カバーでもパクリでもない、パロディーともちょっと違う。ビートルズのメロディーやコード、フレーズなどを彷彿とさせる、いわゆる〈ビートルズの遺伝子〉を受け継いだ良質なアーティストを紹介する〈BeatleDNA〉。このプロジェクトから、ヴィニール・キングスとセス・スワースキーのベストアルバムがそれぞれリリースされた。

70年のビートルズ解散以降、ラトルズを筆頭にエミット・ローズやクラトゥ、オウズリーなど、〈ビートリッシュ〉〈ビートリー〉といった形容詞で語られるようなサウンドを奏でるアーティストが、今日に至るまで次々と登場してきた。また、80年代の米国西海岸で盛り上がったペイズリーアンダーグラウンド、90年代に英国ロンドンを中心に一世を風靡したブリットポップ・ムーブメント、さらに日本でも流行したスウェディッシュポップなど、ビートルズやその周辺の音楽を再評価する流れは断続的に起き続けている。

いったい〈ビートルズの遺伝子〉とは何なのか。なぜビートルズの音楽は今なお脈々と受け継がれ、我々を魅了し続けるのか。筆者にとってもその問いかけはライフテーマになっており、2012年に「ビートルズの遺伝子ディスク・ガイド」を上梓した。

今回のリリースで一旦は活動終了となるという〈BeatleDNA〉プロジェクト。その仕掛け人であるソニーのディレクター白木哲也に、プロジェクト立ち上げの経緯や制作面での裏話、あふれるビートルズ愛について、じっくりと語ってもらった。

VINYL KINGS 『A Little Trip / Time Machine(ザ・ベスト・オブ・ヴィニール・キングス)』 ソニー(2021)

SETH SWIRSKY 『The Best Of Seth Swirsky』 ソニー(2021)

 

ビートルズのDNAはメロディーに宿る

──そもそも白木さんが〈BeatleDNA〉というプロジェクトをスタートさせた経緯から教えてください。

「ビートルズ好きが高じて、というのはいうまでもないことですが(笑)、僕がファンになったのは、すでに彼らが解散したあとでした。でも、街中やTV、ラジオなどから流れてくる曲が耳に入ったとき、なぜか〈クッとくる〉瞬間があって。それをよく聴くと、いわゆるビートルズ的なメロディーだったりサウンドだったりしたわけです。高校生の頃には、そういう曲を見つけてはカセットに録音して集めていました。

そんななか、確か80年代の終わり頃だったと思うのですが、岩本晃市郎さんが編集長を務めていた『POP IND’S』という雑誌があって、そこで初めてビートルズの遺伝子を持つアーティストが体系化されていたんです。そういうアーティストを夢中になって聴いていたことの延長線上に、このプロジェクトがあるんですよね」

──僕も普段、音楽を聴いていてグッとくるメロディーやコード進行、サウンドプロダクションや楽器の使い方などには、大抵ビートルズの要素が含まれているなと感じるのですが、そういう〈ビートリッシュ〉〈ビートリー〉といったワードで語られる要素について、白木さんはどう定義づけていますか?

「ビートルズ好きの数だけビートルズ的な要素ってあると思うのですが(笑)、僕がもっともそれを感じるのはメロディーですかね。おっしゃるように、コード進行や楽器の音色にもクッときます。もちろん、歌詞のメッセージ性や彼らのアティテュードに影響され、それらを消化したものを自分なりに出しているバンドはたくさんいますが、僕はビートルズの〈音楽〉のファンであるがゆえに、〈ビートリッシュ〉〈ビートリー〉な要素とは、すなわちメロディーやサウンドなのかなと思っています」

──同感です。〈実験性とポップネスの融合〉だとか、そういうアティテュード的な部分ではなくもっとフェティッシュに〈ビートルズっぽさ〉を僕も求めていて、そういう気持ちを的確に言語化し体系化してくれたのが岩本さんだったと思いますね。

「特に日本人は歌詞が聴き取れないぶん、そういうサウンド的な部分を大事にしている気がしますね。〈この歌詞の空気感、言葉の選び方がビートルズっぽい〉と言われても、英語がわからないとなかなかピンとこない(笑)。このプロジェクトを始めてわかったことなんですが、僕らが〈ビートリッシュ〉と思っているものも、英国人からするとピンとこないケースが結構あるんですよ。例えばクーラ・シェイカーですら、〈なんでこれがビートリッシュなの?〉と向こうのレーベル担当から首を傾げられたことがあって」

──それは意外です。でも、逆に日本人は文化的な背景や言葉などに関係なく、純粋にサウンドとメロディーを楽しんでいるともいえますね。

「もちろん、楽曲やサウンドがドンピシャなアーティストなら、誰もが〈ビートリッシュ〉と思うんでしょうけど。感じ方はそれぞれ違いますからね。『ストレンジデイズ』にそういうふうに紹介されていても、いざ曲を聴くと〈これは違うんじゃない?〉と感じる人もきっといるでしょうし」