またもやの別れに翻弄されながら、バンドはそれでも続いていく。新曲のみの実況録音で作られたライヴ・アルバム『Live At Bush Hall』は新しい道を進む6人の現在地を鮮やかに記録している!
昨年2月のセカンド・アルバム『Ants From Up There』が全英3位を記録したブラック・カントリー・ニュー・ロード(以下BC,NR)。それだけにリリース数日前にフロントマンのアイザック・ウッドが脱退するという報せは衝撃だったが、バンドは高まる期待に応えるという選択をした――それも予想外の形で。国内外のフェス出演も控えるなか、残った6人は短期間でライヴ用の楽曲を新たに仕上げてきたのだ。初来日となる〈フジロック〉でもすべて新曲のみのセットリストで臨み、大きな反響を生んだのも記憶に新しい。期間を定めて楽曲群を仕上げなければならない作業はストレスを生むと同時にエキサイティングでもあり、オープンにアイデアを出し合える状況はクリエイティヴな成果に繋がったという。
「それはある意味、何でも好きなことがやれるってことでもあるし、何であれ興味を惹かれたらそれをバンド側に提示できた。とにかく僕たちとしては長く一緒にプレイしてきた6人のミュージシャンがいるっていう事実、そこを信じようとしたっていうか。いろんなものを繋ぎ留める〈接着剤〉の多くが出てきたのもそこからだったしね。それはすごくクールだったし、ああいう形で実験的になれたのはとても良かった。結果にはかなり満足しているし、予想していた以上にまとまりのあるものになったなとも思う」(チャーリー・ウェイン、ドラムス)。
そしてこのたび登場したのが『Live At The Bush Hall』。すべてスタジオ音源の存在しない8曲(+リプライズ1曲)が収まっているが、これらをスタジオに持ち込んでサード・アルバムを作るのではなく、なぜそのままライヴ盤に仕上げたのだろう。
「その時点でもうブッキングされていたフェスなどでプレイするために、このセットをかなりスピーディーに書き上げたんだ。相互に関連性を持たせようとして書いた歌ではないというか、もっと通常のライヴのセットとして書いたものだから、いわゆる〈アルバム〉ではないんだよ。とても良くまとまったライヴ・セットができたから、これはスタジオで録音するのではなく、絶対にライヴ・アルバムとして作ろうと思った」(ルイス・エヴァンス、サックス/ヴォーカル)。
昨年の12月15~16日にブッシュ・ホールで行われた計3公演からテイクを選び、ミックスはジョン・パリッシュが担当。ポスト・プロダクションをあまり加えず、1年足らずの期間で楽曲を育て上げてきたBC,NRの(その時点での)現在が記録されている。メンバーそれぞれの書いた曲はどれも素晴らしく、とりわけ〈Look at what we did together/BCNR, friends forever〉をリフレインする幕開けの“Up Song”には何かを感じずにはいられない。
同曲で歌うタイラー・ハイド(ベース/ヴォーカル)に加え、メイ・カーショウ(キーボード/ヴォーカル)とルイスの3名がリード歌唱を担当しているのもポイント。「私はちゃんと訓練を受けてきたシンガーでもなんでもないわけで、すごく剥き出しにされたように感じる」と語るメイだが、シンガー・ソングライター然とした歌唱や“The Boy”などの自作曲は新たな色をBC,NRに持ち込んでいるし、それは多様な成り立ちを持つ他の曲でも同様だ。4月には待望の来日ツアーも控えるなか、このバンドの備えた可能性はまだまだ広がっている。
「なるべく、新しい曲も含めるべく努力するつもりだよ。いままさにソングライティングをやっているんだけど、ぜひ新曲もいくつかプラスしてやれたらいいなと思ってる」(ルイス)。
「まあ、去年みたいにすべて新曲のセットをプレイするなんて、できればやらずに済めばいいなと思うけどね……あれはホントに凄まじく強烈な経験だったからさ(苦笑)! だから、できればお客さんも聴いたことがある、そういう曲をやれればいいな」(チャーリー)。
苦しみながらもワクワクしながら逆境を乗り切った6人は、まだまだ止まるつもりはなさそうだ。本作のリリースと4月の来日公演、そしてその先の動きも楽しみにしていたい。
左から、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの2021年作『For The First Time』、2022年作『Ants From Up There』(共にNinja Tune)、ジョックストラップの2022年作『I Love You Jennifer B』(Rough Trade)