何かに迷っているときに聴けば、そんな自分にそっと寄り添ってくれているような気になる歌声だ。一歩踏み出そうとしているときに聴けば、軽く背中を押してくれる気がする歌声だ。曇りや雨の日に聴けば思いがじわっと内側に沁み込んでくる歌声であり、晴れの日に聴けば軽やかな気持ちになれる歌声。スモーキーで、味わいがある。そんな歌声を持つシンガーのXinU(シンユウ)が、初のEP『XinU EP #01』を2022年4月6日にリリースした。

プロデュースとアレンジを手掛けるのは、M-Swiftの名で国内外で作品をリリースしている松下昇平。『XinU EP #01』は、松下とギタリストの庄司陽太、そしてオリジナル作品の制作はこれが初めてとなるXinUの3人で、じっくり時間をかけて作られた。R&B、ジャズ、ボサノバ、ポップスなどが絶妙にミックスされた、シンプルで洗練されたサウンドと、言葉から景色が広がり、やがてちょっとした気づきを与えてくれもするXinUの歌。それはどのような過程を経て、どのように融合することになったのか。そもそもXinUとはどういった女性で、どのようにして自身の作詞による曲を歌うようになったのか。松下昇平同席のもと、XinUに話を訊いた。

XinU 『XinU EP #01』 Co.lity Music/Virgin Music (2022)

 

あなた(U)にクロス(X)するシンガーXinU

――初のEP『XinU EP #01』が4月6日にリリースされました。今どんな気持ちですか?

XinU「0(ゼロ)から1(イチ)に進むことを、この1年間かけてやってきたので。やっと出産できたような初めての感覚がありますね。ちょっと難産でしたけど。ホッとしたというよりは、気持ちが引き締まる思いです」

――まわりの人たちの反応はどうです?

XinU「以前の私を知っている人ほど、〈こういうことを考えて、こういう言葉を歌う人だったんだ?!〉って思っているようです。これまでもシンガーとしての活動はしてきましたが、自分の気持ちを曝け出すことがなかったので」

――以前はどういった曲を歌っていたんですか?

XinU「オリジナルをやるようになる前は、ライブハウスやジャズのお店でジャズのカバーを歌っていました。主にスタンダードです。あとはスコットランドとかのトラディショナルも」

――XinUというネーミングはどういったところから?

XinU「初めはプロジェクトの名前だったんです。出会って一緒に音楽を作りたいと思う人と流動的にやっていけたらいいなと思っていて、そういう意味でミュージックコレクティブという言い方をしていました。

でも今はひとりのシンガーとして、XinUを名乗っています。あなた(U)にクロス(X)する、という意味です。それと、日本語にこだわって歌詞を書いているので、アジア発のイメージをつけたくて。シンユウという響きがアジア的でいいなと思ったんです」

 

ピアノ、大衆演劇、合唱をルーツに〈歌〉で表現

――音楽を志したきっかけを教えてください。

XinU「母の姉がピアノの先生だったので、3歳からピアノを習っていたというのがひとつ。

それと中学生のときに大衆演劇にハマったことも大きかった。地元の文化会館みたいなところに、ある劇団が来たのを観て、音の迫力や演技に感動したんです。それまでは人前で歌うことも喋ることも苦手だったんですけど、そのときから徐々にステージで歌ってみたいという気持ちが強くなった。

あと、高校のときは合唱部だったんですが、その頃アカペラのテレビ番組『ハモネプ』が盛り上がっていたんですよ。その影響で、大学に入ってアカペラをやるようになって。歌うことが自分の表現になりました」

――歌詞を書くようになったのは、いつ頃からですか?

XinU「本格的に書くようになったのは、松下さんと出会ってからですね。それ以前もいくつかは書いていましたけど、松下さんと出会って、このEPの制作が始まってから量を書くようになったし、研究もするようになりました」

――どういった研究を?

XinU「日本語で全部書くということは決めていたので、日本のアーティストのいろんな曲を聴いて、音としての言葉のハマり方とか組み立て方を参考にしたり。

松下さんと出会って最初に作ったのが“鼓動”なんですが、そのときはまだ音としての言葉のノリを意識できていなくて、ただ素直に書いただけだったんです。けど、そのあと“オモイオモワレ”を書くときにノリの大事さに気づいて、そこから拘るようになりました。韻を踏んでみたり、英語の曲のようにサビの1音に2つか3つの言葉を乗せるのは可能なのかと試してみたり。そういうことを探りながら歌詞を書くようになったのは、この2年くらいなんです」