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溢れながら外へ外へと放たれていくような研ぎ澄まされたエネルギーの動きを感じさせる演奏

そして、肝心のライブの内容はというと……すさまじかった。そんな書き手失格のような言葉しか出てこないくらいに、すさまじかった。途中のMCで西田修大が「来年はもっと合奏形態、やりたいな」と君島に語りかけたくらい、2021年は決して合奏形態としての場数が多い訳ではなかったと思うが、それにしても、このダイナミズムはなんだろうか。1年前の〈層に電送〉では獰猛な動物たちがじゃれ合うような無邪気さを感じさせたが、今年はそうした無邪気さというよりは、溢れながら外へ外へと放たれていくような研ぎ澄まされたエネルギーの動きを感じさせる演奏。もちろん、無観客と有観客の大きな違いはあるだろうが、圧倒的にバンドとしての肉体が、〈君島大空合奏形態〉という物語の輪郭が、しなやかに厚くなっている……そんな印象を受けた。バンドを引っ張っているのは、もちろん君島大空その人である。

この日のライブを観て思ったことは、今の君島に〈禁じ手〉のようなものはほとんどないのだろう、ということだった。序盤で演奏された新曲のハードロックライクなギターサウンドや、随所で聴こえてきた真っ直ぐな歌唱など、かつての君島がどこかでコンプレックスを感じたり、拒絶したりしながら、『午後の反射光』をリリースした頃には自分自身に対して制限すらかけていたと思われるような表現方法が、この日のライブを観ているととても素直に開陳されていたように思えた。もちろん、今ここですべてが解禁されたのではなく、『縫層』、『袖の汀』と、作品を経る毎に徐々に〈君島大空〉は〈君島大空〉へと変化し、回帰していったのだと思う。ライブ中盤に弾き語りでの演奏(赤い公園“KOIKI”のカバーと“向こう髪”)が配置されていたことも、君島にとって独奏と合奏が徐々にシームレスになってきていることの表れなのではないかと思わせられた。また個人的にはハイライトだった“午後の反射光”における、威風堂々とした、曲に閉じ込められていた光を世界に解き放つような伸びやかさには新鮮な驚きがあった。

自分自身の体の動きや、音楽家としてのルーツなど、なにをも否定することなく、今、君島大空は音楽の中に佇むことができているのではないか。先にも少し書いたように、2021年は音源やライブにおいて独奏で行動することが多かった君島。旅の中で自分自身に向き合う時間も多かっただろうが、そうした時間が、今の彼の、音楽家としての凛とした存在感に繋がっているのだろう。

この物語の行きつく先など、私にはなにひとつとして予測なんてできない。しかし、この音楽家はどんな未来にいて、どんな場所にいても、彼自身の音楽を鳴らしているのだろうと確信させられる――そんな素晴らしく、力強いライブだった。



SETLIST
1. Interlude
2. 銃口
3. No heavenly(新曲)
4. 火傷に雨
5. 散瞳
6. 縫層
7. 傘の中の手
8. 向こう髪
9. 白い花
10. 星の降るひと
11. きさらぎ
12. 午後の反射光
13. 遠視のコントラルト
14. 光暈

ENCORE
15. 新曲
16. 笑止
17. 19℃