
待望のオリジナル・アルバムは『文学少女の歌集』を継承する詩情に溢れた名作に。繊細な才能たちと紡いだ彩り豊かな物語のより奥深くへと入っていけば……
現実とは違う日常への憧れ
堀江由衣から届けられた、11作目のフル・アルバム『文学少女の歌集II -月とカエルと文学少女-』。前作『文学少女の歌集』(2019年)の続編的な一作だが、世界観がまったく同じというわけではない。瑞々しく爽やかな文学少女の姿を描く世界観だった前作に比べ、今回は、希望と不安の狭間で揺れ動く、文学少女の内面の〈揺らぎ〉を捉えたような一作だ。

「〈どこか懐かしい街に住んでいる、学生の女の子〉という世界観は前作と変わらないんですが、前作は季節を〈夏〉に絞ったので、今回は〈秋の終わりから冬、そして春のはじまりにかけて〉という季節をテーマにしました。色味としては、前回は白や水色のイメージだったけれど、今回はもうちょっと重く、紺やブルーグレー、水色でも、少しくすんだ水色のイメージ。結果的に、勢いもあれば切なさもある、そんなアルバムになりました」。
これまでも作品ごとにさまざまな世界を創造し、その登場人物になってきた堀江。そんな彼女はなぜ近年、〈文学少女〉というモチーフに惹かれているのだろうか。
「私は『不思議の国のアリス』のような作品が昔から好きなんですが、アリスって、穴に落ちたら違う世界に行くじゃないですか。ああいう、〈ちょっと先に、自分が生きている世界とは違う世界がある〉という感覚に惹かれるんですよね。例えば、私は東京出身なんですけど、〈東京とは違う場所に生まれていたら、どんな生活をしていたんだろう?〉って、別次元の自分を考えるのがすごく好きで。根底に、〈ここじゃないどこかで生まれた自分〉とか、現実とは全然違う日常に対する憧れがあるんです。私が物語を好きなのも、このお仕事を続けている理由も、きっとそこにあって。なので、〈文学少女〉も私の憧れです。この世界観にいる女の子って、飛び抜けたり、ダラけたり、いろんな表情があるけど、なんだかんだ、その街で自分の身の丈や心の丈をきっちり捉えながら、まっすぐに生きているというイメージが私の中にあります」。
アルバムには、作中の色彩をより豊かなものにする2曲の先行シングル“Adieu”と“虹が架かるまでの話”も収録。“Adieu”の作者である、堀江作品にはお馴染みの清 竜人は、聴き手にさまざまな物語を想起させるであろう、深みのある詩情と余韻を持ったラストの“瑠璃色の傘を差して”も手掛けている。さらに特筆すべきは、表題曲となる“月とカエル”をはじめ計3曲を提供したロック・バンド、sajiのヨシダタクミ。堀江とは初タッグとなった。
「sajiさんは男性のバンドですが、どこか澄んでいて、透明感があるんですよね。例えば〈学生時代の感覚を表現したいです〉と作家の方にお願いしたときに、人によっては、実際にキラキラキラ~っていう音を入れる方もいらっしゃるんですが、今回、私が求めていたのはそうではなくて。私が表現したいと思っている繊細な透明感を、ヨシダさんの作る曲は見事に体現して下さっていました。きっと、ヨシダさんは〈エモさ〉をすごく大事にされているんじゃないかと思うんです。〈エモい〉といってもいろんなニュアンスがあると思いますが、ヨシダさんとはその感覚がすごく近いんじゃないかと思いました。結果的に“月とカエル”は、学生さんが旅立つ直前の、怖いような、でも、希望があるような……そういう微妙な心情を表現されていると思います」。
自分にとっての〈文学少女〉像
前作で“この町の丘から”を手掛けた、あさのますみ作詞・大川茂伸作曲のタッグは、今作では美しいバラード曲“スタートライン”を手掛けている。あさのとのやりとりを振り返り、堀江は自身の〈文学少女〉像をより深く、こう語る。
「前作を作っていたとき、あさのさんに〈文学少女ということは、主人公は本を読むのが好きなの?〉と訊かれたんですけど、私の中ではそういうことではなくて。学生時代って、自分の頭の中にあるものを言葉にしたり、それを外に向けて発信するのがそこまで上手くできないんですけど、でも、言いたいことはたくさんあって、小説や詩を実際に書くわけじゃなくても、自分の中でどんどん世界が出来上がっている……そういう子っていると思うんですよ。それが、私にとっての〈文学少女〉なんです。なので、必ずしも文学好きじゃなくてもいい。自分の中で思っていることや言いたいこと、物語が膨らんでいく女の子。例えばヨシダさんが作ってくださった“25:00”の激しさも、大人だったら冷静に受け止められるような些細な出来事が、自分にとっては一大事になっていく……そんな、学生時代ならではの激しさだと思うんです」。
堀江自身が作詞を手掛けた“Wake Up”も、ある種の〈激しさ〉が表現された楽曲と言えるが、この曲の〈激しさ〉はちょっと独特だ。なにせ歌われるのは、〈ねえ聞いて!/驚いて欲しいから 言っちゃうんだけど/めいっぱいダラけたいんだ♡〉――そんな、世界にそっぽを向いてベッドの中の世界に潜り込んでいく、わがままで魅力的な少女の姿。
「女子高生ってキャピキャピした姿が描かれることも多いけど、リアルにはダルそうに見えることもありますよね(笑)。今日はやる気ないけど、明日はがんばろうと思ってる、そんな日の女の子を表現したかったんです。女優さんがインタヴューで〈朝はジムに行って、美容にいいものを食べて……〉って、完璧な受け答えをされているのを見たりしますが(笑)、そうじゃない人だっていっぱいいるわけで、一日中ダラダラしちゃう日だってありますよね」。
4月からはツアー〈堀江由衣ライブツアー 2022 文学少女倶楽部Ⅱ~放課後リピート~〉も開催される。約2年半ぶりとなるツアーだが、久しぶりにバンド編成で回った前回のツアーに堀江も大きな手応えを感じたようで、そのスタイルが踏襲されたライヴになるという。
「それまではお客さんに感情移入してもらえるよう、ライヴを通してストーリーをしっかりと作り込んで、MCもアンコール前くらいしか入れなかったんです。でも前回はバンドさんに演奏してもらって、MCも多めに入れて、ある意味ベタなライヴをやったんですが、それがすっごく楽しくて。より、お客さんとライヴを一緒に作っている感じがしました。MCもしっかり時間をとってやったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったです。例えば、銀行の名前でコール&レスポンスしたんですよ。〈○○銀行の人~?〉って呼びかけると、その銀行にお金を預けている人たちが〈イエーイ!〉って返してくれる(笑)。お客さんのメインバンクがわかるコール&レスポンス(笑)、楽しかったです」。
堀江由衣の近作を紹介。
左から、2012年作『秘密』、2015年作『ワールドエンドの庭』(共にスターチャイルド)、2019年作『文学少女の歌集』(キング・アミューズメント・クリエイティブ)

