レディー・ガガの金字塔『Born This Way』が10周年!

 近年は主演した映画「アリー/ スター誕生」(2018年)の華々しい成功があり、昨年はダンス・ポップ路線に回帰した『Chromatica』で大ヒットを飛ばすなど、もはや揺るぎないアイコンとして君臨するレディー・ガガ。そんな彼女は今年1月にジョー・バイデン大統領の就任式でナショナル・アンセムを独唱していたが、それよりちょうど10年前に彼女が別の〈アンセム〉を高らかに歌い上げたことを覚えている人も多いのではないか。その楽曲こそ、2011年2月に発表された“Born This Way”である。彼女の同名セカンド・アルバムからの先行シングルとして世に出たこの曲は、圧倒的な商業的成功を収めると同時に、年齢・性別・人種・性的アイデンティティなどを問わず、ありのままの自分で生きる勇気や希望を世界中の人々に与えるアンセムとして、彼女のキャリアにおいても決定的な意味と意義を持つ一曲となった。

LADY GAGA 『Born This Way The Tenth Anniversary』 Streamline/Interscope/ユニバーサル(2021)

 当時のレディー・ガガといえば、エイコンらの後ろ盾を得たエキセントリックな新鮮気鋭の才能として、2008年の初作『The Fame』から“Just Dance”と“Poker Face”が世界各国でNo.1を記録し、すでにネクスト・マドンナの最有力候補といった別格の存在感を濃厚にしていたように思う。リパッケージ盤の『The Fame Monster』(2009年)から“Bad Romance”や“Alejandro”といったヒットが生まれて以降の〈現象〉がグングン拡大していく様子は、〈サマソニ〉出演などもあって日本でもリアルタイムで追っていた人は多いだろう。

 一方で、そこに至るまでの彼女が性的少数者のコミュニティで厚いファンベースを築いていたのも重要で、ブレイク前から〈サンフランシスコ・プライド〉でパフォーマンスしたり、2010年には同性愛者雇用を認めない米軍のポリシー撤廃を訴える演説を行ったことも知られている。〈たとえゲイでもストレートでもバイセクシャルでも、レズビアンでもトランスジェンダーでもあなたは間違っていない〉と語りかける“Born This Way”は、そうしたコミュニティとの密接な関係や理解があるガガだからこそ発信できた、かつてなく直接的な〈多様性のアンセム〉だったわけだ。

 なお、同曲はマドンナ“Express Yourself”(89年)とのメロディーや展開の類似を当時から指摘され、マドンナ自身もそれを逆手に取って2曲のマッシュアップをライヴで披露していたことがある。その類似が偶然なのかどうかはさておき、80年代における進歩的な女性讃歌のメッセージをさらにアップデートしたような意味は明らかじゃないだろうか。

 そんな一曲をタイトルに掲げたアルバム『Born This Way』は、ガガ自身の音楽表現にとっても大きな転機となる一枚でもあった。初作を支えたレッドワンと並び、フェルナンド・ガリベイとDJホワイト・シャドウの両名をプロデューサーとして大幅に抜擢し、サウンド面でもエレクトロニックなダンス・ポップに傾倒、インダストリアルやダブステップなどのエッジーな音使いも導入して硬質な雰囲気を押し出しつつ、全体的には80年代のヒットチャート的なシンセ・ポップ/ロック色が濃く、NYに捧げたオープニングの“Marry The Night”やセカンド・シングル“Judas”でもそのテイストが人懐っこさを保証している。また、“Speechless”(2009年)で見せていたクイーン愛をブライアン・メイとの“You And I”で結実させ、80sダンス・ロック風味の“The Edge Of Glory”ではサックスにクラレンス・クレモンズ(E・ストリート・バンド)を招くなど、曲ごとの音楽性は実に幅広い。急進的な新しさ一辺倒ではなく伝統性を重んじる層にもリーチするセンスと実力こそ、ガガがここまで破格の成功を収めた要因のひとつだったのもよくわかる(なお、東日本大震災の復興支援や直後の来日もあって、『Born This Way』がここ日本においてガガが特別視されるきっかけの作品であったことも付け加えておこう)。

 そんな金字塔から10年経った2021年。社会全体の意識や個々の価値観がどう変わったのか、改めて『Born This Way』を楽しみながらそのメッセージに触れてみるのもいいのではないだろうか。

左から、レディー・ガガの2020年作『Chromatica』(Streamline/Interscope)、マドンナの89年作『Like A Prayer』(Sire)、ブライアン・メイの92年作『Back To The Light』(EMI/ユニバーサル)