©Rosie Foster

 「このアルバムを作っていたときは本当にハイテンションだった。皆、このアルバムの一瞬一瞬をとても気に入っているよ!」(ルイス・エヴァンス)――早くも届いたブラック・カントリー・ニュー・ロードの新作『Ants From Up There』をメンバーはこう語る。ロンドンを拠点とするこのユニークな7人組の、熱狂的な賛辞に囲われた昨年の初作『For the first time』に関してこれ以上の説明的な絶賛を重ねる必要はないと思うが、そこでのクレズマーやジャズ、ポスト・ロックを融合した作法は新作においてさらに大胆に推進され、ミニマルやフォークなど多彩な要素と接合。ジンクスに苛まれることもなくバンドは気負いなく制作に臨み、斬新な試みを通じてより親しみやすいアプローチに辿り着いた。

 「初めてアルバム作りをするときにはとても慎重になる。僕らはあまりにも興奮していて、すべてにおいてサッと動くことができず、とても注意深くて慎重だったんだ。そういう経験や、本当にストレスに感じていることも、実はそれほど問題ではないと学んだよ。いまはもっと気持ちが楽だし、緊張感も少なくて、それはそれぞれの決断の持つ意味が、ある意味、僕らにとって小さくなったからだ。いろんなことでそれほど選り好みしなくなった。それでより心地良くなって、ただ音楽制作することができるようになっている」(アイザック・ウッド)。

 アルバム制作のために彼らはワイト島に3週間滞在。レコーディングはプロデューサーのセルジオ・マシェッコ、エンジニアのデヴィッド・グランショーと進められた。

 「僕らは、とても基準が高くて自分たちの演奏への期待も大きいから、レコーディングがとても難しいバンドなんだ。僕らの頭の中には自分たちが求めるサウンドがあるから、どのテイクを選択するか決めるのは、とても難しい。セルジオがすべてをその場で見ていてくれて本当に助かった――もしも彼がいなかったら、完璧なテイクを取っていたとしてもエネルギーが足りなかっただろうね」(ルイス)。

BLACK COUNTRY, NEW ROAD 『Ants From Up There』 Ninja Tune/BEAT(2022)

 その結果として『Ants From Up There』は、彼らなりの魅力的なポップネスが張り巡らされた作品となった。わくわくするような“Intro”の空気を受けて始まる“Chaos Space Marine”を聴いただけで、期待が裏切られないことを確信する人もいるかもしれない。先行シングルにして「これまで書いたなかで最高の曲」(アイザック)だという同曲は、躍動するヴァイオリンやサックスを筆頭にバンドの成分表示を殴り書きするかのようで、最高潮で直線的に切り込んでくるメロディーも聴き手をアルバムの流れへと一気に巻き込んでくる。

 「この曲には、アイデアがあれば誰のものでもすべて投入したんだ。だから、この曲の制作は本当に速かったし、風変わりで、無分別なアプローチでもあったんだ――とにかく何もかも壁に投げつけて、それをすべてくっつけたままにしておく、という感じだった」(アイザック)。

 そのような豊かなアイデアが制作期間を通じて尽きることがなかったのはどの曲を聴いても明白だ。呟くような歌声で抑え気味に始まりつつ6分かけてじっくり昂揚していく“Concorde”、ドイツはハルダーンでのフェス出演時の即興演奏を書き残して生まれたという“Haldern”、ボブ・ディラン“I’ve Made Up My Mind To Give Myself To You”(2020年)に刺激を受けて書かれたという穏やかで渋い“The Place Where He Inserted The Blade”などアルバム全体に創意工夫が満ち溢れている。

 そしてラストに控えるのは12分半の長尺で高まっていく“Basketball Shoes”。同曲の基礎となる音楽的モチーフは作中で最初に書かれた部分らしく、それが作中を通じて繰り返し響いてくることで、アルバムにアルバムらしい統一感がもたらされているのも興味深い(ルイスはマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』を例に挙げている)。そのようにして綿密に編み上げられた『Ants From Up There』だけに、アルバムとしての完成度は恐らく前作を凌ぐ。控えめに言っても最高の一枚だろう。

 「残りの人生で自分が手掛けるもののなかでも、これが最高の出来事になるかもしれないと認めているような感じ。それでいいと思っている」(タイラー・ハイド)。

 


ブラック・カントリー・ニュー・ロード
ロンドンを拠点に活動する7人組バンド。アイザック・ウッド(ヴォーカル/ギター)、ルイス・エヴァンス(サックス)、メイ・カーショウ(キーボード)、チャーリー・ウェイン(ドラムス)、ルーク・マーク(ギター)、タイラー・ハイド(ベース)、ジョージア・エラリー(ヴァイオリン)が集まって2018年に結成される。翌年にスピーディー・ワンダーグラウンドからデビュー・シングル“Athen's, France”を発表。セカンド・シングル“Sunglasses”を経てニンジャ・チューンと契約し、2021年のファースト・アルバム『For The First Time』が全英チャートで4位まで上昇するヒットとなる。注目を集めるなか、セカンド・アルバム『Ants From Up There』(Ninja Tune/BEAT)を2月4日にリリースする予定。