クリエイターからひとこと――ヨシダタクミ(saji)
皆さん初めまして。saji ヨシダタクミです。このたび書き下ろしにてなんと3曲も!!書かせていただきました。アルバム・タイトルにも溶け込んでいる“月とカエル”。こちらは制作にあたり、堀江さんがイメージされる心景や色、匂いを想起する参考写真をいくつかいただきまして、その写真を眺めながら彼女(主人公)が過ごす世界の1ページを切り取ったような曲を書きました。
他2曲もそれぞれ物語を紡いでみましたので、ぜひお聴きください。僕も彼女たち(楽曲)にライヴで逢える日を楽しみにしております。貴方にとっての今日がきっと晴れますように。
ヨシダタクミ:北海道出身の3人組バンド、sajiのヴォーカル/ギターを務める傍ら、多くのアーティストに楽曲提供を行う。sajiの最新作は2021年のシングル“ハヅキ”。

クリエイターからひとこと――清 竜人
沛然として降る驟雨の中、ハザードを焚くクロスカントリーの中で、堀江さんのことを思い浮かべながら作りました。
楽曲に込めた想いは、ここに記さなくても、皆様に伝わるかと存じます。
堀江さんに書き下ろした楽曲の中でも、とりわけ気に入っております。
この楽曲で、アルバムを締め括ることができて、光栄です。
瑠璃色の傘を差して あてもなく 虹を渡るの。
清 竜人:シンガー・ソングライター。2011年の“インモラリスト”以来、堀江に数多くの楽曲提供を行う。自身の最新作は配信シングル“離れられない”。4月より開催される「清 竜人 弾き語りTOUR 2022」の詳細は〈https://w.pia.jp/t/kiyoshiryujin/〉
●ツアー情報
「清 竜人 弾き語りTOUR 2022」
[日程/時間]
4/8 (金) 愛知 千種文化小劇場
開場18:30 / 開演19:15
4/10 (日) 大阪 ザ・フェニックスホール
開場17:00 / 開演18:00
4/16 (土) 東京 草月ホール
開場14:30 / 開演15:15【追加公演】
開場18:00 / 開演19:00 SoldOut !
チケット:前売¥7,000
取り扱い:チケットぴあ ※電子チケットのみ
一般販売 (先着)
各公演前日 23:59まで発売中!
URL:https://w.pia.jp/t/kiyoshiryujin/