©Bryan Novak

The xxのシンガーが心より伝えたいこと、本当の私――ダンス・ミュージックへの愛とポップ・ミュージックの力への信頼を背に、いま彼女は自分自身の愛を祝福する!!

女性同士の愛を表現したかった

 今年の〈フジロック〉では、深夜のRED MARQUEEをThe xxのシンガーとして知られるロミーが大いに沸かせる一幕があった。ライヴではなくDJのパフォーマンスだ。セットのなかで彼女の既発のシングル“Enjoy Yourself”や“Strong”がプレイされると、フロアは高揚感で包まれたのだった。このたびリリースされるロミーのソロ名義でのファースト・アルバム『Mid Air』は、そういった過去のシングル曲と同様、歌モノのハウスに寄せたポップなダンス・ミュージックが詰まっているアルバムだ。ソロでのサウンドをクラブ寄りの音にすることは、彼女にとって自然なことだったという。

 「ダンス・ミュージックはずっと好きで、17歳のときからDJもしていたからね。これまではそういう一面をあまり見せていなかったからリスナーのみんなには意外だったかもしれないけど、今回ソロ・プロジェクトを始めるにあたって、ダンス・ミュージックに対する情熱や、それが持つ多幸感を探究しようと思ったんだ」。

ROMY 『Mid Air』 Young/BEAT(2023)

 『Mid Air』はロミー自身やスチュアート・プライスらがプロデュースを務めているが、なかでもサウンド面で大きな役割を果たしたのがフレッド・アゲインの存在だ。

 「彼とは5年前くらいに出会ってすぐ〈一緒に曲を書いてみよう〉となったんだけど、やってみたらすごく気が合って、それからずっと共作してるんだよね。以降、2人で他のミュージシャンのための曲をたくさん作ってきたんだけど、“Loveher”を書いたときにフレッドが〈これは誰が歌うための曲なの?〉と訊いてきて、そのとき〈これは自分のための曲だ〉と気付いた。そこから、このソロ・プロジェクトが始まったんだよね。フレッドもすごくサポートしてくれて、スタジオでもとても楽しい時間が過ごせた。友情関係があるということが大事なんだと思う」。

 “Loveher”は切ないメロディーを煌めくダンス・サウンドと共存させたクラブ・バンガーであり、レズビアンのラヴソングでもある。この曲がきっかけとなってスタートしたロミーのソロ・プロジェクトは、彼女自身のセクシャリティーやロマンスをパーソナルかつオープンに表現するものになった。

 「クラブ・ミュージックはクィアのシーンでもあるんだけど、女性同士の愛を表現する音楽はあまりない気がして、私はそこに興味があったし追求したかった。若いときの自分に聴かせたくて作ったところもあるね」。

 “Loveher”だけでなくアルバムには多くのラヴソングが収められているが、その表現方法はThe xxと大きく違っているという。

 「The xxではもう少し普遍的な表現をしたいと思っていたし、歌っているオリヴァー(・シム)と私も自分たちのセクシャリティーをプライヴェートなものにしておきたいと考えていた。だから〈I〉や〈You〉、〈We〉や〈They〉を使っていたんだけど、いまは自分のセクシュアリティーをはっきり見える状態にしたいと思って、〈She〉や〈Her〉といった代名詞を意識して使ってる。今回のアルバムでは自分のパーソナルな気持ちを正直に表現したいと思っていて、ステージの上にいる自分と下にいる自分が同じなんだということを理解してもらいたかった。日常生活でも私は〈love her〉という言葉を使ってるし、そういった部分を出したかったんだよね」。

 

ポップ・ミュージックの力を信じている

 同性同士のラヴソングをダンス・サウンドで表現することは、10代の頃にロミーがクィアのクラブに通っていたことに大きな影響を受けている。当時の体験について、彼女はこんなふうに振り返った。

 「ロンドンのソーホーにある〈ゲットー〉というクラブで、初めて入ったときのことをいまでもはっきり覚えているよ。そのとき16歳だったから本当はクラブに入れない年齢なんだけど(笑)、すごく興奮した。私はすごくシャイだったから端のほうに立ってたんだけど、フロアにいる人たちはみんな自由かつオープンにセクシャリティーを表現していて、すごく勇気づけられた。そこでかかっていたのは誰でも知っているようなポップスだったんだけど、それが皮肉めいた形ではなくて、純粋に楽しめるものとしてシェアされていたのがすごく良かった。私もポップ・ミュージックが素直に大好きだから」。

