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音楽の聴き方の変化

――さっき藤川さんが言ったように、ここ4~50年のリズムミュージックを通過したKroiの音楽は、若者や世間にも徐々に浸透してきている感じがありますが、メジャーデビューして変化や実感はどうですか?

内田「日常の変化はないよね」

長谷部「でも横断歩道とかはちゃんと守るよ」

一同「(笑)」

内田「誰が見てるか分からないからね。……っていうところが変わりました(笑)」

長谷部「周りのスタッフさんたちが制作しやすい環境を作ってくれるので、メジャーだからどうとかってことはないですね」

内田「でもより音楽に密接な生活を送れるようにしていただいてるなとは思ってます」

藤川「音楽を作る時ではなく、聴く時の変化はどうですか? 今回みたいにアナログで聴くのか、ストリーミングで聴くのか」

長谷部「俺は恥ずかしながら、まだアナログの(オーディオ)システムをちゃんと組んでいなくって。でも高校ぐらいからアナログをディグるという行為に憧れはあったので、下北沢のレコード屋さんとかで買っては、スピーカー付きのプレイヤーでかけたりはしていました。やっぱりストリーミングだとできない音楽の出会い方がレコードにはあるので、早くお金貯めていいシステムを組みたいなとは思っています」

藤川「でも周囲にオーディオシステムについて詳しい方がいっぱいいそうですよね」

内田「オーディオオタクみたいな人はわんさかいますよ(笑)」

藤川「CDはどうですか? それこそ『LENS』はストリーミングでもアナログでも聴きましたけど、CDの音は生々しくて良かったですよ」

内田「そうですね。俺はCDでも聴きます」

藤川「Kroiはフィジカルも大事にしてていいですよね。今後も、CDだけでなくLPや7インチでもリリースは続けてほしいですね」

内田「いやー、やりたいですね」

 

出てきてるっていうよりかは、無理やり出していく

――そういえば、『LENS』のインタビューの際は怜央さんが〈人生の第一章がこれで終わる〉と言ってましたけど、『nerd』から第二章が始まった感じですか?

内田「それ、俺個人の話だったのに、バンドにもそれを背負わせてしまったような感じで申し訳ないんですけど(笑)。ただ、いったんここまでやってきたことをさらにもっと新しくしなきゃいけないよっていう、過去の自分からのプレッシャーですよね。それを感じながら作れたとは思います。なので自分の中では第二章のいいスタートが切れたと思ってます」

――メンバーはどう思ってるんですかね?

内田「ね。こういう質問は俺に振られるんでそのまま答えちゃってましたけど、どう思ってるのか恐ろしいですね(笑)」

長谷部「(笑)」

――制作面では何か変わりました?

内田「プリプロをしっかり詰めるようになりましたね。レコーディングの下準備はかなりシビアにやっていて、そのおかげでレコーディング中の道筋がちゃんと見えるようになったと言うか。あと今回は音像、サウンド感に関して、千葉さんの力が大きく出たものになっていて、特にミックスの面でどんどん秀逸になっていってると思います」

――プリプロは今までもやってたんですよね?

内田「気が向いた時にだけ(笑)。デモの要素がそのまま曲に入ってたんで、今まではそれで充分な気がしてたんですよね。デモで曲全体の内容とか質感も分かった気になってたし。でも、やっぱり現代に発信する音楽にするためには、デモから解釈ってどんどん変わっていくんですよね。だって自分でマイキングしたドラムとかでデモを作ってますからね。それだといなたすぎちゃう。だから千葉さんを中心にしたプリプロ作業を挟むことで、今出すための音の完成図みたいなものを見ながらレコーディングできた感じです」

藤川「それにしても今年のKroiはすごいですよね。アルバム1枚、EPを2枚出して、ツアーを3回やって。そこでプリプロもしっかりやるのって、スケジュール的にすごくないですか?」

長谷部「でも休む時間もちゃんともらえていて」

内田「曲を作りたくてしゃあないんですよね」

藤川「創作意欲が湧き出る?」

内田「湧き出させたいんですよ。たぶん、曲作ってないとおかしくなっちゃう人なんです。なので、レコーディングまでの段階と、レコーディングとミックスの日取りがちゃんとあれば、曲はコンスタントにリリースできるんです」

