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『Power To The Pop』制作のよもやま話

──それを解明したくて聴き続けているところもあるのかもしれない(笑)。ちなみに、本当は『Power To The Pop』、『Power To The Pop 2』に入れたかったのに、入れられなかったアーティストはいますか?

「セマンティクスですね。僕はセマンティクスが大好きなんです。実は95年くらいに売り込みがあったんですよ。当時、弊社の出版を担当していた者から〈素敵な曲がある〉とデモをもらって、聴いてみたら本当に素晴らしくて。そのデモには“Coming Up Roses”ももちろん入っていましたし、ビートルズの遺伝子とかを抜きにしても〈これは絶対にやりたい!〉と思った。ところが、上司に相談したところ〈売れそうにないから〉と却下されてしまって。それで諦めざるをえなかったんですけど、ずっと心に引っかかっていたんです。その後、セマンティクスでもメンバーだったオウズリーのソロアルバムも日本盤が出て、ラジオでも結構かかったりして、〈やっぱりいいなぁ〉なんて思っていたら、彼が急逝してしまったじゃないですか」

セマンティクスの96年作『Powerbill』収録曲“Coming Up Roses”
 

──そうでしたね。

「あのとき、自分がセマンティクスを出せなかったという忸怩たる想いがさらに強くなり、『Power To The Pop』を企画したときに真っ先に権利元を探したのがセマンティクスの音源だったんです。ところが全然見つからなくて。いろんなところをたらい回しにされた挙句、第一弾には間に合わなかったんです。その後、オウズリーの遺族の方を紹介してもらって直接やり取りができるようになったのですが、誰が権利を持っているのかまではわからなかった。それで結局出せなかったのが心残りではありますね。できればコンピだけでなく、アルバム単体でも出したいくらい思い入れがあるので。

※編集部注 『Power To The Pop』には“Coming Up Roses”のオウズリーのソロバージョンを収録
 

あと、岩本さんがものすごく入れたがっていた、オレンジの“Judy Over The Rainbow”(94年)も結局ダメだった。こちらはメンバー本人まで行き着いたんですけど、当時の契約がごちゃごちゃみたいで。そういうバンドが90年代には多いんですよ」

オレンジの94年のシングル“Judy Over The Rainbow”

 

ビートルズが好きなら、これも好きだよね?

──コンピ以外でも、〈BeatleDNA〉では例えばマイク・ヴァイオラのベスト盤やリイシューなどもいろいろ出してきましたよね。

「売れる/売れないは度外視しているんですけどね(笑)。きっとほとんどの人が知らないアーティストだと思うのですが、やっぱりこういういい作品は出していきたいという想いがありました。〈こんな隠れた名曲がたくさんあるんですよ?〉 ということを、世に知らしめたい一心で。特にマイク・ヴァイオラは個人的にどうしても出したかった。ベスト盤ということで、ソロはもちろんキャンディ・ブッチャーズ時代の音源も網羅しています。

マイク・ヴァイオラの2011年作『Electro De Perfecto』収録曲“Soundtrack Of My Summer”
 

それが契機となり、偶然見つけてすごくいいなと思っていたナインズも本人とやり取りを始めた結果、未発表曲を加えたベスト盤という形で出すことができました」

──個人的には、ポール&リンダ・マッカートニーの『Ram』(71年)をライブで完全再現した、ティム・クリステンセンの『Pure McCartney』(2013年)が最高に好きです。

「いいですよね(笑)。『Pure McCartney』にデニー・レイン役で参加しているマイク・ヴァイオラもそうですが、基本的にみんな愛で動いている。ビートルズのおかげでこの業界に入って、さまざまな分野でさまざまなタイプの音楽を作って生活をしていて。でも心の中には常にビートルズやポールがいるという。そういう人たちの音楽じゃないと、僕自身もやる意味がないと思っています。商業的成功がイメージできそうなアーティストは、きっと他の人がやってくれるでしょうし(笑)。

ティム・クリステンセンの2013年作『Pure McCartney』収録曲“Monkberry Moon Delight”
 

マイク・ヴァイオラもそうだし、みんな、すごくいい人たちなんですよね。いろいろと交渉しているときも無理難題は言わないですし(笑)。僕はこういうものを出すのって、ある意味では恩返しといいますか。弊社にビートルズはいないわけですが(笑)、自分がここまで音楽の仕事に携わることができたのはビートルズのおかげだし、何らかの形で恩返しをしたいという意識があって、そこが全員同じようなスタンスなんですよね」

──そして今回、ヴィニール・キングスとセス・スワースキーの音源がリリースされます。

「ヴィニール・キングスは、いままでに出していた2枚のアルバムをコンパイルしたものです。メンバーの1人は82年に日本で大ヒットしたAORの定番『Marooned(邦題:ロンリー・フリーウェイ)』で知られるラリー・リーでした。ジャケは鈴木英人さんが手掛けて当時話題になったんですよね。

ヴィニール・キングスの2002年作『A Little Trip』表題曲
 

セスはレッド・バトゥン(The Red Button)というバンドを並行してやっていて、その音源も収録することができました。やり取りしていて知ったのですが、セスは、ビートルズの関係者50人以上にインタビューをしながら制作した『ビートルズと私』(2011年)という素晴らしいドキュメンタリー映画の監督だったんですよ」

セス・スワースキーの2016年作『Circles And Squaes』収録曲“Far Away”
 

──本当にいい曲ばかりで驚きました。

「こういうのって、聴きたい人のもとにちゃんと届くと嬉しいじゃないですか。変な話、洋楽のディレクターなんて、自分で音源を作っているわけじゃないので(笑)。根本的なところって、自分がいいと思った音楽を、多くの人にいいと思ってほしい!みたいなところがモチベーションだったりするんです。そういう意味では〈BeatleDNA〉ってものすごくピュアなプロジェクトだと思います。〈ビートルズが好きなら、これも好きだよね?〉みたいな感じで、友人に聴かせていた頃の延長線上のことをやっているわけですから(笑)」