併せ持つ彼女の歌とが心地良く寄り添う。

 「歌っていただいた“Panorama”は、自分の好きなものをまっすぐやる青さを表現したかったんです。弓木さんの声は大人っぽさと若々しさと両面があって、歌詞に合うなと」(西山)。

 浮遊感のあるシンセ・ポップ“潜水”には川辺素(ミツメ)をフィーチャー。どこかミツメにも通じるメランコリックな響きが美しいナンバーだ。

 「ミツメは僕らふたりとも昔から大好きなバンドで。他の楽曲は、イメージに合ったヴォーカルの方を探してお声掛けしたんですけど、この楽曲に関しては初めから川辺さんが歌う前提で作りました」(西山)。

 そしてアルバムの締め括りには川辺素とunmoのダブル・ヴォーカルによる“海鳴り”が配されているのだが、この楽曲を含めた終盤の2曲で、それまで抑制されていた強力なダンス・ビートが立ち現れる点に耳を惹かれる。

 「水を鏡に見立てて自分の内面と向き合うというアルバムのコンセプトは、11曲目の“透明な青”でいったん終わっていて。そこからはコンセプトから抜け出して、その先を描きたいなと考えたんです。心の内側から外の世界へ進もうと。その推進力をとして強いビートが出てきました」(柴田)。

 現行のモードやダンス・ミュージックのフォーマットに囚われず、描くべきモチーフを表現することと、自身の好きなサウンドとをひたすら追求した『See-Voice』は、それゆえの無二の響きを成立させている。言ってみれば〈やりたいようにやる〉という、ある意味でシンプルな方向性へと振り切ったわけで、だからこその明快な訴求力を備えているように思う。そして、彼らが内面と向き合いながら紡いだこの美しい音の数々は、誰もの日常の感情にフィットするはずだ。

 「いまの自分たちはダンス・ミュージック的なビートにあまり重きを置いていないですし、いわゆるトラックメイカー的な音楽の作り方とは違うなと、今回のアルバムを作って改めて思いました。“ぬけて”という曲なんかは、ほとんどフルートのソロだけで構成していますけど〈これでいいじゃん、ビートを入れる必要もないし〉って。今回はそういう感じが強いですし、いましか作れないものになったかなと思います」(柴田)。

 「ダンス・ミュージック的なビートって社会性が表れるのかなと思っていて。踊りたくなるようなビートを入れることって、他の人に対しての社会性なんじゃないかと。今回は、〈わかってほしい〉とか〈共感してほしい〉という気持ちが希薄になっていて、自分たちの内面が剥き出しになったような作品になりましたね。こうして出来上がった後になって、そのことが不安になってきたりもしているんですけど(笑)、でもそこが自分たちの作品のおもしろいところだと思っているんです」(西山)。

『See-Voice』に参加したアーティストの関連作を紹介。
左から、ミツメの2021年作『VI』(mitsume)、And Summer Clubの2021年作『Dreaming Galaxy』(こんがりおんがく/TETRA)、ayU tokiO/SaToAの2020年作『みらべる』(なりす・コンパクトディスク)、isagenの2021年作『sh』(TREKKIE TRAX)、弓木トイの2019年作『みんなおもちゃになりたいのさ』(ヤマハ)