クァンティック関連の諸作やノスタルジア77を筆頭に、バンブーズアリス・ラッセルベルルーシュらを送り出し、ゼッド・バイアスマーク・ド・クライヴロウペシェイらにまで手を広げ、日本でも熱心なファンの多いトゥルー・ソーツ。DJのロブ・ルイスによってブライトンで設立されたのが99年ということで、ちょうど立ち上げから15周年を突破したばかりの老舗レーベルだ。看板アクトが揃って選んだ進化の方向から近年は生音志向の強さをレーベル・カラーとして認識する向きが大勢だろうが、往時はクァンティックもノスタルジア77もジャズやソウルをネタ使いするブレイクビーツ系プロジェクトだったわけだし、何よりレーベル設立当初の看板アクトは、移籍先のニンジャ・チューンで開花するボノボだったのだ。……で、このやたら冗長な前置きは、同レーベルの有望新人たるジョニー・フェイスを紹介するためのものでもある。

JONNY FAITH Sundial Tru Thoughts/BEAT(2015)

 歴史的な節目に登場した彼のフル・アルバムこそ今回の初作『Sundial』となるが、変化を繰り返すトゥルー・ソーツの長年の傾向に馴染みのある人なら、彼の創造する楽曲を聴いて即座にボノボを思い出すに違いない。柔かく穏やかに鼓動するビートに乗せて仄明るいメランコリアがゆっくり射してくるオープニングの“Sun Theme”からして〈らしさ〉は全開。具の大きめなソウル・サンプルが目映くループされる次曲“This Love”が流れ込んでくる頃には、すっかりこの男の作り出す世界の虜になっているはずだ。 

 とはいえ、昨年のシングル『Zheng/Slumber』でトゥルー・ソーツ入りを告げたこの才能は、まったく実績のなかった新人というわけではない。スコットランドはエジンバラに生まれ、現在はメルボルンを拠点に活動する彼は、シヴィル・ミュージックから出した音源集『Blue Sky On Mars EP』(2011年)で早耳たちの注目を集めていたDJ/ビートメイカーである。シヴィル・ミュージックといえばオム・ユニットXLIIアイタル・テックのリリースで知られるロンドンのレーベルだが、ミニマルなカットアップを塗した先述の“Zheng”や、デビュー時のフライング・ロータスを思わせる“Thin Air”などの緻密で硬質な聴き心地はそんな経歴を窺わせる出来映えでもあるだろう。もともとDJとしてのジョニーはヒップホップやジャングル、レゲエ、ドラムンベースなどを横断するプレイ・スタイルに定評があったそうで、そうしたバックグラウンドからの影響は『Sundial』という名の森に神秘的なビート・コラージュという形でさまざまな表情を散りばめているとも言えそうだ。

 オーガニックなビートのせせらぎが耳の奥まで流れ込んでくるアブストラクト・ヒップホップの“Slumber”や、神経質なスウィートネスで浸された“Le Sucre”を序盤に据え、アルバムを聴き進めるにつれて樹々の隙間から漏れ入る光の色調は変わっていく。マシューデヴィッドラパラックスばりのサイケデリアがメロディアスに像を結んだ“Lost Earth”、自然環境の蠢きからリズムを拾い上げたようなチルビエント“Garuas”など、どのトラックも素晴らしい。そんななかでハイライトとなるのは、マーヴィン・ゲイ“What's Going On”を敷いて祈りにも似たスピリチュアル・グルーヴを紡ぎ出す“The Calm Before”。そのハウシーなリプライズとなる“Sundial”には、当然のようにムーディーマンスペイセックあたりの残像を見る人もいるかもしれない。いずれにせよ、ジョニーの展開する未来的なメランコリアは、かつてトゥルー・ソーツの謳った〈jazzbreakshiphopsoulfunkbeatsounds〉というテーゼに相応しい手触りも伴いつつ、それ以上の親しみやすさを以て大きく広がっていくに違いない。これは大化けする予感しかしない、と言っておこう。

 

ジョニー・フェイス
エジンバラ出身のDJ/ビートメイカー。メルボルンを拠点に活動を開始し、2011年にシヴィル・ミュージックから初音源集となる『Blue Sky On Mars EP』を配信する。並行してクラブ・イヴェント開催やラジオ番組でのDJ活動を通じて実績を積み、2013年にはフリークェンシー・ラブから『The Europa EP』をデジタル・リリース。以降もエリオットらのリミックスや各種コンピへの楽曲提供を続け、トキモンスタノサッジ・シングらのライヴ・サポートも経験する。2014年末にトゥルー・ソーツと契約し、シングル『Zheng/Slumber』を発表。さらなる注目を集めるなか、ファースト・フル・アルバム『Sundial』(Tru Thoughts/BEAT)をリリース。