藤川「来年もガンガン出していく?」

内田「まだ分からないですけど(笑)、でも今年はそういうバイブスでやってましたね」

藤川「今作で言うと、例えば“Rafflesia”はドラムンベースのビートが下敷きになってますよね。ああいう発想はどこから出てくるんですか?」

内田「そうですね。曲を作ろうとする時の題材というかリファレンスみたいなものは必要で、この時はドラムンベースを作ってみようかなというのがあって、速いテンポでドラムを叩いてみて。ただ、ある時点から先はドラムンベースを考えすぎないで作っていこうというタームも設けて、で、それをメンバーに渡すと各々が好きなフレーズを弾いてくれて返してくれて。そうやって元のジャンルからちょっとずつ遠ざかっていくところが、自分たちの音楽を作ってるなって実感が湧くところでもありますね」

長谷部「元はドラムンベースなのに、ベースラインとかがめちゃくちゃカッコよくなって返ってきて、ちゃんとKroiの音楽になってる。それこそ過去から今までの音楽を突っ切ってる感じがあって、“Rafflesia”はすごく良くなりましたね。

最後の曲の“WATAGUMO”も、ど頭は結構ニューソウルな雰囲気で始まるんだけど、最後は良質なJ-Popにうまいことなってて、そういうのがさっき言ってもらった〈あれ? こんな展開になってるんだ〉っていう驚きにも繋がってると思いますね」

藤川「なるほど。しかもそういういろんなアイデアの曲が、さっきも言ってたようにハイペースで出てくるっていうのがすごいですよね」

内田「出てきてるっていうよりかは、無理やり出していくっていう感じです。でもそれが生活として一番健康的で、アウトプットしてないとグダグダな生活ですからね。だから休みの日と曲作りの日の境があんまり分からないですけど、ずっと曲を作ってるんです」

藤川「次は2枚組とかも期待できるかもしれないですね」

内田「2枚組いいですね~」

――『Stadium Arcadium』(レッド・ホット・チリ・ペッパーズの2006年作)みたいな。

内田「うわ~いいですね~。LPだと3枚組、4枚組みたいな」

藤川「今作をEPにした理由は?」

内田「この辺りでEPを出そう、と決めてはいたんですけど、制作的にはキツキツだろうなと思っていたら、想像を上回るキツキツさというのもあり(笑)」

長谷部「『LENS』のツアー中にレコーディング日程を決めて、ツアーが終わる前にレコーディングが始まって」

内田「今日はライブやってんのかレコーディングやってんのか、もうワケ分からん(笑)!」

――収録曲をどういう6曲にしようってイメージは?

内田「曲調的にはそんなに考えてなかったですけど、裏テーマとしては〈怖いもの・不気味なものを書きたい〉っていうのがありました。そこに、書きたいことや気になる音楽の要素とかを盛り込んで表現していく感じで」

――それは前作の取材時に怪談にハマってたからですか?

内田「そうですそうです! 夏前に怪談にハマって、今でもいろいろ追っかけてるんですけど、そういうところから〈恐怖〉の感情から得られるものって深いな、と思うようになって、〈次は怖いのを作ってみるか〉ってなったんですよね」

――今作の裏テーマが〈不気味なもの〉だとしたら、表のテーマには〈nerd〉というものがありますよね。これはどこから?

長谷部「ファーストアルバムのいろいろが終わって、俺らの一種の決意表明じゃないですけど、一度〈nerd〉であることを示したかったんですよね。そこでウチのベースの関さんが考えてきてくれたのがこの『nerd』っていうタイトルで、アメリカだと〈nerd〉ってマイナスな意味に捉えられがちみたいですけど、それは恥ずかしいことではないよっていうことを伝えたかったんです」

藤川「Kroiだけじゃなく、聴く我々も〈nerdであれ〉ってことですよね」

内田「そうですね。ずっと前から我々の音楽を聴いてくれる人も、それ以外の人も、耳を肥やしていけばおのずと世の中の作品もより本質的になっていくと思っていて。そうしたらクリエイターも、耳の肥えた人たちが認めるものを作らなくちゃいけないって追い込まれていって、いいものが生まれていくと思うので。それに、自分たちがいいと思う音楽を作って、それに食らってもらって、こうやってレコード屋さんとかで〈あの曲ソウルっぽかったな、じゃあソウルの棚に行こう〉みたいになってもらいたいし。そういう何かのきっかけになったらいいなっていうことはずっと思ってます」

藤川「今って関連動画とかで出てくることはあっても、自分からディグるっていう行為がそんなにされてない気もするので、タワーレコード的にもありがたいことですね」

内田「あのディグって新たな音楽を見付けた時の快感を教えたいですよね。身震いしたり、ゾクゾクしたりするあの感じ。だから〈nerd〉になってほしいっていう気持ちがありますね。〈nerdだ〉って誇りを持って言ってほしいです」

長谷部「そうそう、決してネガティブな意味ではないです」