 『Mid Air』はクラブ・オリエンテッドなだけでなく、ポップな歌も魅力。その点もクィアのクラブ・シーンへの想いが込められているのだろう。

 「このアルバムがポップに聴こえるのならすごく嬉しい。というのは、私もヴォーカルがメインになっているダンス・ミュージックをすごく好きだから。みんなが一緒に歌えるようなエモーショナルな曲だよね。私は夜クラブに行って踊ったり遊んだりするのが好きだから、その経験自体がインスピレーションになっているね」。

 ポップなダンス・ミュージックが詰まった『Mid Air』は、ロミーがクィアのクラブ・シーンで自分自身を解放した経験をふまえて、改めてダンスフロアとクィア・コミュニティーに愛と祝福を捧げるアルバムだ。現在、世界中でクィアへのバックラッシュや攻撃が激化しているなかで、ロミーはそれでもポップ・ミュージックにできることはあると話してくれた。

 「ポップ・ミュージックは大衆音楽というだけあって、やっぱりプラットフォームとして大きいよね。届く人の範囲が広いのは、すごくパワフルなことだと思う。だからメインストリームで私の歌のようなクィアのストーリーを広げることができれば、すごく影響があるんじゃないかな。たとえば“The Sea”では〈私は彼女に恋に落ちた〉と歌っているから、ラジオで聴いた人がレズビアンの愛を歌った曲だと気付いて、クィアネスの普遍化に繋がっていけばいいなと思う。そうなれば私のやっていることに意味があると思うし、より多くの人を安心させることにもなると思う。私自身もポップ・ミュージックのファンとして、音楽が人と人とをコネクトする力を信じているから」。

ロミーが参加した近年の作品。
左から、ホールジーの2020年作『Manic』(Capitol)、ジェニー・ベスの2020年作『To Love Is To Live』(20L07 Music)、マーク・ロンソンの2019年作『Late Night Feelings』(RCA)、キング・プリンセスの2019年作『Cheap Queen』(Zelig)

『Mid Air』に参加したアーティストの作品。
左から、フレッド・アゲインの2022年作『Actual Life 3 (January 1 - September 9 2022)』(Atlantic UK)、コアレスの2021年作『Agor』(Young)、ビヴァリー・グレン・コープランドの2019年作『Primal Prayer』(ORG/Transgressive)、アヴァロン・エマーソンの2023年作『The Charm』(Another Dove)

 

『Mid Air』の次に聴くならコレ! 最近リリースのユーフォリックなダンス盤

GEORGIA 『Euphoric』 Domino/BEAT(2023)

ロンドンの才媛がロスタムを迎えた3作目。アルバム全編でバック・トゥ・セカンド・サマー・オブ・ラヴなムードを醸しつつ、フィルター・ハウス“All Night”、ニュー・オーダー調のポップ“The Dream” など多彩なスタイルで高揚感を喚起してくれる。

 

JESSIE WARE 『That! Feels Good!』 PMR/EMI(2023)

スチュアート・プライスを召喚し、さらにディスコ~ハウス路線に振り切った、すでに全方位をアゲまくりの最新作。ラテン~NYガラージの意匠を採り入れたグルーヴはとにかく享楽的だが、そのなかで“Hello Love”など持ち前の優美さを見せる楽曲も映える。

 

HAAI 『Baby, Were Ascending』 Mute(2022)

コラボでの制作やリミックスの提供などロミーとは親交の深いロンドン在住のDJ/プロデューサーによる初アルバム。ハード・ミニマルやレイヴを起点とするフロア仕様のビートと瞑想的なシンセが繊細にミックスされており、独自のフェミニンなムードも堪らない。

 

PEREL 『Jesus Was An Alien』 Kompakt(2022)

『Mid Air』のトランシーな感覚はコンパクト諸作に近い。というわけで、ケルン名門から発表された本作を紹介。〈キリストは宇宙人だった〉というぶっ飛んだ着想のもとで、レフトフィールドなシンセ・ポップを追求。ダンス文化の宗教的側に想いを馳せた意欲作だ。

 

YEARS & YEARS 『Night Call』 Polydor/ユニバーサル(2022)

オリー・アレクサンダーのソロ・プロジェクトになったことで、この3作目では彼のゲイネスをこれまで以上にキャッチーなダンス・ポップとして昇華。“Intimacy”や“20 minutes”などド直球に肉欲を歌った歌詞も、クィアなセンスを堂々と見せるジャケも最高です!

 

LP GIOBBI 『Light Places』 Counter(2023)

テキサス拠点のLP・ジオビーによる初作は、ソフィア・タッカーら多くのゲストが参加した歌モノのダンス盤。みずから弾くリリカルなピアノが特徴のサウンドはフレッド・アゲインの〈Actual Life〉連作にも通じていて、おセンチなユーフォリアが涙腺を刺激してくる。