2021年12月1日にソロシングル第1弾として松田聖子“瞳はダイアモンド”のカバーでソロデビューを果たした矢川葵が、2月16日にソロシングル第2弾として中森明菜の“スローモーション”のカバーをリリース。ソロ活動の開始に伴い〈昭和歌謡、80年代アイドルソングを歌い継ぐ〉と誓った矢川が、前作では原曲の良さを最大限活かしたのに対し、今回はトラックに大幅なアレンジを加えることと、中森明菜らしさの研究を重ねることで、また違った楽曲の魅力を引き出して令和の日本に歌い継いでいる。そんな“スローモーション”や中森明菜の魅力から、2022年3月23日(水)のリリースが発表になったファーストEP『See the Light』のことまで話を訊く。

矢川葵 『スローモーション』 anon(2022)

 

もう1曲は中森明菜さんの曲にしたい

――昨年12月1日にソロシングル第1弾として“瞳はダイアモンド”がリリースされ、その際にもお話を伺いましたが、“瞳はダイアモンド”の反響はいかがでしたか?

「やっと曲を出せたというのもあって、たくさんの感想をいただいて、みなさんがすごく楽しみに待ってていただいてたのが伝わりました。特に“瞳はダイアモンド”は最初の曲ということもあって原曲を大事にしたので、そういうところが伝わったようで嬉しかったです」

――そして今回ソロシングル第2弾として、中森明菜さんの“スローモーション”のカバーが発表されました。前回のインタビューでは〈聖子さんともうひとり、この方にはきちんとご挨拶しないと、という方の曲が決まっています〉とおっしゃっていましたが、明菜さんのデビュー曲を選んだ理由は?

「やっぱり二大巨頭というか、松田聖子さんも中森明菜さんもお二人とも好きなので、もう1曲は中森さんの曲にしたいと思ってました。最終的には自分のオリジナル曲と“瞳はダイアモンド”と合わせて3曲でEPを作る予定なので、そのバランスも含めて〈どれにしようかな〉って考えた時に、“瞳はダイアモンド”は結構しっとりしている曲なので、もうひとつはドラマチックな曲にしたいなと思って“スローモーション”を選びました」

――中森明菜さんの楽曲との出会いは覚えてますか?

「松田聖子さんは母が好きだったのでもともと聴いてたんですけど、そこから80年代アイドルに興味を持ち始めて、その時に明菜さんの曲をいろいろと検索して出てきた曲を聴いてみたら聴いたことはあったんです。でも、同じ80年代アイドルでも、聖子さんとはガラッと印象が違うなって思いました。中森さんはカッコいい系の曲が多くて素敵だなって」

――矢川さんは中森明菜さんにどういう印象を持っていますか?

「最初観た映像だとシックだったり黒っぽい恰好が多かったりしたので、大人っぽくてカッコいい人だと思いました。でもよく観てみると、喋ってる時の笑い方がかわいかったり、何の映像だったかな……“十戒”の時の衣装で笑いながらかっぱ巻きを食べてる映像があって、それがすごくかわいくて(笑)。そういうところは年相応のアイドルなんだな、かわいい一面もある方なんだなと思ってキュンとしました」

――しかしこの後にリリースされるEPには聖子さんの曲も明菜さんの曲も入るわけで、それって……。

「欲張りですよね(笑)」

――(笑)。〈80年代アイドルを歌い継ぐ〉といっても最初から振り幅が広いなと思って。“スローモーション”という曲の魅力はどういうところにあると思いますか?

「まずイントロからして物語が始まりそうな感じがあって、今聴いてもすごくカッコいい曲ですよね。“瞳はダイアモンド”はキーも高くて、今まであまりしてこなかった正統派の歌い方だったんですけど、明菜さんの曲はキーも低めで、割と今までグループでやってた歌い方や声色に近くて、そこもバランスが取れていいなと思いました」

――原曲からキーが半音上がってますよね。テンポも少し上がっていて、“瞳はダイアモンド”とのバランスが関係してるんでしょうか?

