タワーレコードのフリーマガジン「bounce」から、〈NO MUSIC, NO LIFE.〉をテーマに、音楽のある日常の一コマのドキュメンタリーを毎回さまざまな書き手に綴っていただきます。今回のライターは渡辺祐さんです。 *Mikiki編集部

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植木等は気楽な稼業じゃないときたもんだ。

 「昭和のおじさん」の評判がすこぶる悪いですね。会社や官公庁、チームに党に組織委員会にテレビ番組、ついでにSNSと、それはもうあちこちでセクハラ・パワハラ・暴言・勘違い・老害(以下省略)をまき散らしているようなので致し方ございません。同世代(昭和30年代生まれ)として笑い泣きしておる次第。とほほ。

 これだけ目立つというのは、昭和のおじさん(一部は平成のおじさん)が、いまだはびこっているとも言えるわけです。昭和といってもいささか長うございますが、主に60年代の高度経済成長期から80年代のバブルあたりまでに「よし」とされていた感覚を修正することなく、そのまんまブイブイ言わせてしまった世代が、2021年現在もわりと目立つところに居座っておる、と。

 人はなぜに、自分を更新する、センスを上書きするということができなくなるのでありましょうや。

 その高度成長真っただ中の昭和36年(1961年)に植木等さんが歌う“スーダラ節”がヒットします。もちろんハナ肇とクレイジーキャッツのメンバーとしてですが、特に植木さんのC調っぷり(わかりますかね?)が人気を呼んで、そこからテレビ「シャボン玉ホリデー」でのギャグ「お呼びでない!?」につながり、「ニッポン無責任時代」からはじまる映画「無責任シリーズ」など、約10年間のクレイジーキャッツ黄金時代を築きます。“スーダラ節”に出てくるのは、酔っぱらってはベンチでごろ寝、競馬が好きで、手は早いけどモテない、いい加減男。「無責任シリーズ」の方は、口八丁手八丁で世間を渡っていく無責任男が主人公。やはりクレイジーキャッツの歌にある「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」から続くフレーズや「楽して儲けるスタイル」という歌詞が、そのC調具合を物語っております。

 「C調で無責任」と書きますと、まさに今の「昭和のおじさん」のダメっぷりにも通じてしまうので、「植木等こそ昭和のおじさん」にされそうですが、そこはしばしお待ちを。時代には背景というものがありますね。こんな歌が流行った当時は、会社員がモーレツ社員だの企業戦士だのと呼ばれた時代。多くの会社員はマジメにがむしゃらに働いていたと思われるのであります。映画の中でも谷啓さんをはじめ、クレイジーキャッツのメンバーはマジメに働いてる。

 きっとそんな勤勉至上主義の状況を逆手に取ったのが、ほとんどの曲の作詞を手がけて「C調で無責任」なヒーローを生み出した青島幸男さん。もしかして、これって「多数派が所属する会社社会(ややこしいね)」へのカウンターだったんじゃなかろうか。だからウケたんじゃないのかしらん。

 こうして青島さんの歌詞や台本(さらに出演)がカウンターを連発していた当時、実は植木等さんご本人は、ご自身の性格とのギャップを感じて、無責任男を演じるのがイヤだった、というのも有名な話。ご本人はちゃんとしてる。そして、さらにそこからが植木さんのちゃんとしてる真骨頂。後年にそんな自分を振り返り、今では“スーダラ節”にも感謝している、とした上でこう語っていらっしゃる。「だいぶ経ってから、“やりたいこと”と“やらなきゃいけないこと”は違うんだっていう……それに気づいたとき、初めてプロ意識に徹したというか。」(五歩一勇著「シャボン玉ホリデー」より)。

 無責任どころか、とんだ責任男。「更新できるおじさん」だったのではないかとにらんでいるのであります。

 


著者プロフィール

渡辺祐(わたなべたすく)
1959年神奈川県出身。編集プロダクション、ドゥ・ザ・モンキーの代表も務めるエディター。自称「街の陽気な編集者」。1980年代に雑誌「宝島」編集部を経て独立。以来、音楽、カルチャー全般を中心に守備範囲の広い編集・執筆を続けている。現在はFM局J-WAVEの土曜午前の番組「Radio DONUTS」でナヴィゲーターも担当中。

 

〈LIFE MUSIC. ~音は世につれ~〉は「bounce」にて連載中。次回は2021年10月25日(月)より店頭配布中の「bounce vol.455」に掲載。