©Grant Spanier

エモーションやパッションと直結する、繊細にして躍動的なダンス・ミュージック―― 困難の中で創造性を磨いたボノボが豪華ゲストを迎えてキャリア最高傑作を生み出した!

 ブライトン出身のサイモン・グリーンによるプロジェクトで、トゥルー・ソーツに残した『Animal Magic』(2000年)から数えればアルバム・デビューして20年以上も活躍しているボノボ。2003年に移籍したニンジャ・チューンでの活躍ぶりは堅調そのもので、NYに移住して発表した『The North Borders』(2013年)以降は世界的にもブレイク。初期のトリップ・ホップ~ダウンテンポ的な作風からフロアにアピールするダンス・ミュージックとしての側面を際立たせ、さらにLAに移って制作した『Migration』は全英5位まで上昇するコマーシャルな成功を見せた。以降も〈フジロック〉出演を含めて世界中でパフォーマンスしてきた彼だったが、コロナ禍の影響でツアー生活はストップし、2020年4月の来日予定もキャンセル。旅を創作の大きなインスピレーションにしていただけに、自粛期間中の活動には厳しいものがあったそうだ。

 「とにかく音楽を作っていた。経験というものが得られない状況下だったから難しくはあったけどね。でも2021年に入ってからは、なるべく家を出ようとドライヴをして外に出るようになって、だいぶ制作がしやすくなった。砂漠や山、森なんかに足を運ぶようになって、ふたたびインスピレーションを受けるようになったんだ。パンデミックそのものからはあまりインスレピーションを貰えていたとは思わない。だから、そこから無理に何かを作ろうとするのではなく、とにかくそれが終わるのを待っていたね」。

BONOBO 『Fragments』 Ninja Tune/BEAT(2021)

 そうやって完成を見たのが、実に5年ぶりのアルバムとなった『Fragments』だ。「曲自体を書きはじめたのは2019年。ツアーの終わり頃から頭の中にあったアイデアをいろいろ試しはじめたんだ」というからどこまでが青写真にあったのかはわからないが、全体的にはハウシーなシングル曲“Rosewood”が象徴するように、より肉体に訴えかけるダンサブルな側面が強調されているように思える。

 「クラブやダンスフロアに行けなくなってしまったから、それらと繋がっていたくてそうなったんだと思う。だから、アンビエントなものよりもダンス・ミュージックを作りたかったんだ。このレコードがリリースされる頃は、みんながまたダンスをしはじめてるんじゃないかなとも思ったしね」。

 オープニングをしめやかに飾る“Polyghost”ではミゲル・アトウッド・ファーガソンによる弦楽器をフィーチャー。要所で響くララ・ソモギのハープも印象的ながら、今回はボノボ自身のモジュラー・シンセやフェンダー・ローズがアルバム全体のトーンを形作っている印象もある。そのうえで個性的な色をそれぞれに添えるのが、ジョーダン・ラカイやジャミーラ・ウッズ、88ライジングのジョージ、LAのカディア・ボネイといった多彩なゲスト陣の存在だ。

 「ジョーダンとは友人で、しょっちゅう話をしている。だから、ずっと前から自分のレコードに参加してほしいと考えていたんだ。彼は最初のほうにコラボが決まったアーティストで、2019年に、アルバムの中で最初に出来た曲の一つに参加してもらった。彼は2022年の僕のツアーにも同行してくれる予定だ。カディア・ボネイも制作段階の初めのほうですでにコラボを考えていて、アイデアを話したら興味を持ってくれたんだ。今回のコラボは相手と同じ部屋で作業ができなかったからこれまでとは違っていたね。ほとんどがリモートで、ジャミーラにはまだ実際に会ったことがない。ジョージとの作業もリモート。今回は地域や音楽性の違いを意識したというより、曲ごとに合いそうなアーティストにアプローチした感じだね」。

 他にもオフリンと共作したプリミティヴなダンス・トラック“Otomo”(ブルガリアのクワイアをサンプルしている)があれば、かつて手掛けたアンドレア・トリアーナ“Far Closer”(2010年)の声ネタを印象的に散りばめた“Closer”もあり、スピリチュアルな雰囲気と幻惑的なダンス・ビートの躍動感が見事に結び付いている。カディアの歌声がメロウに響く“Day By Day”で幕を下ろす本作は恐らくボノボのキャリアにおける代表作のひとつとなりそうだが、自身のレーベル=アウトライアを立ち上げた彼はここからもさらにフロアを意識した作品を作っていくという。

 「ダンス・ミュージックは戻りはじめていると思う。クラブでまたDJしはじめたのも新鮮で楽しめているし、ダンス・ミュージックが帰ってきたのは嬉しいね。2年くらい起動してなかったから、クラブを初めて経験する世代もたくさん見かけるんだ。それを見るのは凄く興味深いし、彼らがこれからダンス・ミュージックとどう繋がっていくかを見ていくのは楽しみだよ」。

ボノボの近作。
左から、2017年作『Migration』(Ninja Tune)、2019年のミックスCD『Fabric Presents Bonobo』(Fabric)

 

左から、ジョーダン・ラカイの2021年作『What We Call Life』(Ninja Tune)、カディア・ボネイの2018年作『Childqueen』(Fat Possum)、ジョージの2020年作『Nectar』(88rising)、ジャミーラ・ウッズの2019年作『Legacy! Legacy!』(Jagjaguwar)、オフリンの2019年作『Aletheia』(Silver Bear)