「まずBPMを上げようという話になって、私にハマりやすい音域に合わせてキーも上げました」

――“瞳はダイアモンド”は原曲に忠実だけど音は今風にアップデートした印象がありましたが、“スローモーション”はキーやテンポだけでなく結構アレンジが加えられていますよね。

「2曲目のリリースということもあって、1曲目とは変化も見せた方がいいかなという思いもありました。MVも“瞳はダイアモンド”は座って歌ってるシーンばかりだったんですけど、“スローモーション”はずっと動き回る演出をほぼ一発撮りでやっていて、2曲で〈静と動〉を表現したいっていう話をスタッフさんとはしてました」

――〈静と動〉とか〈しっとりとドラマチック〉とか〈忠実とアレンジ〉といったふうに、いろんな要素において対比を考えてるわけですね。自分が感じたのは、2曲とも切ない部分があるんだけど、“瞳はダイアモンド”の方は明るい切なさ、“スローモーション”の方は暗い切なさがあるかなと思ってたので、すごく腑に落ちました。

「分かります、色味が違いますよね。」

――前回のインタビューでも、自分の歌声について〈声に影がある〉と言ってましたが、切ない昭和歌謡にマッチする歌声だと思います。切ないのがお好きですか?

「かもしれないです(笑)。性格から来てるんですかね、根暗……っていうとちょっと違うけど(笑)。いつも私の写真を撮ってくれる友達が、〈私の好きなものと私の似合うものが乖離してなくていいよね〉っていつも言ってくれるんです。そういうことかもしれないです。たしかに好きなものも性格も小さな時からずっと変わっていないので」

 

恋の一瞬のきらめきをスローモーションで

――明菜さんの歌い方は研究しましたか?

「ボイトレの先生に〈次はこの曲を歌います〉ということで、〈“瞳はダイアモンド”との違いも見せたい〉という話もして。聴いた方にどこまで伝わるかは分からないですけど、自分の中で両者には微妙に違いがあって、“瞳はダイアモンド”は発声する時に(頭の)上の方で歌ってるんですけど、“スローモーション”は胸に響かせるような歌い方にしたり、わざとハッキリ発音しない歌い方をしてみたり、そういうことに挑戦しています。聖子さんの歌い方は、例えば〈と〉って歌う時はきちんと口の形を〈お〉の形にするんです。でも明菜さんの歌い方は、ちょっと気だるげな色気のある歌い方で、あえてハッキリしないような歌い方を研究して歌いました」

――そういうところにも注意して聴かないとですね。アレンジ、プロデュースは前回に引き続き千葉大樹(Kroi)さんですが、何かオーダーや話はしましたか?

「最初は硬派なアレンジだったので、もう少しアイドルっぽくキラキラした感じの音を入れたいという話はして。その後、アレンジしたトラックが送られてきて、どんどん楽器が増えて最終的にはカッコいいものが出来上がったので〈すごい!〉と思いました。あと、最後のフレーズで曲がゆっくりになるんですけど、トラックに合わせて歌うのが難しかったので、私の歌に合わせて千葉さんがピアノを弾いて録音してくれました」

――たしかに“スローモーション”はトラックもジャケットもMVもきらびやかな感じはありますよね。MVは、ハイスピードカメラのほぼ一発撮りの映像を、文字通り〈スローモーション〉にしてるそうで。

「監督が、曲が“スローモーション”なので〈スローモーションで撮ろう〉というアイデアを出してくれて。曲自体、恋の一瞬のきらめきをテーマにしているので、一瞬のいろんな出来事をスローモーションで引き延ばしてるようになってます。実際の時間は全部で1分くらいで、それを倍以上にしていて。だから撮るのは本当に一瞬なんですけど、〈ミラーボールだ! しゃぼん玉だ! 風船だ!〉って言ってるうちにもう〈走らなきゃ!〉みたいな感じで。すごく豪華なセットで関わってくださるスタッフの方々もたくさんで、私が1つミスをすると全部撮り直しになるから緊張はしましたね。花火が1本点かなかったから他の花火が燃え尽きるまで眺めてたり(笑)」

――最後には笑顔がこぼれてますよね。

「実はあれが最後のテイクで、時間も迫ってるし、仕掛けやカメラがうまくいかないこともあって、みんなでうまくいくよう祈ってくれてて。で、撮り終えた瞬間にスタッフさんからすごい歓声が上がって、それを聴いて思わず笑った顔なんです(笑)」

――最初は通して観て、2度目は細かい仕掛けにも注目して観てもらいたいですね。